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枡野浩一 著 『石川くん』

石川くん
石川くん
posted with amazlet on 07.09.18
枡野 浩一
集英社 (2007/04)
売り上げランキング: 163483


「やはらかに 柳あをめる 北上の 岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに」

「たはむれに 母を背負ひて そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず」

「不来方の お城の草に寝ころびて 空に吸われし 十五の心」

…小中学校の国語の教科書で、一度は目に、耳にしたことがあると思いますが、明治時代を代表する歌人、石川啄木の代表的な歌です。


これらの歌からは、啄木自身がお母さん思いの優等生で、苦労に苦労を重ねた結果、若くしてなくなった人というイメージを抱いていた人も多いと思いますが、啄木は、自己顕示欲が人一倍強く、その部分に触れられるとどんな人間に対しても反発をし、子供の時から母親に溺愛されたせいか我儘な大人だったと言われています。


また、「望郷と漂泊の人」などと呼ばれ、生涯、様々な町…特に北海道を転々としますが、その北海道を後にして東京へ出てわずか4年後に多額の借金と貧困生活のまま、啄木は肺結核によって26歳という若さで亡くなってしまいます。


石川啄木が生存中に出版された作品は、詩集「あこがれ」と歌集「一握の砂」の2冊だけ。
亡くなってすぐに第二歌集「悲しき玩具」が刊行されましたが、いずれの作品も認められて、啄木自身が国民的歌人・詩人となっていくのは、亡くなった後のことになります。しかし、その苦難の生活の中から生まれた哀切で切実、自分の内面を吐き出した叙情的な歌は、教科書にも掲載されるほど有名になり、愛され続けています。


さて、今回ご紹介する『石川くん』という本は、著者であるイマドキの歌人・枡野浩一さんが、90年以上前の"石川くん"こと石川啄木の歌を現代の言葉で訳して詠み直し、その歌に合わせて枡野さん流の「お返事」的エッセイを添えることによって、思わず笑ってしまうほどリアルな"石川くん"の姿をユーモラスに描いた作品です。


もともと、この『石川くん』は「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載されていたものです。
連載中からの大きな反響を受けて2001年に書籍化され、今年4月に"復刊"という形で文庫本化されました。朝倉世界一さんが手掛けた挿し絵もユニークで、枡野さんが描く"石川くん"像をうまぁ~く表現しています。


ウェブ連載だったという性格上、文章の長さはバラバラですが、「石川くんと妻」、「石川くんと仕事」、「石川くんのプライド」、「ありがたい石川くん」というように、取り扱われる歌に合わせて、それぞれにタイトルが付けられています。


では、"マスノ短歌化"された啄木の作品をいくつか挙げてみますと…
「はたらけど はたらけど猶 わが生活樂にならざり ぢっと手を見る」
これも大変有名な歌ですが、枡野さんに掛かればこうなります。
「がんばっているんだけどな いつまでもこんな調子だ じっと手を見る」
この歌に対してのエッセイでは、"石川くん"があまり働き者ではなかったことがわかります。

「一度でも 我に頭を下げさせし 人はみな死ねと いのりてしこと」
この短歌の現代語訳はこうです。
「一度でも 俺に頭を下げさせたやつら全員 死にますように」
"石川くん"は、もの凄く強気な人だったんですね。

「目さまして 猶起き出でぬ兒の癖は かなしき癖ぞ 母よ咎むな」
この短歌の現代語訳は…
「目ざめても ふとんの中でぐずぐずとしちゃう駄目さを 責めないでママ」
"石川くん"の良くも悪くも甘えん坊な部分が存分に出ています。


また、「大という字を百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて帰り来たれり」(大という字を百以上砂に書き 死ぬのをやめておうちに帰る)という歌に対して、枡野さんは「石川くんと砂」というタイトルで"お返事"を書いています。

「石川くん、早まっちゃ駄目だ!どんなに駄目な男でも、死んでいるよりは生きているほうがいい!とは限らないかもしれないけど…。君が死んだら借金はどうなるの?妻や子やママは?君にはまだなすべき仕事があるんじゃなかったのか?君みたいな男だって、いてもいいし、いてほしいと、おもう私だ」

もうこうなると、救いたいのか救いたくないのか分かりませんが(笑)、屈折したラブレターに見えなくもないですね。
それから、巻末には、枡野さんなりの視点と文章で構成された「石川くん年譜」やよく教科書に載っている作家さんたちの顔に"自分なりのユーモラス"を付け加えていた人も多いと思いますが、啄木の肖像画に書かれたイタズラ書き集もあって、懐かしくも面白いです。


内容的に、何を言っているのか…ということはもちろん大切ですが、文体(文語体)の持っている言葉のリズムや響きから生まれる情緒があって、格調高く感じられるものだなぁ…と、枡野さんの口語訳を読んで改めて思いました。
しかし、それによって崇められる文人というよりは、身近にいる、人生に悩んだ一人の人間像が、現在に甦っているような気がしました。


読めば読むほど、石川啄木というイメージがガラリと変わるような気がしますが、不思議なことに、啄木という"愛すべきダメ人間"ぶりに、"しょうがないなぁ…"という感情だけで愛着すら持ち始めていることに気付くと思います。枡野さんの書きっぷりは、決して啄木の素行の悪さを庇い立てせず、お笑い風にいうなら、イジってイジってイジり倒しています。そうすることで、20代の若者の"素"が見えて、一方的にイジられる"石川くん"が段々と愛しく思えてくるのかもしれません。
読み終える頃には、教科書でしか知らなかった石川啄木のことを"石川くん"…と呼びたくなっていると思います(笑)。

投稿者 : 番組スタッフ | 投稿日 : 2007年09月18日

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