<2021年12月26日>今年を振り返って~2021年後半~

東京2020オリパラ開催 コロナ感染防止だけでなく自然災害、テロなどの対応も含め安全・安心な大会運営が求めらました。個人としては、聖火リレーランナーとして、復興しつつある東松島市を走り、沿道の皆さんから笑顔と励ましをいただきました。
第30回国際津波シンポジウム開催 2年に一度開催され、世界約30カ国から津波研究者や防災関係者が参加し、津波警報・被害予測・津波避難・津波防災教育等について幅広く議論を行う場です。7月に「東日本大震災から10年―経験と教訓を次世代へ―」をテーマに開催されました。
第17回世界地震工学会議開催 4年に一度、世界中の地震工学や地震防災の専門家が一堂に会し、世界の地震災害の軽減を目指し、耐震・防災技術や社会制度、教育やトレーニングシステムの開発などハードとソフトの両面からの地震防災対策について意見を交わす国際会議が9月26日から10月2日まで開催されました。
デジタルアーカイブ学会in 仙台開催 10月15日・16日ハイブリッドで開催。東日本大震災から10年を迎えた震災アーカイブの課題と展望が話し合われました。他に、せんだいE-Actionとの連携、酒田市飛島での防災啓発ビデオ制作、デザインフェスティバル2021での台湾デジタル担当大臣オードリー・タン氏との対談などがありました。
https://www.forum8.co.jp/fair/df/day3.html
災害関連では、7月27日、台風8号が宮城県に初上陸。地球規模気候変動の影響を受けて、台風の規模や進路さらに影響も変化しています。10月7日首都圏地震で32人がけが、交通機関の停止で多くの帰宅困難者がでるなど課題が残されました。

<2021年12月19日>今年を振り返って~2021年前半~

東日本大震災10年に関係するイベントやシンポジウムが開催されました。
1月21日 21世紀文明シンポジウム~東日本大震災から10年 復興の教訓と未来への展望~復興はどこまで成し遂げられたのか、残された課題にどのように取り組むべきか、さらにはその経験や教訓を次なる巨大災害への備えや復興にどのように生かすべきかを議論いたしました。
2月27日 東北大学震災10年シンポジウム10年間の活動を総括し、いただいた支援への感謝を示すとともに、10年目以降の未来に向けた新たな決意を表明しました。
震災復興新生研究機構からグリーン未来創造機構へ
https://www.ggi.tohoku.ac.jp/
3月6日、7日 仙台防災未来フォーラム 東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、発表や展示、体験型プログラムなどを通じて市民のみなさまが防災を学び、日頃の活動を発信しました。
https://sendai-resilience.jp/mirai-forum2021/
7日には、IRIDeS定例シンポジウム特別企画~東日本大震災から10年とこれから~も開催されました。
また、震災が発生した3月11日を「防災教育と災害伝承の日」とするよう、2月に制定に向けての記者発表を行いました。
5月20日 災害対策基本法が改正され、市町村が発令する避難情報が大きく変わりました。
6月12日 イオンと「産学連携協力に関する連携覚書」の締結調印式を行い、共同研究部門を設置いたしました。
2月13日に福島県沖、3月20日、5月1日に宮城県沖を震源とする地震が発生し、被害も出ました、教訓が活かされた対応もありましたが、避難などで課題も残されました。

<2021年12月12日>地質時代「人新世」の提案~人間活動の再評価

本日、地質時代について、しかも新しい時代(名)になるかもしれない名称について紹介いたします。地球の歴史は、地質の違いなどを基に地質時代と呼ばれています。「古生代」「中生代」「新生代」などの大きな区分があり、恐竜が地上を支配した「ジュラ紀」などがあります。実は、さらに細かく100超の区分があるのは余り知られていないかと思います。今は新生代であり、その始まりは、巨大隕石の落下で恐竜など多くの生物が絶滅したと言われる6600万年前です。現在は、その新生代の第四紀のうち、最終氷期が終わった「完新世(かんしんせい)」と呼ばれていますが、今、地球史的な地質年代のスケールで、人類という存在が大きな影響力を与えていることから、この現実を示す新用語が生まれようとしています。それは、「アントロポセン-人新世(ひとしんせい)」という名称で、人類の時代という意味です。ノーベル賞受賞科学者クルッツェンは、人類の活動による大規模な環境変動は地球の姿を変え、地質学的に新たな時代「人新世」に突入していると述べられています。ただ、認定には国際地質科学連合の審査と承認が必要で、現状ではまだ審査中だそうです。
一方で、すでに用語の普及は先行しており、地質学や環境科学など自然科学分野にとどまらず、哲学、歴史学、文化理論からフェミニズム、人文学、ポップカルチャー、環境アートに至るまで広範な影響力を及ぼし始めています。21世紀に入り分野を越えたホットワードとなったこの用語(考え方)は、あらゆる側面で現実の捉え方に再考を迫っていると言えます。地質年代区分として正式名称に認められるかどうか注目されています。

<2021年12月05日>台湾のオードリー・タンさんと対談しました

11月19日に開催されたデザインフェスティバル2021で、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンさんとともに「Digital Social Innovation~DX時代のインフラ強靱化、防災ITの推進~」というテーマの鼎談を行いました。もう一人の参加者は、グリニッジ大学のエドウィン・R・ガリア教授です。オードリーさんの特別講演のテーマは、B3W「より良い世界再建」(B3W、Build Back Better World)構想の推進におけるIT、DXの貢献等についてで、その後質疑応答形式で行われました。
オードリー・タン氏は、台湾の国家発展委員会のオープンデータ委員会委員及び国民基本教育のカリキュラム委員を務め、台湾の歴史上初の試みであるネット規則制定プロジェクトを主導、2016年10月に35歳の若さで行政院に入閣し、政務委員(デジタル担当)を務めています。最近では、コロナ感染拡大防止を主導され、世界的にも注目されました。エドウィン・R・ガリア 氏は、英国グリニッジ大学火災安全エンジニアリンググループ(FSEG)を創設、最新の高精度避難モデリングソフトEXODUSを開発しており、特に、避難(体制)解析の世界的権威として論文や著書が多数あります。
まず、今村より東日本大震災での地震・津波およびその被害について紹介し、当時、津波警報が出されたが第一報は過少評価だったこと、観測や解析が進むにつれて精度が高まったものの、そこでは情報のトレードオフがありそれに応じた対応計画が必要であることを述べました。それに応えて、オードリーさんからは、台湾においても1999年9月21日の921大地震や、2009年8月の台風水害などの大規模な災害では様々な対応が必要であり、そこには信頼できる情報が重要であったことが述べられました。ガリアさんからは、エビデンスに基づき現実に適したパラメータの設定が重要で、その精度や信頼性についてコミュニケーションを通じて市民に理解をしていただく必要があること、特に、防災については、情報の信頼性と適切な対応に結びつくITが必要であることなどが述べられました。
https://www.forum8.co.jp/fair/df/day3.html

<2021年11月28日>震災越えて花は咲く、ミズアオイ群生

東日本大震災は、動植物などの生態系にも影響を及ぼしました。震災前と比べて沿岸域での地形も大きく変化し、水域や陸域でも大きな変化が生まれました。絶滅に近い状態になった動植物も少なからず報告されています。その中で、本日は、ミズアオイについて紹介したいと思います。震災前、このミズアオイは環境省の準絶滅危惧種で、いわてレッドデータブックではAランク(絶滅の危機にひんしている)に分類されています。岩手県立大名誉教授の平塚明先生などが研究されています。
https://www.iwate-p.co.jp/article/2021/9/3/102182
そのミズアオイが、震災の津波により大きく地形変化した場所で、突然現れてきたのです。ミズアオイの群生は震災前には見られなかったもので、津波によって地中に埋まっていた種子が掘り起こされて自生したとみられます。今年も9月に、釜石の湧水池に綺麗な花を咲かせました。津波に耐えた木や植物などは、復興への勇気を与えてくれましたが、このミズアオイは、津波が生んだ新たな命(再生)になります。2012年には、原発事故の警戒区域だった福島県楢葉町の前原地区にもミズアオイが咲き乱れていました。東日本大震災で津波に襲われた一帯は地盤沈下し、水が引かなかったため湿地となりました。この8月に警戒区域が解除されましたが、今も周辺にはがれきが残り、町が委託した草刈り作業が続いています。また、最近、浪江町川添地区の水田跡地にも繁殖し、青紫色の花を咲かせています。
津波の傷跡に咲く可憐な花 準絶滅危惧種のミズアオイ
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201209180807.html

水田跡地でど根性 準絶滅危惧種ミズアオイ華やか 福島・浪江町川添地区
https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021090590039

<2021年11月21日>酒田市での防災の取り組み~飛島での啓発ビデオ作成

https://tsunamibousai.jp/report/08/
昨年から山形県酒田市での防災の取り組みに協力させていただいています。今年9月には飛島での津波避難と観光案内を兼ねたビデオを作成いたしました。この試作品が出来上がり、『令和3年度「津波防災の日」スペシャルイベント~誰一人として犠牲にならない津波防災に向けて~』において、田村康隆氏(酒田市総務部危機管理課主事)によりご紹介を頂きました。
酒田市には、北西の沖合に浮かぶ山形県唯一の有人島「飛島」があり、人口174人(R3.8.31時点)で、島民以外にも観光客や工事関係者等が訪れています。津波が発生した際、誰一人として犠牲者を出さないためにも、現地踏査、島民アンケート、島民との交流会等を行い、津波避難対策の強化を進めています。また一方で、現地の津波の特徴を知らず、土地勘がない旅行客らが、万が一の際に確実に避難行動をとれるように、飛島の避難路等を広く周知するための広報映像(ビデオ)を制作したものです。この映像では、観光客が過度に恐怖心を抱いて旅の楽しみを失わないよう、「防災」と「飛島の魅力」が同時に伝わるように工夫しながらも、津波の特徴や避難方法は確実に認識してもらえる内容としました。フェリー乗場の待合室やフェリー内の上映に加えて、Youtube等で、今年度中に放映する予定です。

<2021年11月14日>デジタルアーカイブ学会in 仙台について

10月15日 (金)・16日 (土)、 デジタルアーカイブ学会in 仙台が開催されました(ハイブリッド開催)。吉見俊哉デジタルアーカイブ学会会長 と実行委員長を務めた私からの開会あいさつのあと、「3.11東日本大震災から10年を迎えた震災アーカイブの課題と展望」をテーマに、リアルとデジタルのアーカイブの意義と未来について活動紹介と議論を頂きました。
数年前から伝承施設などが整備され、そこでの展示機能が向上するなかで、デジタルとリアル(展示)などの連携・融合が見られています。例えば、岩手県では、施設などの訪問の前に、デジタルで事前学習することにより、実際のリアル展示や被災地での訪問で効率的に学ぶことができ、その後にデジタルで復習するなど、学習効果が上がっている報告がありました。さらに、岩手県の東日本大震災津波伝承館施設には、教育委員会を通じて教員が派遣(2年間)され、展示を通じた学習方法機能を模索している場所もあります。任期を終えた教員は、また学校現場に戻り、施設や資料利用の有効性を伝えています。
【伝承館事例報告】
岩手県東日本大震災津波伝承館(藤澤 修氏)
みやぎ東日本大震災津波伝承館(田代 浩一氏)
福島県東日本大震災・原子力災害伝承館(瀬戸 真之氏)
岩手県(いわて震災津波アーカイブ〜希望)(高杉 大祐氏)
宮城県図書館(アーカイブ宮城)(加藤 奈津江氏)
国立国会図書館(中川 透氏)
東北大学(柴山 明寛 災害科学国際研究所准教授、コーディネーター)

<2021年11月7日>津波防災の日・世界津波の日

https://weathernews.jp/s/topics/202011/040095/
11月5日は「津波防災の日」です。東日本大震災発生後の2011年6月に制定されました。「津波対策の推進に関する法律」で定められ、さらに2015年12月には国連総会で、多くの国々の支持を得て、同日を「世界津波の日」と定められました。
当時、制定の日については、議論がありました。東日本大震災の3月11日やインド洋大津波の12月26日等が候補に挙がっていましたが、最近の津波災害を振り返るだけではなく、歴史からの多くの学びを促さなければならないということで、歴史的な津波災害の日の提案があり、「稲むらの火」という逸話にちなんで11月5日(旧暦)を選定しました。この話は、江戸時代後期の1854(嘉永7)年に発生した安政南海地震の際に村人を津波から救った和歌山県広川町の実業家、濱口梧陵(はまぐちごりょう)をモデルにしています。濱口が火を放ったのは高台に建つ神社近くの稲むらで、暗闇のなかで村人たちはその火を消そうと駆け上がり九死に一生を得たのです。ここで改めて注目したいのが神社の立地です。そこには津波防災の知恵が隠されているからです。東日本大震災のあとで神社本庁が行った調査によると、被災地にある数百年以上の歴史を持つ神社約100社のうち、直接的な被害を受けたのは2社にとどまりました。神社がひとたび津波の大きな被害を受けると、より安全な被害を受けなかったところに移動して再建されたものと考えられます。実際に東日本大震災でも、岩手・宮城・福島の各県で『神社に避難して助かった』という声を数多く聞きました。神社は高台や浸水域の境界に建立されているため、緊急時の避難所としての役割を担います。また、神社には大きな木々が鎮守の森として残っていることが多く、それが津波の被害をおさえる効果をもたらしているのです。お祭りは究極の防災訓練とも考えられます。

<2021年10月31日>レジエンスR-EICTプロジェクト

東日本大震災後も、毎年のように各地を襲う大規模自然災害により、長期停電やブラックアウトといった、情報通信ネットワーク途絶を長期化させる事態が発生しています。そこで今提案され、本格的実施が始まるプロジェクトの1つが「レジエンスR-EICT(Resilient Energy Information Communication Technology)」になります。東北大電気通信研究所の尾辻泰一教授が代表のプロジェクトです。
Soceity5.0S基盤として、情報通信ネットワークと、それを支える電力ネットワークの 耐災害性を一層強化することは大変重要なテーマであります。スマートシティ/コンパクトシティ等のレジリエンス強化のためには、様々な技術が必要です。例えば、デジタルツイン(実空間と仮想空間)による防災や緊急医療のプラットフォームの実現、並びに地域のエネルギーシステムの強化です。すでに、ICTは検討されていますが、情報システムを稼働させるためには、電力の供給が大前提なのです。電力ネットワークの耐災害性の一層の強化が必要です。
【自律分散協調型直流マイクログリッドの全体最適化を実現する電力・通信融合ネットワーク基盤技術の創出】 2019年度JST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA) に採択されました。
【スマホdeリレーの実証実験】スマートフォンのWi-Fi 機能を利用したメールリレーにより、通信事業者の携帯電話回線を使わずにメールの送受信に成功しています。災害で孤立した地域での有用な通信ツールとして、スマートフォンだけで自由自在にネットワークが構築できます。このスマホ deリレーの社会実装を目指し、2013年仙台市中心部にて実証実験を行い、約2.5kmのメールリレーに成功、2016年8月には、フィリピンのサン・レミジオ市にて一般市民を対象とした参加型ワークショップを開催しました。

<2021年10月24日>10月7日の首都圏地震

首都圏直下で10月7日深夜に最大震度5強(川口市、宮代町)を観測した地震により多くの被害を出しました。マグニチュードは5.9(暫定)深さ75kmになります。内閣府はM7級で浅い震源の首都直下地震を想定していますが、今回は規模が小さく震源が比較的深かったため震度も比較的小さかったようです。しかし、総務省消防庁の8日朝の集計によると負傷者は32人、うち重傷は埼玉県で2人、千葉県で1人になります。最終的に、負傷者は43名となりました。鉄道の運転見合わせが相次ぎ、帰宅できない人が続出したほか、一夜明けた運転再開後も大幅な遅れにより、多くの人が通勤通学に困難をきたしました。運休などで36万人に影響を与えたと推定されています。特に、脱線した新交通システム「日暮里・舎人(とねり)ライナー」は復旧までに4日かかりました。さらに、2件の火災発生、水道管からの漏水やエレベータの停止・閉じ込めがありました。
「東日本大震災から10年が経過したのに、帰宅困難者への対応が遅れてしまった。10年前の教訓はどう生かされているのか?」という指摘もあります。東大の廣井悠教授は、「帰らせない・迎えに行かせない」という対応が重要と訴えています。『移動のトリアージ』と呼称していますが、帰宅行動はいったん社会全体で抑えて、限りある道路空間を消防活動や救急活動に優先させよう、という考え方です。
https://news.yahoo.co.jp/byline/hiroiu/20211008-00262276

<2021年10月17日>せんだいE-Actionとは?

環境活動に関わる市民、企業、行政などが組織した「せんだいE-Action実行委員会」が協働して取り組む、3E(省エネ・創エネ・蓄エネ)啓発プロジェクトです。「①省エネ・節電行動の推進」「②グリーン購入の促進」「③緑のカーテンの促進」の3つの取り組みを柱に、各団体の特色を生かして3Eの普及啓発と地球温暖化対策のイベントやキャンペーンを展開しています。2013年から毎年、「伊達な節電所キャンペーン」を実施して、広く市民や事業者に節電行動を呼び掛けています。
https://www.tamaki3.jp/e-action/
最近は、「防災X環境」コラボ企画も始まりました。第一弾として、「仙台防災枠組ってなに?~私たち一人一人に出来ること~」という動画を制作、8月25日から公開しています。
https://www.tamaki3.jp/blog/?p=30559
2030年までの国際的な防災の指針「仙台防災枠組」について、伊達武将隊の伊達政宗公が私や泉貴子准教授にインタビューされています。仙台防災枠組は、パリ協定やSDGsとともに、2030年に向けた3つのグローバルアジェンダと呼ばれていること、優先行動(地域の災害リスクへの理解、定期的な避難訓練への参加等)、森林が雨水を地面に浸透させ緩やかに流すことで洪水や土砂災害を和らげる機能を持っていることや、防災・減災の視点からも、環境や生態系の保護に努めることが大事であることなどが紹介されています。自然災害が増えている今だからこそ、防災や環境について一人一人にできることを考えてみませんか?コラボ企画第2弾も準備中です。

<2021年10月10日>2018年インドネシア・パル地震津波から3年

2018年9月28日夕方、インドネシアSulawesi島パル市を含む周辺で地震・津波等が発生しました。地震の規模はM7.5、横ずれ断層と推定されています。地震の震源地はスラウェシ島中部のドンガラ市の北東約27kmで震源の深さは約11Kmと推定されました。この地震の揺れにより、ホテルや病院などの建物に被害が生じ、地滑りや液状化で集落ごと流された地域もありました。さらに、震源が陸であり本来被害を及ぼすような津波は発生しないはずですが、沿岸部で津波により多大な被害が生じました。しかも揺れが収まるか収まらないかのタイミングで津波がパル市などの湾の奧に来襲したのです。インドネシア政府の報告によると、地震、津波、液状化現象による大規模な泥流により4,340人が死亡し、667人が行方不明となりました。
今回の津波のケースでは、従来の地震情報による津波警報の発令が難しいことになります。この津波は、地震が震源で起こした「普通」のものではなく、地震によって引き起こされた海底地滑りが起こしたものだからです。通常の震源よりもずっと近くの沿岸部で津波が発生、また、震源の場所が遠いのに、津波がわずか3分でパル市などを襲ってきたこともありました。このほか陸上でも広い範囲で液状化が見られて、泥流も発生していました。緩斜面にもかかわらず、地上でも地滑りにより1キロメートル以上も滑ったことになります。

<2021年10月3日>深発地震について

9月14日午前7時46分ごろ、東海道沖の深さ450キロで地震が起こり、東京、茨城、栃木で震度3、神奈川や宮城など広い範囲で震度2を観測しました。マグニチュードは6.2と推定されます。震源の深い「深発地震」とみられます。深発地震による「異常震域」と呼ばれる震度分布がみられ、震央付近では震度1以上の揺れが観測されなかった一方で、震央から離れた場所で揺れが観測されました。
この深発地震とはどのような地震でしょうか?最近の研究では、上部マントルの底付近に横たわるスラブ(沈み込んだプレート)が下部マントルへ突き抜ける前兆と言われています。2015年5月30日の小笠原諸島西方沖深発地震は、300㎞以深の地震としては1906年以降5番目の大きさでした。震源について地震波トモグラフィーなどで解析した結果、沈み込んだプレートの折れ曲がり部分で下へ行こうとする力が働いていたようです。
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/20161208/
地球表面は岩盤でできた十数枚のプレートに覆われおり、プレートはそれぞれの方向に動いていて、ぶつかりあう境目では片方がもう一方の下に沈み込むことがあります。地球内部に沈み込んだそのプレート部分を「スラブ」と呼びます。冷たいために重いスラブは上部マントルを沈んでいきますが、深さ660㎞付近にある上部マントルと下部マントルの境界にくると、そこにたまるようになります。しかし、圧力により、下部マントルの方が密度が大きくなります。周囲より冷たいスラブはこの構造の変化が遅れ、やがて下部マントルへ突き抜けて落ち始めます。
今年1月15日にも、三重県南東沖の深さ約390kmを震源とするするM5.3の地震が発生、日本海溝/伊豆・小笠原海溝から西に向かって沈み込む太平洋プレートの周辺で発生した地震とみられます。
https://weathernews.jp/s/topics/202101/150195/

<2021年9月26日>第17回 世界地震工学会議の開催について

第17回世界地震工学会議が9月26日から10月2日まで開催されます。この会議は、4年に一度、世界中の地震工学や地震防災の専門家(研究者と実務者)が一堂に会し、世界の地震災害の軽減を目指し、耐震・防災技術や社会制度、教育やトレーニングシステムの開発などハードとソフトの両面からの地震防災対策について意見を交わし、世界の地震災害の軽減を目指す国際会議です。前回のチリで開催された第16回世界地震工学会議において、開催地として立候補していた日本(仙台)・インドネシア(バリ島)・ニュージーランド(オークランド)・メキシコ(カンクン)の4都市の中から、投票により日本での開催が決定しました。日本での開催は1960年(東京・京都)、1988年(東京・京都)に次いで3回目で、日本の地方都市単独での開催は、今回の仙台市が初めてとなります。東日本大震災の経験や教訓に基づき「防災環境都市・仙台」としてのまちづくりを推進している仙台市での開催は、地震災害の軽減に向けて大きく貢献する場となることが期待されます。本日の市民公開講座から始まり、28日に開会式、10月2日に閉会式になります。メインテーマは、「災害に強い社会を目指して」。主要題目は、「多分野連携と国際連携による震災軽減」、「原子力発電所と地震・津波問題」、「大規模数値シミュレーションによる地震防災技術の展開」、「長周期/長継続時間地震動による構造物の応答」、「スマートシティと都市防災」などです。
この会議を日本(特に仙台)で開催することは、我が国における地震工学に関する最新の技術研究開発とともに、東日本大震災による激甚な被災からの復旧・復興を全世界の専門家に大きくアピールし、多くの専門家の参画を促す絶好の機会となります。さらに、我が国のこの分野の専門家に世界の多くの専門家と直接交流する機会を与えることとなり、我が国の地震工学に関する研究を一層発展させる契機となると期待されます。
初日の市民公開講座では、震災復興を考える~復興制度の現状の課題と未来への提言~題した、基調講演とパネルディスカッションが行われます。
一般の方はオンライン参加となります。
https://irides.tohoku.ac.jp/event/event_jn/detail---id-6188.html
また、「震災対策技術展」in 仙台(BOSAI EXPO)が同時開催されます。

<2021年9月19日>東北大学での震災復興、防災・減災の取組の紹介

東北大学には、10学部16研究科、3専門職大学院、6附置研究所、13研究センターがあり、約18,000名の学生と約6,000名の教職員がいます。東日本大震災直後には、被災地の支援と防災・減災の推進のために、震災復興新生研究機構が立ち上がり、8プロジェクト、100+アクションの活動が始まりました。本日は、最近の活動をいくつか紹介させていただきます。 
◎薬学研究科(薬学部)では、東日本大震災の後に、東北大学、宮城県薬剤師会、宮城県病院薬剤師会、宮城県医薬品卸組合等が連携・協力し宮城県大規模災害時医療救護活動マニュアルの内容を検討し、災害時薬事関連業務マニュアルを発行、災害薬事コーディネーターと地域災害薬事連絡調整員を新たに配置しています。
◎教育学研究科(教育学部)では、「震災子ども支援室」を設け①緊急支援②被災者支援③防災心理教育を行っています。臨床心理相談室の支援体制も発展させ、多様な専門性(発達・学習相談、遠隔支援など)の支援体制を構築し、積極的に取り組んでいます。 
◎未来科学技術共同研究センターでは、「2019年度学術研究活動支援事業(大学等の「復興知」を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業)」の採択を得て、9月から福島ロボットテストフィールドにおいて次世代モビリティに関する研究拠点の構築を開始しています。南相馬市・浪江町と連携協定を締結、同地域における自動運転等の次世代モビリティの社会実装に向けた取組が始まっています。
◎学術資源研究公開センターでは、福島県富岡町のアーカイブ施設整備に伴い、震災遺構等の3次元デジタルアーカイブ事業を継続し、各種資料の3次元計測を実施しています。
◎多元物質科学研究所では、核燃料安全専門審査会をはじめ政府系機関の原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の「廃棄物対策専門委員会」、放射性廃棄物処分の実施機関である「原子力発電環境整備機構(NUMO)技術アドバイザリー委員会」等の放射性廃棄物処分や原子力施設廃止措置に実際に関わるほぼすべての国内公的機関に委員として本研究所教員が参画しています。

<2021年9月12日>防災サッカーの紹介

防災とスポーツには多くの共通点があると思います。例えば、チーム力(個人競技でも、コーチやサポーターなどでチームが作られています)、判断力(とっさの)、体力などが挙げられますね。(株)シンクでは、防災トレーニングや防災ウォークなどが企画されています。
https://bouspo.jp
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/r2_minkan/pdf/039.pdf
本日は、防災サッカーの紹介です。最近、各地で実施され、宮城県でも、8月22日、多賀城市で行われたようです。宮城教育大学の小田先生らが指導されました。防災サッカーとは、防災とサッカーを掛け合わせた今までにないワークショップで、従来の防災訓練を、新しく面白くするため、サッカーを通じて楽しく学べる内容になっています。サッカー競技の中だけでなく、練習などでも防災が学べるように工夫されています。東京の台場小学校での防災サッカー体験が下記で紹介されています。
https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/shinagawaphotonews/shinagawaphotonews-2020/20200221151951.html
ウォーミングアップでは、ランニングしている途中で「地震」「津波」「火災」などのパネルを出し、参加の児童たちに避難する体勢や行動をとってもらう。「地震…頭を守って低くかがむ」、「津波…高台へ避難」、「火災…口と鼻をおさえて低くかがみ建物の外へ逃げる」など、災害に応じた初期行動を楽しみながら体で覚えていくという訓練「ファーストアクション」になります。また、数字が書かれたパネルが出されたら、同じ数の人数で瞬時にグループを作ったり、ボールを使った練習では、周りを見て声を掛け合う練習や防災ブックに掲載されている防災備蓄品リストを暗記し、ボールを蹴る時に一つずつ防災備蓄品を言いながらパス交換する練習などが行われます。
いつ起こるかわからない災害に備えて、いざという時にすぐ行動できるよう普段から考えておくこと、そして、協力して助け合うことが大切という意味では、防災もサッカーも同じですね。

<2021年9月5日>巨大地震事前注意呼びかけの検討始めるー千島海溝と日本海溝

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210819/k10013211111000.html
政府の中央防災会議が、北海道や東北の沿岸部で大きな被害が想定される日本海溝・千島海溝地震の可能性が高まった場合に、事前避難を呼び掛ける「臨時情報」の導入を検討していることが先日、報道されました。近く専門家による検討委員会を立ち上げる予定で、呼びかけの内容などについて議論する見通しです。現在、内閣府の対策WG(すでに8回開催)の中で、地震の被害想定や被害を抑える対策を実施しており、その報告書に反映させる予定です。
北海道沖から岩手県沖にかけての「千島海溝」と「日本海溝」については、過去の発生履歴から現在巨大地震や津波が切迫しているとされます。また、地震や津波の想定が見直しされ、東日本大震災クラスの地震が起き、北海道や東北では20メートル以上の津波が押し寄せると評価しています。そのために、想定震源域の中で地震などが発生した場合、巨大地震への事前の注意を呼びかける情報が出せないか、検討を始めることになりました。事前の地震活動が最大クラスの地震にどのように関連されるのか?また、どの程度切迫性があるか?など検討する必要があります。
異常な現象が観測された場合、住民などに注意を呼びかける仕組みは、南海トラフで震源域が半分程度ずれ動いた時などに発表される「臨時情報」があります。南海トラフ沿いの東側で地震が発生し、西側でも続発する可能性が高まった場合や前震とみられる地震が発生した場合などに気象庁が発表します。千島海溝などでは巨大地震の起き方に対する知見が少ないことから具体的な防災対応にどこまでつなげられるかが課題になります。

<2021年8月29日>カリブ海ハイチでの地震について

8月14日、カリブ海ハイチ西部を震源とする大地震が発生し、広い範囲で建物が倒壊するなどの被害が出ています。アメリカ地質調査所によりますと、震源は首都ポルトープランスから西におよそ125キロで、M 7.2と推定されています。死者は2000名を超え、負傷者は9900名以上で、現在も数は増えつつあるようです。合計で24の医療機関が被災、20施設はインフラの障害、4施設は倒壊したとのことです。
2010年の地震の断層の西隣りで発生したということになります。基本的には横ずれ断層ですが一部に逆断層が混在する複雑な地震かも知れないという論文も紹介されています。規模や遅延こそ違いますが、日本の南海トラフの1944年昭和東南海、1946年昭和南海と同じような連鎖現象になります。2010年の地震は首都のポルトープランス近郊を震源とするM7.0の規模であり、首都直下のために30万人以上が犠牲になっています。その後もハリケーンの被害などで復興が進まず、貧困や治安の悪化が問題となっています。今回も熱帯暴風雨の通過に伴う激しい雨のために当局の対応が遅れ、救助・救援に支障が出ているようです。ハイチでは先月モイーズ大統領が暗殺され、政治の混乱が続いていますが、政府は非常事態を宣言し、被災者の支援に全力をあげています。
EUによる世界中の自然災害の危険度を評価したINFORM risk index2021があります。
https://drmkc.jrc.ec.europa.eu/inform-index/INFORM-Risk
ハイチの総合リスクは6.7(2.3)、ハザードリスクは自然ハザード7.0(8.1), 地震9.7(10.0)、人為的なハザードリスクは4.5(0.5)と極めて高いリスクです(いずれも10が最高のリスク、括弧内は日本)。脆弱性リスクは5.7(1.5), 対応能力欠如リスクは7.2(1.5)、そのうち、インフラリスクが6.7(0.8)で、ヘルスケアへのアクセスが8.8(1.1)と極めて医療環境が悪い状況にあります。

<2021年8月22日>防災とピクトグラム

本日は、社会課題をピクトグラムアートで解決する!という活動を紹介します。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/55697?utm_source=mn&utm_medium=email&utm_campaign=rt
まず、ピクトグラムとは、東京オリンピックの開会式でも紹介(パフォーマンス)がありましたが、絵文字、絵単語、図記号の総称であり視覚記号の一つであります。言葉を超えて、事物の使い方や性質、状態の強弱や変化、統計数値の大小といった情報や符号を誰にでもわかりやすい単純な構図と明瞭な二つの色で表すことになります。例えば、防災分野でのピクトグラムでは、避難場所や避難所、津波避難場所・津波避難ビルなどがおなじみです。さらに、洪水・内水氾濫、土石流、崖崩れ・地すべり、大規模な火事等があります。
最近は、社会課題をアートと情報デザインで解決するという「ピクトグラムアート」などの活動もあります。たとえば、「津波フラッグ」があります。紹介の動画がYouTubeで公開されています。
作品名:「津波フラッグを振る人」でスマートに解決しましょう。
津波注意報 津波フラッグを振る人
https://youtu.be/HddLINss_pM
津波警報 津波フラッグを振る人
https://youtu.be/eiYAoGuUomM
大津波警報 津波フラッグを振る人
https://youtu.be/hHE96ngMBBg

<2021年8月15日>宮城県に上陸した台風8号

宮城県に上陸した台風8号についてお話します。最近は地球規模気候変動の影響を受けて、台風の規模や進路さらに影響(被害)も変化しています。今後も台風や高潮のリスクがありますので、是非、備えを十分にしていただきたいと思います。そのために、台風8号を最近の台風の傾向のひとつとして紹介いたします。
この台風8号は、7月28日午前6時前、宮城県石巻市付近に上陸した後、岩手県を北上しました。気象庁の1951年の統計開始以来、台風が東北地方に太平洋側から上陸したのは、2016年8月に岩手県大船渡市付近に上陸した台風10号に続いて2例目で、宮城県への上陸は初めてになります。
台風といえば日本付近では西から東に進むことが多いイメージですが、台風8号は東日本に東側から接近してきました。北上を阻む太平洋高気圧の存在と、寒気のかたまり「寒冷渦」による風の流れが影響しています。28日正午には、秋田市の東北東約80キロを時速25キロで北へ進みました。中心気圧は996ヘクトパスカル、最大風速18メートル、最大瞬間風速25メートル。北東側280キロ以内と南西側220キロ以内が風速15メートル以上の強風域になりました。東北地方では大雨になった所もあり、沿岸部などで風が吹き荒れました。気象庁は土砂災害や低地の浸水、河川の増水のほか、暴風、高波に警戒するよう呼び掛けをしていました。台風の接近に伴い、非常に湿った空気が東から吹き込むため、特に山の東側斜面では雨雲が発達しやすく、宮城県や岩手県などでは総雨量が150mm前後に達する恐れがありました。幸い大きな被害はありませんでしたが、今後も留意が必要です。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021072800177&g=soc

<2021年8月8日>書籍「復興を実装する~東日本大震災からの建築・地域再生」の紹介

東日本大震災を中心に、世界と日本で行われてきた復興の実態、特にそれを担う主体の問題をとりまとめた、復興の「実装」論の書籍で、東北大学の小野田泰明教授(せんだいメディアテーク、東北大萩ホール等の設計にも関与)、佃悠准教授(当時、東大大学院生)、鈴木さち(塩竈市生まれ、当時東北大学生、現在、ユネスコ勤務)の共著です。
被害を受けた地域を復旧・復興させ、再生するためには、住民や行政に加えて、支援者、地域計画・建築・土木などの専門家の参加と協力が不可欠です。また、計画立案や設計・建設、さらにその後の活用・維持においては、さまざまな意見の調整・整理が必要です。通常の生活もままならない中で、このような取組を実践され、現場(裏方)で苦労された活動をまとめられた本です。視点は3つになります。
1.復興は様々な関係者が関わる複雑な過程・活動であり、そこの相互の関係性を明らかにする
2.復興は、無から生まれるのではなく、以前からの地域性、社会構造との関係性見る
3.東日本大震災の復興を海外と比較し・関係づけながら分析する。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784306046849

<2021年8月1日>技術士および技術士会の紹介

「技術士」は、技術士法に基づいて行われる国家試験(技術士第二次試験)に合格し、登録した人だけに与えられる称号です。国はこの称号を与えることにより、その人が科学技術に関する高度な応用能力を備えていることを認定することになります。技術士は、産業経済、社会生活の科学技術に関するほぼ全ての分野(21の技術部門)をカバーし、先進的な活動から身近な生活にまで関わってます。
公益社団法人「日本技術士会」は、この技術士(現在約9万人)の集りであり、わが国に技術士制度の普及、啓発を図ることを目的としています。具体的には、技術士業務に関する協力の推進(国内及び海外)、技術者資格の国際相互承認、相互交流、技術士CPD(継続教育)活動の推進、修習技術者及び技術士補の研鑚と育成、普及啓発、調査・研究の実施等の事業展開をしています。
先月7月16日、日本技術士会東北本部主催の東日本大震災復興10年事業《2021年事業》が開催されました。私の基調講演「東日本大震災の教訓と今後の防災・減災対応」、宮城県副知事 遠藤信哉氏の講演「東日本大震災からの復興と地域防災力の強化~未来への礎~」、パネルディスカッションがあり、東北のメンバーに加えて、東京、広島、四国からオンラインで参加されました。このパネルディスカッションに関した論文を募集し、新たな事業を今後5年間にわたって実施されるということです。

<2021年7月25日>下水道の調査で感染拡大を予測

東北大学工学研究科の佐野大輔教授らの研究グループが、仙台市内の下水に含まれている新型コロナウイルスの割合を調べたところ、感染者が増加する1週間ほど前に、下水でのウイルスの陽性率が上昇していたことがわかりました。
昨年8月から、仙台市内の7割の下水を処理している南蒲生浄化センターで、毎週火曜日と木曜日の週2回、浄化センター処理場の2か所からサンプルを採取してPCR検査を実施し、感染者数との関係を分析しているのです。それによりますと、去年11月の仙台市の感染者数は、第3週まではほぼ横ばいでしたが、第4週から増加傾向になりました。同時期の下水の陽性率は、第1週は前の月とほぼ同じ0.14でしたが、第2週は0.25、第3週は0.31と過去最高を更新していました。つまり、1週間ほど前に、下水でのウイルスの陽性率が高くなっていたことになります。また、東京都(23区、八王子市及び町田市)における陽性診断者数の実績データも、数理モデルを適用した下水調査により検知可能であったとの推定結果が得られてもいます。ウイルスの感染拡大の兆候が早期に検知できる期待が高まったと言えます。
実は、ノロウイルスも同じような傾向があり、同手法で分析すると従来よりも2週間早くまん延の兆しを察知できることが実証済みであり、体内での排泄物が拡大の前兆になることを示唆されています。

<2021年7月18日>国際津波シンポジウムの報告

第30回国際津波シンポジウムが7月1日から3日までの3日間、東北大学災害科学国際研究所で開催されました。「東日本大震災から10年~経験と教訓を未来の世代につなぐ」をテーマに津波防災に関する科学・技術、さらには教育啓発に関する最新の知見、課題や解決策などを話し合いました。国内外19カ国の大学や研究機関からの津波研究者160人の参加があり、特に初日は一般参加の150人もオンラインなどで加わり、総勢300人を超える過去最大の規模となりました。仙台開催は40年ぶりであり、初めて一般にも公開され、オンライン上での同時通訳もあり、関心のある方々に講演や発表を直接視聴頂きました。
はじめに、「濱口悟陵国際賞」受賞者3名による基調講演が行われました。「津波研究に何が求められているか~東日本大震災から10年の視点」と題したセッションでした。講演後のパネルディスカッションでは、今後の科学的知見の防災への役割や様々なリスクに対してレジリエントな社会を構築するための課題について議論がありました。リスク評価の信頼性を上げ、危険地域から移動するような空間デザイン戦略の必要性がありますが、リスクのタイプにより、地域によって異なる難しさがあるなどが話し合われました。
「東日本大震災特別セッション」では、東日本大震災の知見と教訓をどう生かすかをテーマとして、最新研究および復旧・復興などの実践の現場からの講演がありました。まずは、震災10年を振り返り、予測できなかった地震・津波の実態や現在の観測網の充実などの改善状況、津波火災、黒い津波、サイレント津波など今回の特徴と今後の防災・減災への課題、さらには教訓と国内外への対策が示唆されました。また、最後の講演では、津波によって小舟が米国西海岸まで漂流し、これが両国の新たな交流(架け橋)を生み、コロナ禍でも支援活動・教育・津波の認知を向上させるための活動が精力的に行われている紹介がありました。

<2021年7月11日>東京五輪2020開催間近 ―火災や自然災害への対応

東京五輪2020開催間近であります。コロナ感染防止も含めて安全で安心できる大会の運営が求められています。火災や自然災害対応も忘れてはならない事項になります。すでに、オリンピック実行委員会に加えて東京都でも準備を整えておりますので、その一部を紹介いたします。
まず、大会期間中の関係施設等は、新築されるもの、既存の競技場等を改修して使用するもののほか、仮設施設として設けられるものなど様々あります。また、外国人や障害者など、多様で多数の観客が短期的かつ集中的に利用すること、施設内部に熟知していないボランティアが参画することなどが見込まれます。このような状況下で施設における観客、アスリート、大会関係者等の安全を確保するために以下の進言が提案されています。
1 防火関係の対策
 出火防止及び延焼拡大を抑制する対策/早期発見と迅速な初期消火を行うための対策/消防機関の活動を支援するための対策
2 避難関係の対策
 外国人、障害者など多様性を考慮した避難安全対策/群集事故の防止に配慮した安全対策
3 火災以外の災害(地震、津波、テロ災害等)に係る対策
4 各対策に実効性を持たせるための組織体制及び消防計画
外国人、障害者など多様性を考慮した避難安全対策として、災害に関する情報提供、避難誘導指示は、日本語と英語による 2 言語以上で対応できるようにする。ピクトグラムを活用する。情報提供に大型映像装置やデジタルサイネージ等を活用する。などが挙げられます。国民として、協力できることを率先して実施できればと思っております。
  参考資料:オリ・パラ施設等における 防火・避難対策への提言https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/kk/pdf-data/22k-jt07.pdf

<2021年7月4日>東京五輪の聖火リレーランナーを務めました

6月20日、東京五輪聖火リレーのランナーのひとりとして、復興しつつある東松島市を走ってきました。沿道の皆さんから笑顔と励ましを頂きました。当日は、武山ひかるさん(語り部)から聖火を繋ぎ、10番目に完走させていただきました。東日本大震災で被災した東松島市で、「全国の思いをつなぐリレーに改めて追悼の祈りを重ねたい」。このような思いをトーチに込めました。
聖火を運んだ内陸部の「あおい地区」は、約600世帯が暮らす市内最大の防災集団移転団地になります。震災前、市のハザードマップ作成に関わりましたが、大津波は浸水想定範囲を超え、市内の犠牲者は関連死を含めて1,155人に上りました。マップには津波が想定を上回る可能性について記していたとはいえ忸怩たる思いがありました。ランナーに選ばれ「地域が復興した姿を世界に見てもらい、支援への感謝を伝えられる」と思いました。復興した場所では、新しい街並みが造られたのではなく、つらい経験を忘れず、津波による被害を繰り返さないとの決意が形になったことを知ってほしいと思います。
この聖火リレートーチの素材の一部には、東日本大震災の復興仮設住宅のアルミ建築廃材を再利用しています。人々の生活を見守ってきた仮設住宅が、平和のシンボルとしてオリンピックトーチに姿を変え、一歩ずつ復興に向けて進む被災地の姿を世界に伝えていきます。
https://olympics.com/tokyo-2020/ja/torch/about/brand-design-torch
https://kahoku.news/articles/20210620khn000023.html

<2021年6月27日>第30回国際津波シンポジウムの開催について 

第30回国際津波シンポジウムが7月1日から3日まで、東北大学災害科学国際研究所で開催されます。 2年に一度開催される歴史ある世界的な津波防災会議で、世界約30カ国から津波研究者や防災関係者が参加し、津波警報・被害予測・津波避難・津波防災教育等について幅広く議論を行う場です。今回は、「東日本大震災から10年―経験と教訓を次世代へ―」をテーマに、世界の最新の津波研究の成果が報告され、震災教訓を共有する機会になります。初日の1日に一般公開(無料)のセッションを設け、市民に開かれたシンポジウムを目指しています。
【基調講演とパネル討論】
「津波研究に何が求められているか~東日本大震災から 10 年の視点」
基調講演 1:エディ・バーナード(前アメリカ海洋大気庁太平洋海洋環境研究所長)「津波対策: 犠牲者ゼロは可能か?」
基調講演 2:アーメット・ヤルシナー(中東工科大学教授)「沿岸災害における評価・認知・レジリエンス」
基調講演 3:柴山知也(早稲田大学教授・横浜国立大学名誉教授)「津波・高潮災害現地調査の最近の展開」
【東日本大震災セッション】
「東日本大震災の知見と教訓をどう生かすか~最新研究と実践の現場から」
司会:今村文彦(東北大学災害科学国際研究所長)
1. 佐竹健治(東京大学地震研究所長)
2. 越村俊一(東北大学災害科学国際研究所教授)
3. アブドル・ムハリ(インドネシア国家防災庁)
4. ロリ・デングレー(ハンボルト州立大学教授)
【一般公開セッション 1】
「津波の観測体制とリスク評価はどこまで進んだか~最前線からの報告」
【一般公開セッション 2】
「津波防災の啓発推進にどう取り組むか~南海トラフの備えを視野に」

<2021年6月20日>第47回放送文化基金賞受賞について

この度、「第47回放送文化基金賞」を受賞させていただきました。この放送文化基金賞は、【視聴者に感銘を与え、放送文化の発展と向上に寄与した優れた放送番組】、【放送文化、放送技術の分野での顕著な業績】を対象に表彰しています。
https://www.hbf.or.jp/awards/article/about_awards
今回は、全国の民放、NHK、ケーブルテレビなどから、257件の応募、推薦がありました。4月から約2か月にわたる厳正な審査の結果、テレビドキュメンタリー、テレビドラマ、テレビエンターテインメント、ラジオの4つの番組部門で、それぞれ最優秀賞、優秀賞、奨励賞の16番組と、演技賞や企画賞など個人6件、さらに個人・グループ部門の放送文化、放送技術で8件の受賞が決まりました。
私は、「長年にわたる放送を通じた防災知識普及と意識向上への多大な貢献」を評価されました。東日本大震災以降の10年間も多忙を極める中、各放送局の番組に多数出演して精力的に情報発信を続けています。津波が海底の堆積物を巻き込んで破壊力を増す現象を解析した研究成果をNHKで番組化する等、放送を通じて最新の知見を広く紹介したこと、エフエム仙台では2003年10月から日曜朝の防災啓発番組のパーソナリティを務め「地震に自信を」というコーナーを通じて防災・減災に関するさまざまな知識や情報の発信、災害への備えの大切さを毎週呼び掛け続けたことなどが高く評価されました。 
東北大学入学後に、沿岸部での津波災害の歴史に触れ、防災に高い関心を持ちました。それ以来、津波も含めた自然災害の専門家として国内外の被災調査や数値解析を行い、そこで得た情報や知見をテレビやラジオなどのメディアの皆さんに協力を頂き、発信することができました。特に、東日本大震災では地元での津波大災害であり多くの反省と忸怩たる思いがありますが、震災前からの啓発活動について評価いただく声もあり、この10年間、研究と教育を推進する中でも、被災地への支援活動と国内外での防災活動の推進や啓発活動を続けることができました。今後、様々なリスクが高まる中、防災の情報・知識が重要であり、さらに意識を高め、具体的な行動ができる社会づくりが必要であると考えております。

<2021年6月13日>避難情報の発令基準等の修正

5月20日、災害対策基本法が改正され、市町村が発令する避難情報が大きく変わりました。また、内閣府のHPでは避難情報に関するガイドラインも改定されています。
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/
現在、警戒レベルは5段階に分類されています。この警戒レベルは住民が取るべき行動を直感的に理解できるよう、数字でリスクを分類したものです。数が大きいほど災害発生リスクが高く、レベル5が最大です。レベル1とレベル2は気象庁が発表する大雨・洪水・高潮注意報にあたり、災害への心構えを高め、自らの避難行動を確認する段階とされています。
今回のポイントとしては、警戒レベル4の「避難勧告」と「避難指示」が一本化され、「避難勧告」は廃止されました。今後は、これまで避難勧告が発令されていたタイミングで避難指示が発令されることになます。市町村長が発令する避難情報は、下記の3種類になりました。
・緊急安全確保(レベル5)
・避難指示(レベル4)
・高齢者等避難(レベル3)
避難行動については、レベル3、4では、災害リスクのある区域の居住者等が、その場を離れ、安全な場所に移動する「立退き避難」と、自宅・施設等においても上階への移動や高層階に留まること等により、身の安全を確保することが可能な場合の「屋内安全確保」があります。また、レベル5で、立退き避難を安全にできない可能性がある状況に至ってしまったと考えられる場合に、命の危険から身の安全を可能な限り確保するため、その時点でいる場所よりも相対的に安全である場所へ直ちに移動することが「緊急安全確保」になります。

<2021年6月6日>イオンとの連携協力に向けて

東北大学災害科学国際研究所、イオンモール株式会社、イオン環境財団は、「産学連携協力に関する連携覚書」に同意し、締結調印式を6月12日(県民・市民防災の日)に実施いたします。三者は、自然災害、地球規模気候変動、大規模感染症など様々なリスクがある中、安全で安心できるレジリエント・コミュニティーの創生を主に目指していきたいと思います。
「防災・減災」「杜のデザイン」「感染症対策」の3つの活動を柱に、地域の皆さまにも参画いただけるような活動(ワークショップ等)の実施も予定しています。東北大学雨宮キャンパス跡地にて、地域の皆さまが安心して利用できるよう、地域の防災拠点となるイオンモール計画の施設づくりを、専門家に加えて市民の皆さんの視点から実施していきたいと思います。また、東北大学農学部時代のみどり豊かな環境にならい、仙台都心部緑化重点地区にふさわしい環境整備を目指し、新たな緑化計画を立案するなど、産学が連携協力して進めてまりたいと思います。
地域の豊かな自然と人々のくらしを守るため、三者は今後も連携を強化し、様々な社会貢献活動を積極的に推進してまいります。

<2021年5月30日> 新刊「二百年前に象潟で起きたこと」の紹介

きょうは、書籍「二百年前に象潟で起きたこと」今井健太郎編(秋田文化出版)を紹介します。この本は、1804年(文化元年)に秋田県南部沿岸の象潟で発生し、地震や津波による被害を周辺沿岸にもたらした「象潟地震」について、2019年11月に象潟で開催したシンポジウムの講演内容をもとに書籍化したものです。歴史資料などを活用して、この地震の実像を明らかにしています。

[第1章]
地震前と地震後の絵画からみる象潟の変遷 安田容子
[第2章]
古文書から読み解く象潟地震
象潟地震と由利郡関村の被害状況 蝦名裕一
象潟地震の詳細震度分布 都司嘉宣
象潟地震による津波の被害 都司嘉宣・今井健太郎
[第3章]
地形から読み解く象潟地震 岡田真介
[第4章]
海底の地層から読み解く象潟地震 高橋成実
[第5章]
象潟地震をもたらした断層運動の正体とそれによる津波の再現 今井健太郎

象潟を中心に出羽国の沿岸が南北約25kmに渡って隆起、この隆起で南北約2kmの象潟湖の大部分が陸地化し一部沼地となりました。この隆起で新たに形成された水田は、新田と呼ばれています。

<2021年5月23日>なぜ宮城・福島県沖で3つのM7クラスの地震が続発したのか?

災害科学国際研究所の遠田晋次先生とスタイン ロスさん(Ross S. Stein、Temblor社)のレポートを紹介いたします。
https://temblor.net/earthquake-insights/
今年2月~5月に宮城県沖から福島県沖にかけて3つのM7級の地震が発生しました。2月13日には福島県沖でM7.3(深さ55km、蔵王町、国見町などで最大震度6強)、3月20日には宮城県沖でM6.9(深さ59km、最大震度5強)、5月1日には同じく宮城県沖でM6.8(深さ51km、最大震度5強)の地震が発生。これら3つの大地震は100km以内に、わずか76日間という短期間で発生しました。いずれの震源にも近い仙台市では、短期間に複数回の強い揺れに見舞われるのは、10年前の大震災以来です(この時は、M9本震とその直後の余震)。なぜ宮城県―福島県沖? なぜ今頃?という疑問があります。地震の関連性をみますと、 3月の地震が5月の地震を誘発した可能性は高いのですが、最初の2月の地震が3月の地震を促した明確な証拠はありません。
東日本の地震発生場は、2011年の東北地方太平洋沖地震によって劇的に変化しました。10年経った今、その活動はやや衰えたとはいえ、まだ311前に戻っていません。311の震央の東と西、すなわち岩手県、宮城県、福島県、栃木県、千葉県沿岸と、逆にはるか沖合の日本海溝周辺では311前に比べて地震発生ペースが高い状態が続いているのです。東北沖地震が周辺の断層活動を促進し、地震活動が広域で活発化することは以前に指摘されています。つまり、M9の超巨大地震によって周辺断層に応力が伝播したことによると考えられます。具体的にはクーロン応力(Coulomb stress)といわれるものです。周辺断層への法線応力が増加する(断層を押さえつける圧力が下がる)、もしくは剪断応力が増加する(断層をずらそうとする圧力が上がる)とクーロン応力変化が増加し、地震が起こりやすくなります。逆の場合は、地震活動を抑制する。クーロン応力変化によって大地震後の広域の余震活動や大地震の続発が説明できることが多くの研究からわかっています。

<2021年5月16日>「余震」について

余震(aftershock)とは、大きな地震の後に、近接地域で引き続いて多数発生する地震になります。最初の大きな地震を本震と言い、本震より前に発生する地震は前震となります。余震の規模は本震より小さいことが一般的ですが、熊本地震のように本震に近い規模の余震が発生することもあります。この場合、どれを本震にするかという議論が出てきます。
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/aftershocks/index_whats_aftershock.html
気象庁は、最大震度5弱以上の地震が発生した場合に、約1~2時間後から、今後の地震活動の見通しや防災上注意すべきこと等について発表しますが、その主なポイントは以下のとおりです。
<大地震後の地震活動に対する防災上のポイント>
・1週間程度は、最初の大地震の規模と同程度の地震に注意することが基本です。
・特に、地震発生後2~3日程度は、規模の大きな地震が発生することが多くあります。
・付近に活断層がある、過去に同程度の規模の地震が続いて発生したことがあるなど、その地域の特徴に応じた呼びかけが発表された場合は、それにも留意してください。
・最初の地震の強い揺れにより、落石や崖崩れなどが起こりやすくなっている可能性があります。
・震度6弱など特に強い揺れのあった場合は、これらに加え、家屋の倒壊や土砂災害などの危険性も高まっているおそれがあります。もう強い揺れを伴う地震は起きないとは決して思わず、その後の地震活動や降雨の状況に十分注意し、やむを得ない事情が無い限り危険な場所には立ち入らないなど、身の安全を守る行動を心がけてください。
2016年の熊本地震の発生をふまえ、大きな地震の後に引き続く地震活動の様々な事例に対応可能な防災上の呼びかけを行うための指針として、地震調査委員会から「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」が公表されました。これを受け、気象庁は、「余震」という言葉は最初の地震よりも規模の大きな地震は発生しないという印象を与えることから、防災上の呼びかけ等においては、さらに規模の大きな地震への注意を怠ることのないよう、「余震」ではなく「地震」という言葉を使用するようになりました。

<2021年5月9日>防災教育:出前授業について/プロジェクト講師 保田真理さんからの報告

これまで東北大学災害科学国際研究所では、地域の拠点でもある大学として東北の被災地を中心に小・中学校を対象とした出前授業を行ってきました。この取り組みは、東日本大震災から2年後の2013年に始まり、現在も継続しています。おもに、小学校5年生の児童を対象としてスタートしましたが、その後、中学生や他の都道府県、また、海外の子どもたちを対象としても行われるようになり、これまで、297校で行いました。
この出前授業の効果は、被災地だけではなく、いかなる地域や国を対象とした場合にも認められています。出前授業を受けた児童が、その後何らかの防災・減災行動を起こしたことが約1ヶ月後のアンケート調査で明らかになっています。
出前授業の目的のひとつに、家族へ学習内容を波及させるということがありますが、これまでのデータを詳細に分析したところ、家族への波及が行われるには、学習によって自己効力感が高まったこと、防災学習への意欲が高いこと、災害時の家族の避難行動に対する信頼感があることの3つの要素が大切だということがわかりました。家族の中でのコミュニケーションがしっかり取れて、家族に対して信頼感を持っていることが児童の意欲を高めるという関係性が見えてきました。現在コロナ禍で大人も大きなストレスを抱えていると思いますが、子供とのコミュニケーションを大切にし、子供のやる気をうまく応援して、災害に備えていただければと思います。

<2021年5月2日>書籍「私の夢まで、会いに来てくれた~3.11 亡き人とのそれから」の紹介

東北学院大学(現在は関西学院大学)の金菱清教授とゼミ生たちが東日本大震災の被災地で集めた「遺族が見る亡き人の夢」の記録、27編。2018年に単行本として出版されたものが、 今年文庫化(朝日文庫)されました。
東日本大震災に関する書籍は多く出版され、ユニークな内容のものもありますが、その中でもこの本は代表的なものであると思います。テーマは「夢」です。一般に、夢を見る理由は諸説ありますが、人間は普段の生活で起きた出来事や脳に蓄積したあらゆる情報を整理するために夢を見ると言われています。過去の記憶や直近の記憶が結びつき、それらが睡眠時に処理されストーリーとなって映像化したものが「夢」と言われます。
金菱先生は震災直後から様々な調査や研究をゼミの学生さんと一緒に行っていましたが、被災者の方たちから「震災で亡くなった人が夢に出てきたらしい」という話を何度か耳にしたことをきっかけに、ゼミ生たちが震災住宅などを回り、のべ200人以上の東日本大震災のご遺族から聞き取り調査を行って集めた27編を収録しました。「亡き人との夢」について、「断ち切られた現実に対して、死者となおもつながり続けることができる希望(のぞみ)なのだ」と述べています。夢の中では、見る度に死者との関係を更新でき(交信でき)、将来の成長した姿も見ることができます。あるご遺族は、夢から啓示を受けたと感じ、それを亡き人からのメッセージと解釈し、夢に自分の希望を重ね合わせることにより、夢を願望に変えて現実のものにしていると紹介しています。

<2021年4月25日>研究成果が「ネイチャー」に掲載!

AIによる津波浸水のリアルタイム予測技術の研究成果が学術総合誌「ネイチャー」(Nature Communications)に掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22348-0
近年、自然災害が激甚化する中で、防災・減災分野での人工知能AIも含めたICT活用への期待が高まっています。富士通研究所はこれまで、東北大学災害科学国際研究所、東京大学地震研究所とともに、スーパーコンピュータ(スパコン)やAI等のICTを活用した津波被害軽減に向けた技術検討を進める共同研究を実施してきました。
今回、我々は、画像認識をはじめとして近年様々な分野で目覚ましい成果を挙げているAIを活用した津波のリアルタイム浸水予測の方法を開発しました。この方法により、一般的なPC等の小規模な計算資源でも、高速かつ詳細な津波浸水予測が可能になると期待されます。地震後の津波の発生から沿岸部への到達までの間に、詳細な津波浸水の予測を短時間で実現することは、適切で迅速な避難を判断するための重要な情報になります。これまで2011年の東日本大震災をはじめとする過去の災害での教訓(津波警報の過少評価)を踏まえて、沿岸及び沖合での津波観測の強化と、観測データを活用したリアルタイム津波予測技術の開発が進められてきましたが、地震発生後に短時間で津波波源を推定し、陸上の特定地点の詳細な浸水情報を正確に評価するには、スパコン等の大きな計算資源を必要とする課題がありました。しかし、今回開発した新たな津波予測手法では、事前にスパコンなどを活用して多数のシナリオを想定した津波シミュレーションを行い、津波等の模擬観測データと予測地点での津波浸水波形の関係をAIに学習させることで、大地震発生時には、リアルタイムに得られる実観測データに基づき、AIが予測点の津波高とその時刻を含む津波浸水波形を即座に予測します。学習済みのAIによる予測は通常のPCでも十分高速に実行可能なため、実際の津波防災においても実用性が高いと言えます。
海陸高密度観測と高速計算環境、そしてAIに基づく高度な解析技術の統合により成し遂げられた重要な成果だと思います。国際学術雑誌での出版を通じて成果が広まり、防災やAI活用研究等への波及効果が大きいものと期待されます

<2021年4月18日>熊本地震から5年

2016年4月14日および16日、熊本を中心に2度にわたる大きな地震に見舞われ、甚大な被害が発生しました。14日の「前震」と16日の「本震」で最大震度7を観測しました。熊本県内では災害関連死などを含め273人が亡くなり(うち218名は関連死)、約20万棟の住宅が被害を受けました。この4月で、地震発生から5年になりました。先月、3月25日に、熊本市は市長らで構成する復興本部会議(第24回)を廃止しました。熊本市では3月に、プレハブ型の仮設住宅入居世帯はゼロになり、みなし仮設も17世帯になりました。当時、最大でおよそ1万2000世帯にのぼった仮設入居世帯の99%以上が退去し、住まい再建を果たされたそうです。
また、熊本城でも復旧が進み、桜が見ごろを迎えた時期には、新型コロナウイルス感染防止対策のマスクを着けた花見客らが多く訪問されました。熊本城総合事務所によりますと、熊本地震で一部が倒壊した国指定重要文化財「長塀(ながべい)」は今年1月に復旧が完了しました。また、大きな被害を受けた天守閣も復旧が進み、内部の一般公開が4月26日から予定されているそうです。ただし、全体の復旧作業は2038年3月まで続くと見込まれています。また、熊本地震で崩落した南阿蘇村の阿蘇大橋に代わり、建設が進められていた新阿蘇大橋も完成、3月7日に開通しました。熊本地震で寸断した熊本県北東部の阿蘇地域の国道はすべてつながったことになります。

<2021年4月11日>東日本大震災の余震について

2月13日の福島県沖地震に続き、3月20日に宮城県沖で地震が発生しました。M6.9で深さ59km(暫定値;速報値約60kmから更新)、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型でした。最大震度5強を宮城県の登米市・大崎市・涌谷町・美里町・岩沼市など10の市町村で観測した他、北海道から近畿地方にかけて震度5弱~1を観測しました。18時11分に津波注意報が出され、19時30分に解除されました。
政府の地震調査委員会によりますと、余震域内の地震活動は全体として東北地方太平洋沖地震前の状態に近づきつつありますが、1年あたりの地震の発生数は、依然として地震前より多い状態が続いています。今回の地震の震源域は、長期評価てで評価対象領域としている宮城県沖の西端に位置しており、東北地方太平洋沖地震の余効すべりによる応力変化の影響があると考えられています。これらの地震がより発生しやすくなったと考えられますので、確率はより高い可能性があるのです。
河北新報によると、宮城県沿岸部に津波注意報が発令された際に、県内の沿岸6市町が県の津波対策の指針に従わず、住民に避難指示を出していなかったということです。東日本大震災の教訓を踏まえ、指針は津波注意報の段階で避難指示(緊急)の発令を求めていましたが、沿岸市町村の認識と実施に大きな差がある現状が浮き彫りとなりました。県の調べでは石巻、気仙沼、東松島3市と利府、女川、南三陸3町が避難指示を発令せず、東松島市は避難勧告を出し、5市町は行政無線などによる注意喚起にとどめたようです。また、車による避難が行われ、各地で渋滞も発生していました。便利である、コロナ禍での避難、車が流失すると大変である、という理由のようですが、渋滞によりかえって避難が難しくなるという課題が残されました。
*東日本大震災をもたらした東北沖の巨大地震の震源周辺の領域で起きる地震について、今後、気象庁は「余震」という表現を使わないことになりました。「余震」は大きな地震は起きないという印象を与えかねない表現で防災意識の低下を防ぐためだとしています。

<2021年4月4日>津波と考古学

本日は、考古学との関連をご紹介します。考古学は、人類が残した物質文化の痕跡(例えば、遺跡から出土した遺構などの資料)の研究を通し、人類の活動とその変化を研究する学問です。遺物の型式学的変化と、遺構の切り合い関係や土層の上下関係といった層位学的な分析を通じて、出土遺物の通時的変化を組み立てる「編年」プロセスが大切です。その中で、地層での記録や遺跡などに地震や津波さらには被害などの状況が残されています。従って、地学や堆積層などの学問と関連が強くあります。特に、著名な事例としては、陸奥国における869年貞観津波の事例があります。宮城県内の、山元町熊の作(さく)遺跡、多賀城市山王遺跡・市川橋遺跡等があります。3.11の復興調査などで遺跡や堆積物の調査などが実施されており、新たな発見があるかも知れません。
先日、金子浩之(伊東市教育委員会主幹学芸員)さんらが、季刊考古学154号 特集:津波と考古学を出版されました。
https://www.yuzankaku.co.jp/products/detail.php?product_id=8678
以下のテーマで、論文が掲載されています。
1.津波の痕跡と考古学
2.津波被害と遺跡の立地
3.津波が残したもの

<2021年3月28日>「地産地防」で災害に強いコミュニティを築く~ARISE主催シンポジウム

本日は、国連と関係した民間企業グループでの活動を紹介したいと思います。「ARISE」はUNDRRトップである水鳥真美国連事務総長特別代表(防災担当)自らが共同議長として率いる組織で、理事は世界各国の企業リーダーより選出されています。正式名称は、 Acting now be Resilient create Impact help Societies Expand your networkです。
https://www.ariseglobalnetwork.org
3月2日にシンポジウムが開催され、「地産地防」をテーマに、気候変動・SDGsの時代のまちづくりと企業の役割を考えました。背景としては、仙台防災枠組やSDGs達成の目標としている2030年まであと10年となり、新型コロナウイルスの感染拡大が世界各地で続く中で、気候変動に伴う異常気象や甚大な災害が頻発し、感染症と自然災害の「複合災害」となっていることが挙げられます。災害からの強靭な回復力(レジリエンス)の重要性は高まるばかりで、東日本大震災からの復興を進める東北から「地産地防」という概念が発信されています。地域の防災力は、ハード整備だけでなく日々の暮らしの中で育まれるシステムによって高まります。そのため、防災力を高め続ける地域の暮らしの中のシステムの要素を洗い出し、マネジメントすることによって、災害に強い社会づくりを進めるというのが「地産地防」の考えで、世界標準化に向けた動きも開始されています。
地域でのリスクや災害などの弱点・課題を逆手に取って、強みとする下記の活動が紹介されました。
「合掌集落住民による防火・防災活動」;白川村 観光振興課 産業振興課長補佐
「海と共に生きる観光防災まちづくり」;伊豆市土肥温泉旅館協同組合 組合長
「業務中枢地区における防災まちづくり」;一般社団法人 大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会 エリア防災推進委員長

<2021年3月21日>震災の経験を未来へ―「仙台防災未来フォーラム2021」を開催

東日本大震災では、消防団員の方々に多くの犠牲が出ました。当時の死者・行方不明者は254人に上っています。最も多かったのは岩手県で 119人、市町村としては、陸前高田市51人、石巻市27人、名取市20人、宮古市17人、大槌町16人などとなりました。地震発生直後から、河川や防潮堤等に設置されている水門の閉塞、避難の誘導、安否確認などの対応に最前線であたっておられていました。
そのため、津波が想定される場合の消防団員の活動上の安全を確保するため、水門等の閉鎖や避難誘導等の活動のうち真に必要なものを精査し、消防団活動を明確化していくことが必要です。その際、地震発生から津波が到達するまでの最短の予想時間をもとに、関係機関や地域の協力を得て、津波時の消防団活動を整理します。具体的には、市町村は、地域防災計画や水防計画等に基づき、過去の災害履歴、地域特性を踏まえて、津波の高さ、浸水地域、津波到達までの予想時間、また、緊急避難場所、避難路、消防団員等の退避に要する時間等を基に、消防団が津波災害時に行う活動と安全管理についてのマニュアルを作成しておく必要があります。さらに、安全管理の観点から、単独行動を避け、隊として複数人での活動を原則とすること、指揮命令系統をまとめることが大切です。また、市町村は、出動から津波到達予想時刻までの時間、退避時間(安全な高台等に退避するために要する時間)や安全時間(安全・確実に退避が完了するよう、余裕を見込んだ時間)などをもとに、退避のルールをあらかじめ定めておく必要があります。
東日本大震災を踏まえた大規模災害時における消防団活動のあり方等に関する検討会
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento003_67_shiryo_02-1.pdf

<2021年3月14日>震災の経験を未来へ―「仙台防災未来フォーラム2021」を開催

仙台防災未来フォーラム2021が、3月6日~7日、仙台市主催で仙台国際センター展示棟等で開催されました。同フォーラムは、東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、防災を学び、また日頃の活動を発信できるイベントとして2016年にスタートし、今回で7回目となります。今回のテーマは、「東日本大震災から10年 ~よりよい未来のために」、10年間の活動や記録を振り返るとともに、地震や津波のほか、水害や感染症等、様々な災害からの復興への取り組みを学び、防災・減災の未来を考える場とすることでした。このフォーラムを通して、震災で得た知見を未来に継承し、誰もが防災の担い手となる、災害に強いまちづくりを目指すことを議論しました。
初日の6日ではこれまでの復興の取り組みについての評価や課題、次の10年に向けた取り組みの方向性について議論するシンポジウム「東日本大震災から10年~復興施策の評価と次の10年への展望」を開催しました。基調講演と3つのテーマセッション「住まいとインフラの復旧・復興」「伝承・経験を次ぎの世代へ」「震災に学んだ災害対応地域から全国・世界へ」が行われました。
7日には、47団体がブースを出展、さまざまなワークショップ、ステージ・イベント、また、指定避難所における防災対応型太陽光発電システムへの取り組み、エネルギー自律型のまちづくり、外国人住民と多文化防災 女性と防災まちづくりなどの発表、Date fm サバ・メシ防災ハンドブック連動企画【Peperの防災教室】などが行われました。災害科学国際研究所のシンポジウムも開催しました。
仙台市は、これまでの歩みを振り返るウェブサイト「つなぐ おもい つながる」を開設し、復興の記録や将来に残したいメッセージなどを発信しています。
https://sendai-resilience.jp/shinsai10/

<2021年3月7日>「防災教育と災害伝承の日」制定に向けて

東日本大震災から10年となるのを前に、先日(2月13日)、東京都内で記者会見を開き、震災が発生した3月11日を「防災教育と災害伝承の日」とするよう訴えました。私も呼び掛け人の一人としてオンラインで参加しました。
東日本大震災後も災害が多発していることから、防災教育や伝承活動の実践の重要性を認識する必要があります。そこで、3月11日を、鎮魂と慰霊の日に加え、新たな意義のある日にしたいと考えています。東日本大震災では、先人の知恵があったにも関わらず、十分生かすことができませんでした。この教訓を、世代を超えて伝えていきたいと思います。
東日本大震災では、岩手県釜石市で津波の避難について学んできた多くの児童・生徒が率先して高台に避難するなど、防災教育の重要性が改めて指摘され、国は平成29年と30年に改訂された学習指導要領の中で防災に関する内容を拡充しています。しかし、地域や学校によって取り組みに差があるほか、その後も各地で災害が相次ぐ中、教訓の共有が一層重要になっているという指摘があります。そのため毎年3月11日を「防災教育と災害伝承の日」に制定し、教訓を振り返るとともに、各地の防災教育の取り組みを共有するきっかけにしてもらうために、政府に働きかけていくことになりました。現在制定されている、1月17日防災とボランティアの日、9月1日防災の日、11月5日津波防災の日に加えて制定していただきたいと思います。
是非、多くのみなさまから賛同をいただければ幸いです、下記が登録フォームです。
https://www.bousai-edu.jp/info/saigai-denshou/

<2021年2月28日>福島県沖地震について

先日発生しました福島県沖地震についてお話し致します。 2月13日23時07分、マグニチュード7.3の地震が発生しました。震源地は福島県沖、震源の深さは55km。宮城県の蔵王町、福島県の国見町、相馬市、新地町で最大震度6強を観測した他、北海道から中国地方にかけて震度6弱~1を観測しました。今回の地震は「平成23年東北地方太平洋沖地震」の余震と考えられます。沈み込む太平洋プレート内での逆断層型の地震のようです。
発生メカニズムとしては2011年4月7日M7.2の地震に似ています。一般には深いところで発生した地震の余震は少ないですが、この地震が周辺域(プレート境界も含め)に影響を与えているため、油断はできません。また、地震の規模から津波の可能性もありましたが、震源の深さが55km程であったため、海底の変動が小さく、被害を起こすような津波の発生はありませんでした。なお、石巻や鮎川では、若干の潮位変動がありました。
建物の構造被害に影響すると指摘されている周期1s強の振幅は、過去に建物倒壊が多かった地点のレベルには達していませんでした。 ただし、加速度は大きい地点があったため、非構造材・設備、外壁・屋根・ブロック塀などの被害や土砂災害も発生しました。

<2021年2月21日>東日本大震災の教訓~防災情報のトレードオフ

「東北地方太平洋沖地震」での津波警報の第1報は過小評価されたものでした。50年以上前から運用されてきた信頼度の高い気象庁の警報システムでしたが、地震のマグニチュードのみに準拠して津波の予想高をはじき出したため、精度が低かったのです。
緊急情報は「時間」と「精度」がトレードオフ(二律背反)の関係にあります。情報提供までが短時間だと、精度の低さは問題になりますが、迅速な対応が可能になります。一方、時間をかければ、複数の情報が集まってその精度は上がりますが、対応は遅れてしまいます。短時間でいかにさまざまな情報を得られるか、限られた時間の中でその情報をいかに活用して避難誘導に結びつけるのか。
さらに、自己判断で避難行動を中断してしまわないように、警報を発令するときはその解除のタイミングも併せて周知しなくてはいけないのです。このトレードオフの命題を解決するには、リアルタイムの情報共有が欠かせません。たとえばSNSのデータに基づいた人の動きをビジュアル化して提供できれば、「時間」と「精度」の溝を埋めることができるのではないかと思っています。
現在、台風や大雨対策を各個人や家庭で事前にプランニングする「マイ・タイムライン」作成の推進が求められています。

<2021年2月14日>東日本大震災の教訓~想定と危機管理

地震や津波などの対策を実施する上では、過去どのような災害が発生しているのか、その規模と頻度を把握することから始めます。そこから、今後同じような災害が起きた場合にどのような影響や被害が出るかを想定します。その上で、事前にどのように被害を軽減できるかを検討することが肝要です。しかし、3.11も含めて、事前の想定通りには発生しない場合も多く、それに対応する危機管理が必要です。本日は、この「想定と危機管理」についてお話ししたいと思います。
○東北地方での事前の想定について
当時は、日本海溝・千島海溝型地震に関する専門調査会報告(平成18年1月)に基づいた対応計画(シナリオ)の下、各県での地震等の被害想定と対策、第2次みやぎ震災対策アクションプラン(平成21年3月)が実施されており、それに基づいて、防災予算を組み、対策が取られていました。しかし、実際には、下記のように、この想定をはるかに超えた災害となりました。
巨大地震:3分強震が継続、余震活動は現在も続く。
巨大津波:1日半津波警報などが解除できず、黒い津波・漂流物、河川津波、長期浸水が生じていました。南三陸町、陸戦高田市、大槌町などでは役場も浸水してしまい、行政機能が失われ、直後からの緊急対応に大きな支障が生じました。また、連鎖災害として福島第一原発事故が発生しました。
○危機管理―各段階での不確実な状況下での判断と対応が必要
地震に基づく津波警報発令後に、リアルタイム観測の入手により、津波情報が修正されていきました。当時、行政機関などは電源喪失により情報収集ができない中、被害実態の把握は極めて難しいものでした。その中でも、初動対応として、道路啓開(くしの歯作戦)、ライフラインやインフラの復旧対応が実施されていきました。事前の訓練や関係機関の協力協定などで危機管理がなされて行ったのです。しかしながら、行方不明者の捜索活動、ご遺体の収容作業が続く中での復旧・復興計画の策定は困難を極めました。特に、避難所に分散した住民への説明会の開催、合意形成は難しいものでした。

<2021年2月14日>東日本大震災の教訓~想定と危機管理

地震や津波などの対策を実施する上では、過去どのような災害が発生しているのか、その規模と頻度を把握することから始めます。そこから、今後同じような災害が起きた場合にどのような影響や被害が出るかを想定します。その上で、事前にどのように被害を軽減できるかを検討することが肝要です。しかし、3.11も含めて、事前の想定通りには発生しない場合も多く、それに対応する危機管理が必要です。本日は、この「想定と危機管理」についてお話ししたいと思います。
○東北地方での事前の想定について
当時は、日本海溝・千島海溝型地震に関する専門調査会報告(平成18年1月)に基づいた対応計画(シナリオ)の下、各県での地震等の被害想定と対策、第2次みやぎ震災対策アクションプラン(平成21年3月)が実施されており、それに基づいて、防災予算を組み、対策が取られていました。しかし、実際には、下記のように、この想定をはるかに超えた災害となりました。
巨大地震:3分強震が継続、余震活動は現在も続く。
巨大津波:1日半津波警報などが解除できず、黒い津波・漂流物、河川津波、長期浸水が生じていました。南三陸町、陸戦高田市、大槌町などでは役場も浸水してしまい、行政機能が失われ、直後からの緊急対応に大きな支障が生じました。また、連鎖災害として福島第一原発事故が発生しました。
○危機管理―各段階での不確実な状況下での判断と対応が必要
地震に基づく津波警報発令後に、リアルタイム観測の入手により、津波情報が修正されていきました。当時、行政機関などは電源喪失により情報収集ができない中、被害実態の把握は極めて難しいものでした。その中でも、初動対応として、道路啓開(くしの歯作戦)、ライフラインやインフラの復旧対応が実施されていきました。事前の訓練や関係機関の協力協定などで危機管理がなされて行ったのです。しかしながら、行方不明者の捜索活動、ご遺体の収容作業が続く中での復旧・復興計画の策定は困難を極めました。特に、避難所に分散した住民への説明会の開催、合意形成は難しいものでした。

<2021年2月7日>震災アーカイブ~記憶と記録の伝承に向けて~

東日本大震災の特徴として、広域性、複合性、連鎖性などありますが、映像や画像、ビッグデータも含めて極めて多様で大量なデータが残されていることから、記憶を整理し記録を残し、活用するさまざまな取り組みが震災直後から始まりました。震災の記録にあたっては、災害そのものだけでなく復旧や復興の過程をまとめ、他の地域や後世に伝えることも重要であります。我が国では過去に多くの自然災害等を経験する中で、当時の経験や教訓を後世に伝えていこうという伝承文化があり、今日でも各地域で受け継がれ、我が国の防災における大きな柱となっております。そこには、被害実態とともに、誰が、どのようにして被災した地域を再建し、さらには被害を繰り返さない工夫(社会制度)を創りあげてきたのかなどの取り組みが記録されており、将来の防災を考える際に学ぶべき内容が多いのです。
記憶はそれぞれの個人として主観的な思いであり、記録は周辺も含めて客観的な内容になっており、双方の保存と伝承が必要になります。先日(1月11日)、11回目となる震災アーカイブシンポジウムがオンライン開催されました。
1)事例報告;大槌町および福島県での取り組み
2)総括報告;宮城県、NHK、国立国会図書館、東北大学災害科学国際研究所
3)パネルディスカッション;これまでに10年に加えて、今後の10年について議論
https://irides.tohoku.ac.jp/media/files/_u/event/file/archive_sympo_20210111_rev.pdf

<2021年1月24日>震災ビックデータ

東日本大震災当時は、カーナビのGPS情報やツイッターに投稿されたつぶやきなどのデジタルデータが残されていました。これらは広域に多数あるため「震災ビッグデータ」と呼ばれています。震災直後から、"あの日"に記録された「震災ビッグデータ」を活用し、被害の実態を検証する試みが始まりました。ビッグデータを通して見えてくるのは、人や車の動きであり、当時発せられたメッセージや呼びかけ(助け)がありました。地震の後、津波警報が発表されているにもかかわらず、沿岸部の危険地域に入る人の動きや、市内での避難不可能な超渋滞現象などを確認することができました。これまで明らかにされてこなかった大震災の実像になります。
「東日本大震災が発生した瞬間、浸水域に何人がいたのか?」「津波警報が出た後、人はいつ避難を始めたのか?」「どういう情報が流れていたのか?」「地震後に発生した渋滞の中で、100m進むのにどのぐらいの時間がかかったのか?」
このような取組が紹介されたのが、震災2年目の2013年3月と9月の2回にわたって放送されたNHKスぺシャル『震災ビッグデータ』になります。第1回は、発災後1週間の記録をひもとき、避難行動の解明や住民孤立の実態、SNSによる救援/救助の可能性を検証していました。9月放送の第2回では、解析範囲を2年半に広げ、被災地域の人口変遷や復興格差を示し、地域再生を牽引する企業の存在をデータから明らかにしました。その後に、NHKやグーグル日本法人、ツイッター社など8社・団体が、それぞれが有する膨大な災害関連情報を持ち寄り、解析を試みられています。
NHKスペシャル"いのちの記録"を未来へ~震災ビッグデータhttps://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009050060_00000

<2021年1月24日>東日本大震災の教訓

東日本大震災の教訓について、本日は以下の2事例を紹介させていただきます。
1.我々は備え以上のことはできませんでした。
出来た備えとしては、耐震化、関係機関協定、啓開・復旧活動、防災訓練、一定の備蓄などが挙げられます。
一方で、出来なかった備えは、津波避難(想定を超える範囲で、多数の犠牲者、当時60万人が浸水範囲にいたと推定される)、複合災害対応、帰宅困難者、大規模捜索・ご遺体の対応、避難所の長期運営などがありました。
2.事前防災(取組)は確実に被害を軽減できますが、ゼロにはできませんでした。
事前対応の1つとして、社会基盤やインフラがありますが、仙台東部道路(盛り土構造、緊急避難場所)、三陸自動車道(2次避難)、さらに、グリーンインフラとして防潮林の減災効果のあった地域もありました。対応や被害状況が分かれたのは、学校での避難であり、建物内(学校内)で無事であった事例もあれば、犠牲者を出した事例もありました。なお、学校で安全な避難が出来た事例の共通項目としては、事前の訓練、教職員間での対応確認、地元との連携などが挙げられます。

<2021年1月17日>震災のバトンリレー

当時の経験や教訓を引き継いでいく、繋いでいく、継承していく。このことが東日本大震災10年を前に注目されています。地震・津波などの自然災害は、様々な地域で発生しています。同じ場所で繰り返して生じる場合も多くあります。そのために、当時の経験や教訓が、備えであったり、直前の災害時での対応などに役立ちます。 例えば、1995年阪神・淡路大震災以降、以下のような大きな被害をもたらした地震・津波がありました:
1995阪神・淡路ー1999台湾ー2004中越ー2004インド洋ー2008中国ー2011東日本ー2015ネパールー2016熊本ー2018インドネシア・北海道胆振東部
国や地域、被害の程度は違っていても役立つ経験や情報がたくさんあり、それをバトンで繋いでいくことが大切です。東日本大震災でも、下記のようなものがありました。
①バイク愛好家によるバトンリレー:
東日本大震災の被災地に思いや義援金などを届けようという取り組みがありました。
https://kobe.keizai.biz/headline/1270/
②歌によるバトンリレー: 「サントリー 希望の歌バトンリレー」。広告宣伝に登場しているタレントさんたち(矢沢永吉、竹内結子、小雪、石原さとみ、檀れい、吉高由里子など)が希望の歌をバトンリレーで歌われていました。『上を向いて歩こう』『見上げてごらん夜の星を』などがあります。ピアノは坂本龍一が演奏されていました。
https://japan.cnet.com/article/35002025/

<2021年1月10日>「21世紀文明シンポジウム」についてて

「21世紀文明シンポジウム」が、1月21日(木)オンラインで開催されます。今回のテーマは、「東日本大震災から10年~復興の教訓と未来への展望~」です。本日は、このシンポジウムについて紹介いたします。
21世紀文明シンポジウムとは?
21世紀の諸課題について、重点研究領域の研究成果も踏まえ、行政関係者・県民が一堂に会し、幅広い観点から議論を深めます。大規模災害が多発する日本列島にあって防災・減災に関する研究成果を広く発信することにより、国民的な防災意識を高め安全・安心な減災社会の実現が重要です。そのために、ひょうご震災記念21世紀研究機構が企画し、平成20年から毎年開催されています。
平成28年6月には、機構、朝日新聞社、東北大学災害科学国際研究所の三者が、防災・減災をテーマにした「21世紀文明シンポジウム」を32年度までの5年にわたって共催していくことで合意しました。第1回の「21世紀の日本人の生き方を考える-いま問われる規範意識とは-」に始まり、さまざまなテーマを掲げて開催されてきました。
主催するひょうご震災記念21世紀研究機についても紹介したいと思います。
阪神・淡路大震災の教訓から得た21世紀の成熟社会の基本課題である安全・安心なまちづくり、共生社会の実現を図ることを目的としています。命の尊厳と生きる歓びを高めるヒューマンケアの理念に基づき、総合的なシンクタンクとして調査研究を進めるとともに、諸課題について政策提言等を行い、21世紀文明の創造に寄与されています。以下が主な組織です。
1.研究戦略センター
2.阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター
3.兵庫県こころのケアセンター

<2021年1月3日>2021年前半の主な予定について

1月21日『21世紀文明シンポジウム;東日本大震災から10年~復興の教訓と未来への展望~』(オンライン開催)
これまでの歩みや現状を踏まえ、復興はどこまで成し遂げられたのか、残された課題にどのように取り組むべきか、さらにはその経験や教訓を次なる巨大災害への備えや復興にどのように生かすべきかなどについて考えます。
・「国土の復旧から暮らしの再建へ-政策の転換とその成果」岡本全勝氏(復興庁顧問)
・「『災後』10年に見る『復興』日本-東日本大震災とは?」御厨貴氏(ひょうご震災記念21世紀研究機構研究戦略センター長/東京大学名誉教授)
・パネルディスカッション「東日本大震災の教訓と未来への展望~あるべき復興社会像の実現に向けて」 

2月27日、東北大学震災10年シンポ 震災復興新生研究機構
10年間の活動を総括し、いただいた支援への感謝を示すとともに、10年目以降の未来に向けた新たな決意を表明します。8プロジェクトのパネル展示&プロジェクトリーダーからのメッセージビデオ「震災10年の知と未来事業」放映、JAMSTEC主催シンポジウム。【共催企画】宮城県、仙台市によるパネル展示等、デモンストレーション(災害対応ロボット、みちのく震録伝等) 

3月6日、7日 仙台防災未来フォーラム
「仙台防災未来フォーラム」は、東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、発表や展示、体験型プログラムなどを通じて市民のみなさまが防災を学び、日頃の活動を発信できるイベントです。2016年から毎年3月に開催していますが、今年のテーマは「東日本大震災から10年~よりよい未来のために」です。 

3月7日、IRIDeS定例シンポジウム
災害科学国際研究所シンポジウム「東日本大震災から10年とこれから」が同時開催されます。災害研の今後の10年への期待、被災地自治体、マスコミ関係者、災害研の外部評価者などをパネリストに迎え、議論いたします。
 
4月23日・24日 デジタルアーカイブ学会学術大会
災害科学国際研究所を会場に、東日本大震災から10年を迎えた震災アーカイブの課題と展望、デジタル・オンライン研究教育の現状、役割、課題―解決と残された課題、大規模災害としての震災と感染症 ー経験と教訓の記録などが行われる予定です。