<2020年12月27日> 2020年を振り返って―後半

国内外で新型コロナウイルスの影響が広がり、大きな影響と被害が出ています。今回のような大規模感染症への対応は災害でも共通することが多くあり、事前対応、発生時での緊急対応、その後の復旧(復興)などフェーズに分けて整理することができます。以前から災害時における避難所での感染症対策は進められていましたが、今年、避難所の密を防ぐAI活用実験および訓練が行われました。避難所の入り口に設置されたカメラの映像からAIが避難する人の数や年代、性別などを分析して中の混雑度を推定するものです。
7月に熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で集中豪雨が発生しました。豪雨の期間は7月3日から7月31日におよびました。
津波防災をはじめとする沿岸防災技術分野で顕著な功績を挙げた人を表彰する濱口梧陵国際賞(国土交通大臣賞)を受賞しました。2016 年に首藤伸夫名誉教授も受賞されており、東北大学では2名目になります。
震災前から、災害時の食に注目し、コンテストなどを行ってきた我々の『サバ・メシ)』の取り組みが、9月、NHKのテレビ番組「あの日をつなぐ"思い出レシピ"」で紹介されました。震災時、過酷な状況の中で実際に作られたレシピも、考案した方のインタビューと共に紹介され、全国から多くの反響が寄せられました。
児童や地域住民ら90人の命を守り抜いた宮城県山元町の旧中浜小学校震災遺構がオープンしました。また、福島の「東日本大震災・原子力災害伝承館」も開館しました。

<2020年12月20日> 2020年を振り返って―前半

1月17日、阪神・淡路大震災から25年の節目を迎えました。ひと世代が変わり、記憶や教訓の風化が課題となっており、「震災を風化させない―『忘れない』『伝える』『活かす』『備える』」を基本に様々な取組が実施されました。その中で「2020 世界災害語り継ぎフォーラム~災害の記憶をつなぐ~」の開催もありました。

3月には東日本大震災9年を経過し10年目に入りました。令和の時代に入り、期待と不安が交錯する新時代に向けて、防災の現状と課題・解決策が議論されています。その中、国内外で新型コロナウイルスの影響が広がり、大きな影響や被害が出ています。今回のような大規模な感染症への対応は災害でも共通することが多くあります。事前対応、発生時での緊急対応、その後の復旧(復興)などフェーズに分けて整理することが出来ます。東北大学では3つの卓越大学院プログラム(未来型医療、人工知能エレクトロニクス、変動地球共生学)があり、今年から「ニューノーマルを創る」~コロナ新時代を拓くセミナーシリーズを開催しております。2回目は、「災害としての大規模感染症:レジリエント社会構築に向けて」という内容でした。感染症も含めた災害・禍(わざわい)は残念ながら過去も繰り返し発生しており、被害を軽減するには、この経験と教訓を伝えることが大切です。その手法(防災文化)の1つがお祭りであります。祇園祭が代表例であり、全国に広がっています。

今年は、初めての単著「逆流する津波―河川津波のメカニズム・脅威と防災―」(成山堂書店)を出版させていただきました。東日本大震災以来、注目されることの多い「河川津波」を取り上げ、そのメカニズムから脅威、津波全般に関しての防災・減災の考え方を紹介しています。

また、南海トラフ沿いの地震による津波を対象に、地震調査委員会として初めて確率的評価を発表しました。「波源断層を特性化した津波の予測手法(津波レシピ)」(平成29年1月公表)に基づき、地震発生可能性の長期評価が行われた海溝型地震の津波評価を実施しています。

<2020年12月13日>コロナ禍での震災伝承について

\東日本大震災被災者の法律相談などを数多く行った、弁護士の岡本正さん著「被災したあなたを助けるお金とくらしの話」(弘文堂)が出版され、突然発生する災害などで被災した時にあなたを助ける支援制度についてわかりやすく紹介されています。
災害への備えについてはさまざまありますが、今考えておかなければならないこと、それが、まず直面する生活再建の問題です。本書では被災後どんな問題が起き、どんな支援制度があるのか、事例を交えてわかりやすく紹介されています。「家が被災してしまった」「地震や台風で通帳や保険証をなくしてしまった」「公共料金やローンが支払えない」など・・・知識の備えも重要な防災対策と考え、普段の生活を取り戻すことが大切です。
まずは、罹災(りさい)証明書の取得から始まります。災害による住宅の被害の程度を証明するために被災者の申請に基づいて自治体が発行する証明書です。被災者であることの証明や被害の程度が一目瞭然となり、被災者生活再建支援金の支給要件の判断などにも利用されます。重要なのは、この罹災証明制度を知ったうえで、行政の窓口で手続きが開始されたら自ら申請を行うことです(自治体も被災しているので、災害直後すぐに手続きが始まるとは限りません)。生活再建への「最初の希望となる第一歩」といえるかもしれません。さらに、被災者生活再建支援金、災害弔慰金、災害援護資金、自治体などの義援金等、さまざまな支援金制度の活用についても知っておくことも大切です。

<2020年12月6日>コロナ禍での震災伝承について

現在もコロナ禍であり、最近は第3波の影響も大きく出ております。今年3月、東日本大震災から9年が経ちましたが、3月11日前後のさまざまな取組や慰霊の企画などが中止または規模の縮小を余儀なくされました。その後も、震災の伝承活動に大きな影響を与えています。
先日、NHKラジオで特集番組があり、毎年、震災があった3月は被災地に最も多くの方が来てくださる時期ですが、佐藤翔輔准教授の報告によりますと、今年の3月は、昨年に比べて、3割以下にとどまったということです。コロナのインパクトが強いあまり、震災の記憶が今以上に薄れていくことが懸念されています。また、「3.11みらいサポート」理事の藤間千尋さんからは、2月後半くらいから、連日予約のキャンセルがあり、多いときはひと月に6~700人を受け入れていた状況が10人~15人と激減したということです。その中で、オンラインによる語り部活動を始められ、熊本をはじめ全国で聞いていただいているということです。「オンラインでやってしまうと地元に来てくれなくなるんじゃないですか」と言われることもありますが、逆に聞いた方たちから「現場に行きたくなった」という感想もいただき、距離を超えた交流ができるという点ではメリットも感じているということです。
NHK東日本大震災音声アーカイブーあれから、そして未来へー
https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/detail/311shogen20201010.html

<2020年11月29日>避難指示と勧告について

災害時には市区町村が避難情報を発令します。勧告と指示があります。命を守る大変に重要な情報になります。勧告と指示は、いずれも危険な場所からの「全員避難」を求めるもので、5段階の警戒レベルで同じ「4」にあたります。
歴史的には、1961年に制定された災害対策基本法に避難勧告・指示が規定されています。2005年に避難勧告等の判断基準が定められ、2017年の避難勧告等に関するカイトラインの改定により、避難準備情報と避難指示の名称を変更、避難準備情報→避難準備・高齢者等避難開始、避難指示→避難指示(緊急)となりました。
ところが、従来から、用語の区別、優先性がわかりにくいなどの指摘があったため、内閣府は今年8月21日、「避難勧告」を廃止し、「避難指示」に一本化する案を正式に公表しました。あわせて、災害が確認された場合に出す「災害発生情報」も見直し、災害の恐れが切迫していることを知らせる新たな情報を設けることになったのです。新制度は2021年度からの運用開始を目指します。

<2020年11月22日>『スマートコミュニティ』でのレジリエンス向上にむけて

『スマートコミュニティ』とは、無駄のない、機能の充実した地域であり、インターネット・情報システムを活用しエネルギー最適利用(エコも含めて)や生活インフラの管理に用いることで、生活の質の向上や都市のサービスの効率向上を図ることができる未来型の地域(都市)です。「環境配慮型地域」とも呼ばれています。現在に加えて、将来(次の世代)で経済・社会・環境さらには防災の観点で満足できる地域であります。
日本政府は、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新しい社会「Society 5.0」(超スマート社会)を、めざすべき未来社会の姿として提唱しています。ここでは、バーチャル(仮想)空間とフィジカル(現実)空間の融合を目指しており、超スマート社会をまちづくり分野で具体化させる重要なキーワードが『スマートコミュニティ』になります。地域の防災力には、ハード整備だけではなく、日々の暮らしの中で育まれるソフトなシステムが必要です。非常時の自然災害対応を強化することで、インフラ維持管理、情報コミュニティ形成、技術的なイノベーション促進などの活動を強化することにもつながります。最近は省エネやエコロジーの観点からも自立分散型のエネルギー(電力)・通信・情報に関心が高まっています。災害時にはネットワークがどこかで寸断されますが、地域全体がブラックアウト等にならないように、エネルギーの管理や事前の分散化を行うことが重要です。
グリーンインフラは自然の機能や力を活用し災害を管理するだけではなく、生態系との共生や自然保護も目的としています。グリーンインフラと組み合わせて、既存の施設や道路などを防災に役立てます。東日本大震災の際には、仙台東部道路へ300名以上の方が避難でき、その後安全エリアを確保し避難階段を設置するなどの改善も進んでいます。また、平地などで避難が困難なエリアには、集会場・備蓄倉庫などの多機能な津波避難タワーも整備されています。

<2020年11月15日>『レジリエンス』とは?―どのような意味を持つのか?

最近、メディアなどで『レジリエンスresilience』という言葉をよく耳にされると思います。新型コロナ対策、自然災害、環境などの会議でよく使われていますし、さまざまな書籍も出版され、多くの研究者がレジリエンスに取り組むようになってきました。たとえば、第3回国連防災世界会議の成果文書として採択された「仙台防災枠組2015-2030」では、4つの優先行動と7つのターゲットが合意されましたが、その中でも、「レジリエンスのための災害リスク軽減への投資をする」「2030年までに、保健や教育施設など重要なインフラへ損害や基本的サービスの破壊をレジリエンス(回復力・強靭性)の開発を通じて実質的に減らす」などが謳われています。
『レジリエンス』とは、もともとは「反発性」「弾力性」を示す物理学の用語でした。「外からの力が加わっても、また元の姿に戻れる復元力」という意味です。日本では竹のようなイメージで「しなやかな強さ」と呼ばれることもあります。『レジリエンス』の考えは、元々は生態系分野と心理学分野でそれぞれ発展し、最近では、防災・温暖化対策、地域づくり、教育・子育てなどでも使われるようになったのです。心理学の分野ではトラウマ体験やストレス状況など、ネガティブや辛いことが起こったときに、心が折れてしまう人もいれば、なんとか立ち直れる人もいます。辛い経験を持ちながらも自己肯定的に前に進もうという立ち直れる力を意味しています。また、自然システムや生態系は、様々な変化や変動をしていますので、多様性を持つと伴に順応性があります。地震・津波、火山噴火や洪水、山火事などは自然現象でありますが、突然の異変により災害が発生します。これは攪乱と言ってもよいかと思います。この攪乱に耐え、機能特性を失わずに回復する自然システムや生態系に能力として持っており。これが生態系のレジリエンスになります。また、災害に対しては、被害を受けても個人や家庭、企業や組織、地域などが折れてしまうことなく、被災前さらにはよりよい状態に戻れる力が防災・減災でのレジリエンスになります。

<2020年11月8日>濱口梧陵国際賞にいて

濱口梧陵国際賞(国土交通大臣賞)は、我が国の津波防災の日である11月5日が「世界津波の日」に制定されたことを受け、沿岸防災技術に係る国内外で啓発及び普及促進を図るべく、国際津波・沿岸防災技術啓発事業組織委員会によって2016年に創設された国際的な賞です。
https://www.mlit.go.jp/report/press/port07_hh_000138.html
濱口梧陵は現在の和歌山県広川町で生誕。安政元年(1854年)大地震が発生、大津波が一帯を襲いました。このとき梧陵は、稲むら(稲束を積み重ねたもの)に火を放ち、この火を目印に村人を誘導、安全な場所に避難させました。その後も被災者用の小屋の建設、防波堤の築造等の復興にも取り組み、後の津波による被害を最小限に抑えたと言われています。
この度、この名誉ある国際賞を受けることができました。「30年以上にわたって津波防災・減災技術開発、津波数値解析、津波被害調査などを実施している。現在は津波数値モデル移転国際プロジェクト(TIME)責任者として国内外で活動しており、特に、1992年ニカラグラ地震津波以降の災害調査では、国際調査チームの中核役として災害実態の報告や復旧・復興への助言を行っている。津波に関する学術論文は英文・和文150編を超え、巻頭言・基調論文など多数の出版も行っている。また、国連提唱の「世界津波の日」関連の防災啓発活動も支援・推進し、過去400年間の世界での津波リスク評価を発表するなど貢献している。中央防災会議専門調査会委員、東日本大震災復興構想会議検討部会委員、国際測地学・地球物理学連合津波委員会副委員長などを歴任し、昨年8月より一般財団法人3.11ロード推進機構代表理事を務めている。」などが評価されました。

<2020年11月1日>世界津波の日~高校生サミット

11月5日の「世界津波の日」は、津波の脅威と対策について理解と関心を深めることを目的に、2015年12月の国連総会において、日本が提唱し、我が国をはじめ142か国が共同提案を行い、全会一致で採択されました。翌2016年からは、世界各国の高校生が津波の脅威と対策について学ぶ場として、「世界津波の日~高校生サミット」が開催されており、2016年高知県では「黒潮宣言」、2017年沖縄県では「若き津波防災大使ノート」、2018年和歌山県では「稲むらの火継承宣言」が採択されています。そして2019年には北海道(札幌)で開催されました。その時のテーマが”記憶を未来へ、備えを明日へ”~北の大地からイランカラフテ(ようこそ)自然災害の脅威と対応を学ふ~でした。日本から68校249名、海外から257名43か国か国の参加がありました。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/sks/kss/index.htm
宮城県内からも、気仙沼高等学校佐沼高等学校仙台第一高等学校 仙台第三高等学校多賀城高等学校 が参加されました。
世界的に見ても、約23万人の犠牲者を出した2004年のインドネシア・スマトラ沖地震・津波のほか、2005年のパキスタン地震、2008年の中国四川大地震、ミャンマーのサイクロン・ナルギス、2010年のハイチ地震、そして2011年の東日本大震災など、いずれも数十万・数万人規模の犠牲者を出した大災害が発生し、世界の持続可能な開発を進める上で、災害被害の軽減は国際社会の重要な課題です。若い世代が防災の中核になる取組は今後も継続していただきたいと思います。

<2020年10月25日>酒田市飛島での津波避難対策について

飛島は、酒田港から北西39キロメートルの沖合に浮かぶ、山形県唯一の有人島で、勝浦、中村、北側の法木の計3ヶ所の集落があります。島の名称の由来には、鳥海山の山頂が噴火によって吹き飛んで島になったという伝説があります。景観、環境、地質・地学的にも豊かでユニークで、鳥海山・飛島ジオパークとして認定(2016年)されています。「大地の多様性を感じる不思議の島」というテーマがあり、舘岩(たていわ)、海岸遊歩道、ゴトロ浜(海底火山から噴出した火山弾と火山灰が交互に堆積した地層)、タブノキの森などがあります。また、飛島はトビウオが回遊する北限に位置し、酒田ラーメンではあごだし(トビウオのだし)をスープに使用しています。江戸時代には、北前船の航路・寄港地として酒田が栄えており、飛島は、その風待ち港でもありました。
今回、この飛島を津波避難計画支援のために視察・現地調査を実施して参りました。飛島は、現在の人口は200人余りで、高齢化率70%になります。現地踏査・調査及び島民意見を踏まえた避難対策について以下を提言しました。
▪「逃げるが勝ち」、原則として歩いて避難する。
▪海岸近くでは、高台や鉄筋コンクリート造の高い建物に避難する。
▪「津波は来ない」と思い込まない。弱い揺れの地震でも津波が来ることがある。前触れとして必ず引き潮があるとは限らない。
▪津波警報が解除されるまで避難場所にとどまり、自宅には絶対に戻らない。
酒田市での防災計画を踏まえた、下記のような飛島モデルの提案が必要です。
①短時間での津波避難が必須
②強い揺れを伴うため、避難路確保(建物倒壊・火災発生抑止)が重要
③建物耐震化(火災防止)のために、空き家の取り壊し等が必要
④高齢者率が高いため、移動手段(車避難の検討)確保が必要
⑤車避難が必要な方の把握(区画の調査)
⑥観光シーズンでの来客者への避難誘導

<2020年10月18日>山形県での地震・津波最大クラスの再評価

日本海側での大地震の発生に備えた山形県津波浸水想定・被害想定検討委員会(委員長・今村文彦)が設置され、その対策や活動が始まりました。政府が「最大クラスの津波」を発生させる津波断層モデルを公表したことを受けたものです。被害想定は、庄内地方から新潟県下越地方の沖合に伸びる断層(F34)がM(マグニチュード)7.7の地震を起こした場合と、それより北側の断層(F30)がM7.8の地震、さらに追加断層(R28)で地震を起こしたケースを中心に検討されました。いずれもこの海域では最大クラスの津波を起こす規模です。
評価においては:
①山形県の沿岸を7つの地域海岸に区分
②過去に山形県沿岸に襲来した実績津波高の整理
③発生が想定される津波の想定津波高の整理
④地域海岸ごとに「最大クラスの津波」を設定
これらの結果は、津波の最大高さ・浸水範囲、到達時間、影響時間などとしてまとめられ、ハザードマップにも掲載されています。また、冬期に道路の積雪や凍結で避難が難しい深夜に地震が発生した場合などを想定する必要があります。その結果の一部として、津波などによる死者が最大5,000人にのぼるとの被害想定も報告されています。一方、避難を早めた場合は津波による死者を8割減らすことも可能とされ、山形県は沿岸市町と防災対策を進めています。その中で、昨年6月には、山形県沖で地震が発生し、津波注意報も出されました。基本的には、津波到達時間が早くなっていますので、気象庁の津波警報等の発表を待つことなく、緊急地震速報が出されたり、地震の揺れがおさまったら避難を開始する必要があります。
酒田市では、山形県が発表した津波浸水域予測図を参考にしながら、関係するコミュニティ振興会、自治会、自主防災組織、事業所など、地域の皆さんの協力を得て、新たな津波ハザードマップを作成し、活用しています。

<2020年10月11日>東日本大震災・原子力災害伝承館について

 福島県では、災害の記録と記憶を国や世代を越えて伝えるとともに、復興に向けて力強く進む福島県の姿や、これまで国内外からいただいた御支援に対する感謝の思いを発信するため「東日本大震災・原子力災害伝承館」の整備を進めていました。この伝承館では、特に福島だけが経験した原子力災害をしっかり伝えることとし、以下の3つの基本理念を掲げています。
◯原子力災害と復興の記録や教訓の「未来への継承・世界との共有」
◯福島にしかない原子力災害の経験や教訓を生かす「防災・減災」
◯福島に心を寄せる人々や団体と連携し、地域コミュニティや文化・伝統の再生、復興を担う人材の育成等による「復興の加速化への寄与」
この施設が9月20日開館しました。初日には、1000名以上の方が来場、26日には、管首相も訪問されています。この伝承館は福島のイノべーション構想における情報発信拠点と位置づけられており、地震や原子力災害および復興の過程を示す資料を収集保存しています。また、これらを展示して災害・復興に関する情報を発信し、さらにフィールドワークやワークショップ等の研修プログラム等を実施する予定です。県が保管・収集した約24万点のうち、約170点を展示しています。原発の誘致に始まり、震災と原発事故前の生活、複合災害の発生、混乱と長期にわたる避難、復興への歩みまでを各エリアに分けて伝えています。今後、県内外の伝承施設や資料館との連携、被災地を巡る教育旅行の受け入れ態勢の強化なども検討されています。

<2020年10月4日>旧中浜小学校震災遺構について

 東日本大震災から10年を迎える中で、遺構や伝承館などの施設が各地で保存され整備されております。東日本大震災の大津波による甚大な被害を後世に伝え、風化防止と防災意識の向上を目的としています。9月26日、児童や地域住民ら90人の命を守り抜いた宮城県山元町の旧中浜小学校校舎が、震災遺構として一般公開されました。旧中浜小の校舎は鉄筋コンクリート2階建て、海岸線から約400mの場所にあり、大震災の津波で2階天井まで浸水しましたが、事前の訓練と当時の判断により児童や教員らは屋上に避難しました。屋根裏の倉庫で氷点下の中一晩を明かし、翌朝全員無事に救助されました。
今回保存された内部は、ほぼ被災直後の状態のままです。当時、2011年3月9日に三陸沖地震(前震)が発生し、大きな揺れの後に津波注意報が出されたことを受けて、翌10日の朝会で、津波避難について打ち合わせを行っていました。過去に大きな被害の歴史や経験はありませんでしたが、小学校の位置は津波の危険地帯であることを校長も教職員も意識されていたそうです。年1回の防災訓練のたびに議論もされていたそうです。津波からの避難場所は高台にある坂元中となっていましたが、移動に20分以上かかるため、時間がなければ構造的に頑丈な校舎の上へ上がることが検討されていました。屋上施設があることもあり、校長と職員の考えが一致し迷いはなかったそうです。津波から避難した後、校長先生は「今夜はここに泊ります。食べ物はありません。水もありません。とても寒くなります。でも、朝まで頑張ろう。暖かい朝日は必ず昇るから」と子供たちを励ましたということです。大人が守る姿勢を明快に示したこと、直撃の瞬間を児童に見せないこと、子どもの防寒着を確保したこと等が、特筆されます。
https://www.town.yamamoto.miyagi.jp/soshiki/20/8051.html

<2020年9月27日>避難所の密を防ぐAI活用実験および訓練(台風想定)

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、災害時に避難所が混雑するのを防ぎ、感染リスクを軽減させるため、AI(人工知能)を活用する実験が川崎市で行われました。この避難訓練では、避難所の入り口に設置されたカメラの映像から富士通のAIが、避難する人の数や年代、性別などを分析して中の混雑度を推定、その結果を使って、市の対策本部が、避難してくる人を別の避難所へ誘導する仕組みです。また、避難してきた人同士が1メートル以内で5分以上接触すると警告を表示する機能も付いています。
実証実験は8月31日13時、16時、川崎市立殿町(とのまち)小学校で行われ、参加者は約80人でした。この小学校は2019年の台風19号で500名が避難した場所で、混雑のため、近隣の病院に100名が移動、さらに、近くの避難所にバスで避難者が移動しました。実証実験当日は、3つの避難所付近に設置したカメラ映像から避難者の数や属性などの情報を富士通のAI画像解析ソリューションで自動収集し、避難所の混雑状況を可視化することができました。計測した避難者の情報を災害対策本部にリアルタイムに集約することで、避難状況の的確な把握に向けた有効性を評価出来ました。
川崎市危機管理室の飯塚豊室長は「去年の台風19号では大勢の避難者の対応に追われ災害対策本部に情報が集約できなかった。新型コロナウイルスの感染拡大に備える避難所の運営に、AIによる見える化は役立つと思う。実際にどう生かすのか検討を続けたい」と話していました。

<2020年9月20日>AIを活用した「密」を避けるための試み

 避難所での「密」を避けるため、AI(人工知能)・シミュレーションの活用が検討されています。東北大学災害科学国際研究所、東京大学地震研究所、富士通、川崎市は実証実験に向け、研究開発を行っています。特に、都市部の災害避難では、避難所が過度に混雑することが想定され、災害から逃れて安全を確保するのと同時に、避難所の3密による新型コロナウイルスの感染リスクを低減することが重要であります。そこで、4者は実証実験に向けて、避難者の中に新型コロナウイルス感染者がいると仮定した上で人の流れの違いで異なる感染リスクをもとに、感染を考慮した「人流シミュレーション」を開発しています。この結果を可視化し、適切な避難所運営計画に反映できるように検討しています。
具体的には、避難者の中に新型コロナウイルス感染者がいると仮定し、感染者のソーシャルディスタンス内に一定時間以上留まった人を接触者とみなし、人の流れと合わせて感染がどのように広がるのかを予測しました。その結果、いくつかの知見が見えてきました。該当地域のリアルタイムの避難状況を確認し、必要に応じて避難を促すことが大切です。避難所では、要員の増加による受付時間の半減は、混雑の発生を抑制し、倍以上の感染者との接触リスク低減効果が得られました。また、受付を2か所に増やすと分散避難が進み、接触リスクが低減します。ただし、受付ごとの混雑に差が出て、受付が効率的に進まない場合があります。その場合、受付1か所の受付時間を短縮する方が、接触リスクは低減されました。
4者は今回の実証実験で得た知見をもとに、コロナ禍でのより安全な避難に向けた施策検討を行うことに加え、災害時だけでなく人が集まる施設やイベントなどにおける混雑検知や感染リスク低減に向けて、今回開発・評価した技術適用の可能性も検討していく予定です。
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/08/24.html

<2020年9月13日>サバ・メシ✽コンテストについて~震災9年半を振り返る

 この番組では、放送を通じて様々な情報提供を行ってきていますが、同時に、2005年には手元に残る資料として「わが家の地震防災ハンドブック」なども作成し、番組から生まれた情報などをまとめました。また、2006年からは、食を通じて防災意識を高めていただこうと、非常食のレシピを募集する「サバ・メシ✽コンテスト」をスタートさせました。最低3日分の食料備蓄は義務づけらていますが、食材は限られています。復旧・復興にむけて元気になるためには、保存がきき、手軽で安価で、美味しい食事が大切です。2006年~2010年まで、5回にわたって開催しました。
第一回 太田恵一さん 梅・オカカ・昆布メシ
【アピールポイント】日本人のファーストフードおにぎりの材料を基本に梅干で炊く事により日持ちとごはんのモチモチ感を長めに持続できる。
第二回 玉ちゃん巣 子どもも大好き あんかけ風ほたてごはん
【アピールポイント】調味料は使っていません。災害の時だっておいしいものも食べたい!ちょっと贅沢なものもたまにはいいのでは小さい子どもやお年寄りにも食べやすいと思います。麩も栄養があり、離乳食にもいけるかも。
第三回 気仙沼市 小山和美さん ♪スベリヒュチャーハン♪
ほか、入賞レシピは、DatefmのWebサイトに掲載されています。
食から災害をイメージする。身近な食から考えるきっかけになったと思います。

<2020年9月6日>津波等の垂直避難施設(緊急避難ビル)について

 津波等から身を守るためには、いち早く安全な高台に避難する必要があります。平地などでは、高台の確保が難しい、または、高台が遠くにあるために、避難時間がかかるなどの課題があります。そのために、国内外で避難困難地域での津波等の垂直避難施設の検討がなされています。最近、国際津波情報センター(ITIC)センター長のローラ・コーンさんらが、最近の動向について情報を集めてまとめており、近々WEBで公表される予定です。
まず、垂直避難施設については、津波の影響に抵抗するのに必要な強度と弾力性を備えた建物と想定される津波の高さより高いフロアーまたは屋上が確保できることが重要です。さらに、想定される避難人数に対する十分なスペースがあるか、また、様々な季節や時間帯の中で、どのくらい滞在できるのかが次のポイントになります。また、緊急津波避難場所は、一般には短期的な保護(12~24時間)のために設計され、避難者を津波浸水レベルより高くするのに十分な高さを備え、地震に耐え、津波の負荷と影響に耐えるように設計および構築されていますが、東日本大震災の際には、2日以上にわたって警報や注意報が出されていました。
東日本大震災では、垂直避難施設(緊急避難ビル)が多くの命を救いました。得られた教訓に基づき、国土交通省により東日本大震災を考慮した津波避難ビルの構造要件に関するガイドラインが発行されています。施設の選定、強度やデザイン(例えば、円柱形のようなものの方がよい)、避難の滞在性などが主な項目です。さらに、津波により車、樹木、瓦礫、コンテナ、船などの漂流物がいっしょに流れてきますので、それらが建物に直接衝突しないような緩衝機能が必要であります。

<2020年8月30日>石巻市雄勝地区の復興について

 石巻市雄勝町は東日本大震災により壊滅的な被害を受けた地域ですが、以前から津波への意識が高い地域でありました。「揺れたらとにかく山に逃げろ」「津波が来るからな」と伝承してきました。そのため今回も、80%の住宅が全壊した中、犠牲率はが5.5%にとどまりました。しかしながら、犠牲者も少なくなく、特に、石巻市雄勝病院では、入院患者は40人全員、職員は病院にいた30人中24人が死亡または行方不明になりました。この病院は雄勝湾の奥にあり、普段は穏やかな表情を見せる入り江は奥に進むほど狭くなり、津波の高さが増しやすい地形でもありました。 現在この場所には、「天使の椅子」と名付けられた雄勝石が置かれています。3.11の大津波で流れ着いた雄勝石ですが、中央部がくぼみ、まるで椅子のようです。大震災の犠牲となった方々に、天国から舞い降りてこの椅子にすわっていただき、故郷の復興の様子を眺めてくださいという思いが込められています。台座には雄勝中学校の子ども達が「命」をテーマに描いた石絵を貼り付けて、慰霊碑としています。
http://www.ogatsuishie-gen.jp/contents1/index.html
かつて4000人弱だった雄勝町の人口は、いまは1000人を下回ってしまいました。その中で、2011年8月に創刊された情報紙「月刊雄勝」は、今年2月に100号が刊行され、復興の歩みを伝え続けています。町を離れた住民にも「復興状況や町の動きなどを知ることができる」と好評です。
http://ogatsu-fukkou.blogspot.com/p/blog-page_23.html
また、今年5月21日、観光客を呼び込む核となる市営の雄勝観光物産交流館「おがつ・たなこや」がオープンしました。津波で全壊した伝統工芸品のすずりの文化や技術を伝える「雄勝硯伝統産業会館」も併設する形で再建されたのです。交流館では、特産のホタテやカキなどの新鮮な海産物の直売や水産加工品、書道用具を販売。すし店のほかカフェや土産物店なども含め8店舗が入っています。

<2020年8月23日>9月1日 防災の日について

 9月1日は「防災の日」です。https://www.stat.go.jp/naruhodo/c3d0901.html
 台風、高潮、津波、地震等の災害についての認識を深め、それらの災害に対処する心構えを準備するためとして、1960年に内閣の閣議により制定されました。また、1982年からは、9月1日の「防災の日」を含む1週間が「防災週間」と定められています。ご存じのように、1923年9月1日に発生し、10万人以上の死者・行方不明者を出した『関東大震災』に由来しています。また、気象庁の「気象統計情報」によると、台風の接近・上陸は8月から9月にかけて多く、制定の前年である1959年9月には、5,000人を超える死者・行方不明者を出した『伊勢湾台風』が襲来しました。このことからも、この時期は防災について考えるいい機会と言えるでしょう。
9月1日前後の1週間を防災週間として様々な取組が行われています。実施する行事等として、①「より実践的な防災訓練等を行う」:特に南海トラフ沿いで発生する大規模地震や首都直下地震等の大規模災害が想定される地域では、広域的ネットワークを活用した訓練や広域的応援・受援訓練の実施。また、水害や土砂災害等の発生に備え、地域住民と地方公共団体等が連携し、ハザードマップ等に示された地域の災害リスクや地域の実情を踏まえた避難訓練、避難勧告等の発令・伝達、避難判断のために地域内で声かけにより避難する取組や、安全を確認する訓練の実施。②実践的な防災行動の促進のため、防災意識の向上や普及啓発の推進に係る活動、キャンプ等による避難生活体験、防災体験ツアーなどを行うこととしています。

<2020年8月16日>2016年の台風10号

 平成28年台風第10号(アジア名:ライオンロック、フィリピン名:ディンド)は、日本の南で複雑な動きをした台風で、これ自体、異例でした。数日間、沖縄側へ西寄りの進路を通った後、東寄りに進路を変えて北上し、最終的には、8月30日18時前に岩手県大船渡市付近に上陸しました。1951年に気象庁が統計を取り始めて以来初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風となりました。この台風は日本付近で発生し、海水温の高いところへ進んだため発達し数日間停滞し迷走していました。また、この海域で発生した台風としては異例の「長寿」台風となりました。
この台風は岩手県太平洋側を中心に大きな被害を出しました。死者26人(岩手県では24人)、行方不明者3人、負傷者14人、住宅の全壊518棟、半壊2、281棟、一部破損1、174棟、床上浸水279棟、床下浸水1、752棟(2017年11月8日現在)になります。特に、岩手県岩泉町を中心に甚大な被害が出ました。岩泉町で高齢者施設の近くを流れる小本川が氾濫し、施設内に水が流れ込んだため、入居者の男女9人が死亡しました。高齢者施設のあった町役場東側地区には避難指示や勧告を出せなかった状況もありました。このことを受けて、その後、高齢者施設での災害・防災情報のあり方が議論され、避難計画の見直しが全国的に実施されました。しかしながら、先日の令和2年7月豪雨で、同様に高齢者施設で被害が出てしまったことは大変に残念です。

<2020年8月9日>記録を残すアーカイブ活動について

 アーカイブとは、重要記録を保存・活用し、未来に伝達することを意味します。元来は公記録保管所または公文書の保存所、履歴などを意味し、記録を保存しておく場所ですが、近年では、公的でなくとも様々な活動の中で書庫や保存記録として考えられています。特に、震災アーカイブは、場所と時間の情報が入った写真や映像、証言や行政対応などの震災資料を収集、保管、公開するデジタルアーカイブで、インターネットからアクセスすることができます。本日はこのアーカイブ活動に関する3つの最新活動を紹介します。
1.ハーバード大学とのデジタルアーカイブの共同WSの開催
ハーバード大学ライシャワー日本研究所「日本災害DIGITALアーカイブ(JDA)」プロジェクトと災害研「みちのく震録伝」は、国際交流基金日米センターの協力を得て、米ボストンと仙台でワークショップを開催しています。デジタルアーカイブを教育現場で活用するために、大学、高校などの教員をお招きして、利用方法のレクチャーを実施しました。デジタルアーカイブから資料を探し、自分たちでプレゼンテーションを作成して、最終的に各班で発表を行い教育現場での活動について議論されました。
2.1804年象潟(きさかた)地震の歴史史料調査と地形復元分析
過去の歴史史料を調べる際に、当時と現在の土地利用や地形の違いを考慮する必要があります。秋田県のにかほ市関地区の文書群の調査を実施し、その中で1804年象潟地震における被害に関する史料情報から、関村集落の家屋被害分布図を作成しました。この家屋被害の状況から、象潟地震における関村の被害は津波ではなく地震動によることを示唆しました。
3.市民協働による古文書解読を通じた情報環境整備
アーカイブ活動は今や多くの市民と協力して作成・整備されています。例えば、岩手県一関市の個人宅に伝わる約2100頁におよぶ江戸時代の日誌「丸吉皆川家日誌」の全文解読を市民との協働で進めており、2019年度は約52000文字の解読を行っています。また、以前に実施済みの慶応3年(1867)9月~明治5年(1872)の約13万文字について電子媒体化しています(2020年6月東北大学学術リポジトリTOURにて公開)。慶応4年~明治3年の戊辰戦争が起こった時期の低温・凶作と社会対応など、歴史災害や社会の状況を検討するための情報基盤を進めています。
https://irides.tohoku.ac.jp/media/files/forum/unit_poster/unit2019_03_DisasterArchive.pdf

<2020年8月2日>東北大学卓越大学院セミナーシリーズ第2回開催

 東北大学では3つの卓越大学院プログラム(未来型医療、人工知能エレクトロニクス、変動地球共生学)があり、今年から「ニューノーマルを創る」~コロナ新時代を拓くセミナーシリーズを開催しています。7月16日に2回目となる「災害としての大規模感染症:レジリエント社会構築に向けて」を実施しました。参加登録者は373名、当日参加者は361名でした。
http://www.tfc.tohoku.ac.jp/online_event/2020cov/01/
世界で猛威を振るっているCOVID-19への対策は様々な観点で進めていく必要があり、大規模災害とも捉えて、共通の考えや対策を模索することを目的としました。今回、災害科学、歴史学、危機管理、医学、行政など専門家に話題提供を頂きました。特に、自然災害への対応サイクルには多くの感染症対策と類似性や共通性があり、過去の歴史を学び、現在の状況を把握し、課題に対しては改善しながら、将来の効果的な対応を議論する。その中で、レジリエントな社会構築を目指したいと思っています。以下がテーマでした:
・大規模感染症と自然災害~対応サイクルの重要性
・歴史に学ぶ~スペイン風邪の経験と教訓
・近年の自然災害の特徴と対応
・感染症対応も含めた事業継続計画(BCP)のあり方
・目指すレジリエント社会構築とは
最後に、「複合災害の事例とその対策」についてディスカッションを行いました。卓越大学院プログラムでは、困難で複合した問題に対応できる、専門知と実践力を備えた人材を幅広いセクターに輩出することを目的とし、分野の垣根を超えた俯瞰力、コミュニケーション能力、国際性などの多角的能力を身につけた博士大学院生の育成に取り組んでいます。今回のセミナーシリーズでは、第一線で活躍する講師陣を招聘し、大学院生とともに、これからの社会の在り方を考える機会になったと思います。今後、「新型コロナウィルスと21世紀の国際秩序」「コロナ新時代における人工知能の活用」などを予定しています。

<2020年7月26日>複合(または連鎖)災害

 複合的自然災害(以下「複合災害」)とは、自然災害(先行災害)のほぼ同時期、または復旧途上で別の自然災害(後続災害)が発生することにより、各災害単独発生時の被害の単純和よりも大きな被害が発生する災害になります。複合災害として組み合わさる可能性がある災害としては、地震、火災、津波、台風、土砂崩れ、豪雨、豪雪、原子力発電所の事故等の特殊災害などがあります。複合災害には様々な組み合わせがあるため、事前に予測しておくことが難しいという問題があり、複合災害対策が広く進められているとは言えません。これは先行災害・後続災害の規模やその組合せ、両者の生起間隔を検討する必要があり、先行災害による防災施設・住家等の被災・復旧状況により、後続災害時の被害が大きく異なるためです。以下が、事例です:
■新潟県中越地震【台風・地震・豪雪】
2004年の新潟県中越地震では、地震が起きる3日前に発生した台風23号の豪雨によって地盤が緩んだことにより土砂災害の被害が拡大化し、10万棟以上の家屋が倒壊。
また災害からの復旧を行なっていた2ヶ月後に19年ぶりの記録的な豪雪となり、さらに建物被害が拡大したのです。
■東日本大震災【地震・津波・原発事故】
2011年の東日本大震災では、マグニチュード9.0の地震で巨大津波が生じ、さらに福島第一原子力発電所で事故が発生、多くの被害が起きました。同時に、土砂崩れ、液状化、火災、土砂移動も発生していました。
■熊本地震【地震・土砂崩れ】
2016年に発生した熊本地震では、地震による影響で家屋倒壊だけでなく158件の大規模な土砂災害が発生しました。さらに2ヶ月後に熊本県内で豪雨が発生し、再び土砂災害に見舞われ、県内で5人の方が亡くなりました。地震によって地盤が緩んだ状態であったため、土砂災害が通常よりも発生しやすい状態にあったとされています。

ここで1つ、関連した理論を紹介したいと思います。
ハインリッヒの「ドミノ理論」であります。この理論は、事故や災害に至るプロセスを、原因と結果の連鎖として説明したもので、事故や災害に至る原因が「人」にあるという仮説に基づいて5つのドミノに例えました。我が国でも「ハインリッヒの5つの駒(法則)」として知られています。

<2020年7月19日>ブラックスワン(黒い白鳥)について

 白鳥は、もともと白い鳥を意味しているので、黒い白鳥はいないはずです。しかし、これは思い込みであって、突然変異の中で黒色の白鳥も発見されます。昔西洋では、白鳥と言えば白いものと決まっていました。そのことを疑う者など一人もいなかったのです。ところがオーストラリア大陸の発見によって、黒い白鳥がいることがわかりました。白鳥は白いという常識は、この新しい発見によって覆ってしまったのです。
 ブラックスワンは文字通り「黒い白鳥」のことで、「そのようなものは存在しない、あるいは極めて低い確率でしか存在しえない(起こらない)」と思われているもののことを指します。この事に関連して、「自然災害は極めて低い確率でしか起こらない」と思ってしまう理由になります。これをタイトルにした本「ブラック・スワン~不確実性とリスクの本質」(ナシーム・ニコラス・タレブ著)が2007年4月に発刊されました。人間の思考プロセスに潜む根本的な欠陥を、不確実性やリスクとの関係から明らかにして、特に、経済・金融関係者の話題をさらい、全米で150万部超の大ヒットを記録しました。ブラックスワンが大きな問題になるのは、金融業界や自然災害です。たとえば金融業界では、リスクとは平均からのバラつきのことをさし、基本的に正規分布的に変化している世界を前提にしています。ここでは、リーマンショック・クラスの悲劇は、数十年あるいは100年に1回起こるかどうかという計算結果になります。しかし現実の金融の世界では、100年に1回も起こらないはずのことが、もっと高い頻度で起きてしまっています。
 今回、新型コロナウイルス感染拡大で、このことが現実となってしまいました。実際にめったに起きないこと(例:東日本大震災など)をどの程度見込んで対策を立てておくかの判断は非常に難しいものがあります。しかし経済や自然災害など、複雑系の世界では、ブラックスワンは予想よりも多いという前提で用意しておかないと、足をすくわれかねないのです。「そんなこと、生きている間に起こりゃしないよ」と、根拠のない楽観を真に受けると痛い目にあいかねません。

<2020年7月12日>北海道南西沖地震・津波および周辺での地震・津波

 1993年7月12日夜、北海道南西沖の日本海で、マグニチュード7.8の地震が発生し、奥尻島では強い揺れ、津波、火災、土砂崩れが発生し、被害が集中しました。当時人口4,700人の奥尻島で、死者・行方不明者は230人にものぼったのです。震源が奥尻島の西側ごく近くでありで、強い揺れの直後3分程度で島への大津波が来襲しました。当時、大津波警報が出ましたが、その時には、すでに第1波が到達していました。地震、津波、土砂崩れ、火災が発生する複合的な災害になりました。12日22時20分ごろ、津波第1波が島を襲いました。特に、島の南端の青苗地区では西から回り込んだ津波により多数の住民と家(504戸のうち385戸)が流されました。そして、津波浸水後に発生したのが火災です。漁船から火が上がったり、プロパンガスボンベや家庭用灯油タンクに引火し火災を拡大しました。190戸、約51,000平方メートルが焼失したのです。最近の研究では、漁港の海底にあるメタンなどが津波の来襲により海中に巻き上がり(噴出)、海面で火災が広がったのではないかという報告が出されています。
日本海東縁部で発生した他の事例としては、秋田県・青森県西方沖で発生した「日本海中部地震(1983)」(M7.7)により、北海道では渡島半島西岸の地域でも大津波に襲われ、死者4名を出すなどの被害が出ました。さらに、歴史資料から1741年に大津波が渡島半島西岸を襲い、北海道で死者1,467名を出すなどの大被害があったことが知られています。歴史資料には、渡島大島の噴火が詳細に記述されているにもかかわらず、地震に関する記録がほとんどないことから、噴火による山体崩壊がこの津波を起こしたと考えられます。また、1640年の北海道駒ヶ岳の噴火でも、山体の一部が崩壊して内浦湾(噴火湾)に流れ込んだために津波が発生し、対岸の有珠などで被害が生じたことがあります。

<2020年7月5日>UCLAらとの協働教育・研究プログラム「ArcDR3」

 カリフォルニア・ロサンゼルス校(UCLA)のArchitecture and Urban Design xLAB、東北大学災害科学国際研究所および日本科学未来館は、このたび、環太平洋大学協会マルチハザードプログラムの一環として、「ArcDR3」~災害リスク軽減とレジリエンスのための建築と都市デザインイニシアチブ~を共同設立しました。
ArcDR3は、2015年に決議された仙台防災枠組を推進しながら災害リスクを軽減し、回復力を高める環境や都市設計に関する知識やアイディア・提案交流のための国際的なプラットフォームを立ち上げ、理論と研究、実践と設計を効果的に統合することを目指しています。環太平洋大学の自然災害リスクが高い地域から、11の主要大学が参加し、災害に強く、持続的なまちづくりを議論しアイディアを提案します。
デザインスタジオ、シンポジウム、展覧会などを行う3年間の活動になり、最終的には、その結果を国際ISO標準化の活動に繋げたいと思います。6月27日に、11大学の関係者や関心のある方とオンラインとU-tubeでフォーラムを開催しました。テーマパネルは、①地球(地震、地盤)、風災害と火事、②水災害、③マルチハザード(複合災害)でした。COVID-19による世界的な危機によって再定義された学習環境と教育プロセスの変化を認識し、ArcDR3ネットワークを通じたグローバル連携により、研究を発展させる機会を探っていきます。

<2020年6月28日>山川健元NHK記者の著書「三陸つなみ~いまむかし」について

 本日は、元NHK記者山川健さんの著書「三陸つなみ~いまむかし」を紹介したいと思います。この本は、長年、現場で活躍された地元記者山川さんの自伝になります。1960年からNHK記者として大船渡市・釜石市を拠点に三陸沿岸のニュースを担当し、一度も転勤することなく、特に津波防災報道のエキスパートとして活動されました。

第1章/私の3.11*第2章/被災地に生きる*第3章・4章/過去の津波を振り返る

記者生活51年を経てこのあたりが潮時かと考え引退準備に入ったその矢先に、あの「東日本大震災」の大津波が三陸沿岸を襲ってきたのです。最初の2章は、実際に現場に足を運んだ者でなければ書けない、迫力に満ちたドキュメントになります。当日は、取材カメラ、衛星携帯などの機材を後任者に引き継いだのですが、その後、経験したことのない激しく長い地震が襲ってきました。やむをえず、家庭用のビデオカメラを手にマイカーで取材に飛び出し向かったのは、細長い大船渡湾の入り口を見渡せる高台。まず目にしたのは、湾口を守っていた巨大な湾口防波堤が「すでに跡形もなく波間に消え失せていた」光景でした。その後、大船渡市内、旧三陸町、陸前高田の現場に行き、大災害を目の当たりにしました。「被災地に生きる」では、被災直後の避難所の様子、行方不明者捜索を困難にした津波の追い討ち、瓦礫処理が進まず悪臭と土埃に囲まれた生活、支援活動の様子、全国から集まったボランティアの熱心な活動、そして自身の取材活動がつづられています。
三陸の地は津波の常襲地帯ですが、山川さんはこの三陸の地が好きで離れられなかったといいます。とりわけ岩手県南部、古くから気仙地方と呼ばれてきた主な取材範囲が大のお気に入りだったそうです。この地は、世界三大漁場といわれる豊かな漁場を持ち、海・山・川・里の多彩な風土・文化を持った土地柄でもあります。三陸沿岸の魅力に抱かれて生きてきた人々の様々なエピソードも書き残されました。
(山川健著、竹内日出男補筆 イー・ピックス社 2014/6/30出版)

<2020年6月21日>元NHK記者 山川健さんについて

 本日紹介させていただく山川健さんは、NHK記者として51年間、大船渡市や釜石市等を中心に三陸沿岸南部の取材を続けてこられました。初めての取材は、着任間もない1960年5月24日のチリ津波の現場でした。地球の裏側チリで起きた地震による津波は日本を襲い、全国で139人、大船渡では53人が亡くなり、全国で最も大きな被害となりました。山川さんにとって、奇しくもこの津波取材が仕事の第一歩となりました。そこから一貫して、地震や津波の歴史、現在の対策や課題、三陸の風土、環境、産業を紹介してきました。定年後も契約記者として地域のニュースを発信していましたが、そろそろ引退を考えられた時、東日本大震災の大津波が襲ってきたのです。その後、3年間取材を続けられ、2014年6月に自伝「三陸つなみ いまむかし」を出版、そして、2015年3月に亡くなられました。まさに、半世紀にわたって、津波常襲地帯の第一線の記者として活躍されたほか、若手の人材育成も手がけ、現在NHKで防災関係の最前線で活躍されている方の多くは、山川さんに教えを受けてきました。
山川さんとの出会いは、25年以上前のつくばで開催された地震学会でありました。最先端の研究成果を熱心に聴取されていました。それ以来、地震・津波の発生直後に必ず連絡をいただくのが山川さんであり、明治・昭和三陸津波、チリ津波などの津波災害の命日前にも取材をいただいておりました。大船渡から、車で、カメラを持参し取材に来ていただきました。山川さんは、忘却しがちな我々にとって欠かせない、地域を見守り続けている記者さんでした。

<2020年6月14日>宮城県での地震・津波について~県民・市民防災の日に向けて

 本日は、県内での学校防災に関する検討会の動きを紹介します。ここでは、防災教育(児童・生徒さん)、学校管理(先生)、地域との連携の3つの要素が重要になります。この検討会の名称は、「宮城県学校防災体制在り方検討会議」です。
昨年、石巻市立大川小学校の事故に関する裁判の最高裁決定を受け、教育現場における高い専門性に基づく防災教育の充実と学校防災体制の再構築が必要となりました。東日本大震災の教訓をもとに進めてきたこれまでの本県の学校防災の取組の検証を行い、今後の新たな取組について検討するため、この会議が設置されました。特に、判決で学校の事前防災の重要性と責務が明示されましたので、安心安全な学校の構築に向けて体制を整える必要があります。今年2月5日に設置され、第1回の会議が開催されました。メンバーは、学校現場の教師に加えて、弁護士や学識経験者、大川小で子どもを亡くした遺族ら6人です。5月25日に第2回の会議が行われましたが、あと3回程度開催し、2020年度内に提言を取りまとめます。 以下が要点になります:
1.東日本大震災の教訓をもとに進めてきたこれまでの学校防災の取組の検証について
2.学校防災の再構築に向けて必要となる新たな取組について
3.その他、学校防災の在り方に関して必要な事項について
会議では、学校だけでなく、家庭や地域の判断力や行動力の向上も求められている、教育現場を支援する行政の体制も検討するべきだ、判決や教訓を踏まえた多角的な視点で検証を重ねる必要性などが挙げられ、検討を進めています。

<2020年6月7日>宮城県での地震・津波について~県民・市民防災の日に向けて

 宮城県に被害を及ぼす地震・津波は、2種類あります。1つは、太平洋プレートの沈み込みに伴って発生する地震であり、いわゆる宮城県沖地震になります。そこでは、近地津波が発生しています。また、陸側には、長町・利府断層に代表される地震、そして、2008年の岩手・宮城内陸地震のような火山にも関係した内陸地震があります。もう1つは遠地津波であり、1960年チリ地震津波(5月24日で60年を迎えました)や2010年チリ中部地震津波など、南米から発生するものが多くなります。
https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_tohoku/p04_miyagi/
1978年の宮城県沖地震が発生した海域付近では、平均すると約37年間隔で同程度の規模の地震が発生してきました。この地震は初めての都市型地震と言われ、都市化、宅地化の進展などの社会状況の変化によって大きな被害が生じました。一方で、1793年の地震は、この海域だけでなく日本海溝寄りの領域も連動して破壊したため連動地震になり、M8.2程度と考えられます。陸域で発生した地震としては、歴史の資料によると1736年の地震(M6.0)により、仙台城下に被害が生じたと記録されていますが、長町利府断層帯との関係は不明です。明治以降では、1900年の宮城県北部の地震、1956年の白石の地震、1962年の「宮城県北部地震」、2003年宮城県北部の地震が知られています。1956年の白石の地震は福島盆地西縁断層帯付近で発生しましたが、この断層帯の活動との関係はわかっていません。
2008年の岩手・宮城内陸地震(M6.8)では、栗原市で震度6強を観測し、死者10人などの被害が生じました。宮城・岩手・秋田県境の栗駒山周辺は東北地方の中で群発地震活動が比較的活発な地域の一つで、過去M4.0程度の群発地震が数多く発生してきましたが、この時は直下での地震による強震で、大規模な地滑りなど斜面崩壊、河道閉塞が発生しました。

<2020年5月31日>全国に広がる祇園祭

 先週、京都の祇園祭を紹介しましたが、全国に祇園という名前のついたお祭りは沢山あります。博多祇園山笠(福岡県)、会津田島祇園祭(福島県)、鎌倉大町祇園祭(神奈川県)、深見祇園祭(長野県)など、全国各地にあることがわかります。特に規模の大きいものは、博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)です。博多の総鎮守として知られる櫛田神社の奉納神事で。毎年7月1日から15日にかけて開催される700年以上の伝統があり、全国から350万人もの来場者がある、博多どんたくとともに博多を代表する祭りです。この祭りの起源については諸説ありますが、鎌倉時代の1241年(仁治2年)に博多で疫病が流行した際、承天寺の開祖であり当時の住職である聖一国師が町民に担がれた木製の施餓鬼棚に乗り、水を撒きながら町を清めてまわり疫病退散を祈祷したことを発祥とするのが通説です。
かつては京都の祇園祭のように町ごとに飾山笠の華美を競いながら練り歩いていたそうですが、江戸時代の1687年(貞享4年)に土居流(どいながれ)が東長寺で休憩中、石堂流(現在の恵比須流)に追い越される「事件」が起こったそうです。このとき2つの流が抜きつ抜かれつのマッチレースを繰り広げ町人に受けたことから、担いで駆け回るスピードを競い合う「追山」が始まりました。以来戦後の一時期を除き祭のクライマックスとしてこの「追山」が執り行われ、福岡市内のみならず近隣各地から多くの観衆を集めています。時間の経過とともにお祭りの形態や内容は変化していきますが、由来などの教訓は残すようにしたいものです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/博多祇園山笠

<2020年5月24日>災害・禍(わざわい)と祭(祀り)~祇園祭について

 災害・禍(わざわい)は残念ながら過去も繰り返し発生しており、被害を軽減するには、この経験と教訓を伝えることが大切です。その手法(防災文化)の1つがお祭りであります。本日は、疫病(感染症)に関係するお祭りを紹介します。代表的なのが日本三大祭りのひとつ京都の祇園祭です。山鉾巡行などの煌びやかな祭事があり、疫病とは無縁に思えます。
平安時代、貞観11年(869年)に全国に疫病がはやり死者が多数出ました。この疫病は、現世に恨みを残したまま亡くなった怨霊(おんりょう)の祟りであるとされました。そのため、疫病退散、無病息災を念じた御霊会(ごりょうえ)が行われました。この御霊会が祇園祭の起源とされています。その後、祇園社の興隆とともに、"祇園御霊会"とよばれ、この名が略されて単に祇園会とよばれるようになりました。はじめのころは、疫病流行の時だけ不定期に行われていましたが、円融天皇の天禄元(970)年からは、毎年6月14日になりました。足利将軍・夫人らが観覧したことが記録にのこっています。現在は、八坂神社の祭礼として、毎年7月1日から31日まで、1か月にわたっておこなわれます。一般には、17日(前祭・山鉾巡行と神幸祭)と24日(後祭・山鉾巡行と還幸祭)その宵山が広く知られています。
このように疫病退散を祈ることを起源とするお祭りですが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、祇園祭山鉾連合会と八坂神社は、7月17日の前祭24日の後祭の山鉾巡行を中止すると発表しました。
参考文献
https://www.plus1-one.co.jp/wa/events/kyoto-matsuri/
https://ja.kyoto.travel/event/major/gion/understand.php

<2020年5月17日>防災・危機管理eカレッジの紹介(消防庁)

 本日はオンラインで受講できる「防災・危機管理 e-カレッジ」を紹介します。地域住民や消防職員・消防団員、地方公務員等の方々を対象に、ネット上で防災・危機管理に関する学びの場を提供することを目的としています。6年前の2014年3月からスタートしています。ネット上(動画)で、いつでも、どこでも、どなたでも、無料で学習することができますので、是非ご来校ください。入門コースではテストもあり、習熟度もチェックできます。4月30日に、サイトがリニューアルされました。
https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/
1.入門コース
こどもぼうさいe-ランド、師範室、大地震を3日間生き延びる、風水害から身を守る
2.一般コース
2.1 基礎を学ぶ
過去の災害から学ぶ、災害の基礎知識、災害への備え、いざという時役立つ知識、地域防災の実践、災害時のボランティア活動の実践
2.2 深く学ぶ
南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策、津波対策(監修:今村文彦)、火山対策(監修:小山真人 静岡大学教授)、水害対策(監修:片田敏孝 群馬大学教授)、土砂災害対策(監修:岩松暉 鹿児島大学名誉教授)、風害対策(監修:丸山敬 京都大学防災研究所准教授)雪害対策(監修:沼野夏生 東北工業大学教授)、火災対策(監修:消防研究センター)、原子力災害対策、コンビナート災害対策(監修:大谷英雄 横浜国立大学大学院教授)、油流出事故対策(監修:独立行政法人 海上災害防止センター)、災害情報(監修:廣井脩 東京大学大学院情報学環教授)、地震調査委員会による長期評価、災害史から学ぶリンク集
3.専門コース
地方公務員、消防職員・消防団員、市町村長や市町村の責任者・指導者の方向け

<2020年5月10日>自然災害と感染症対策

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、こうした中でも地震・津波や大雨、土砂災害、火山噴火など、自然災害はいつ起きるかわかりません。災害から命を守るために大事なのが、「避難場所への安全な移動と避難所で安心して避難生活をおくること」を整理して対応することです。特に、避難所に避難することになった時、どのような事にことに気をつけ、準備したらよいでしょうか 紹介したいと思います。
感染症は多彩
感染症は新型コロナウイルスだけではありません。東日本大震災では、岩手県内の避難所で、数十人規模でインフルエンザの患者がでたほか、4年前の熊本地震でも、南阿蘇村の避難所を中心にノロウイルスやインフルエンザの患者が相次いで確認されています。
○対策の具体例
密閉、密集、密接の「3密」の回避が難しい避難所でどう感染を防ぐか、自治体の担当者が頭を悩ませています。避難所では、入り口に消毒液を置いたり、床に敷いているマットにテープを貼って1人当たりのスペースを区切り避難者が接近しすぎないようにしたと報告されています。また、大雨と融雪で土砂災害の危険性があるとして、2か所の避難所を開き、受付でマスクを配り、保健士が検温と問診を実施、異常のある人には別室も用意されました。
大切な事
災害等は、時間経過とともに対応が変化します。例えば、地震が起こったときは、
1)まず地震から身を守り、
2)次に津波から身を守り(緊急避難場所へ)、
3)次に地滑りや水害の危険性の有無を確認し、(広域避難所などで)
4)最後に感染症から身を守る、
それぞれの時点で、どのハザードの危険性が一番致命的かということを判断しながら行動することが必要であります。

避難所で感染どう防ぐ 自治体が災害時に備え 新型コロナ(時事ドッドコム)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020041600190&g=soc
大雨で避難所 感染防止で全員体温計測の異例の対応 千葉 鴨川(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200413/k10012384001000.html
“避難所へ避難”することになったら… 災害時と新型コロナ (NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200412/k10012383101000.html

<2020年5月3日>大学(研究室)での感染対応について

 災害科学国際研究所津波工学研究室での感染対応事例を紹介させていただきます。
大学での対応としては、4月20日からガイダンスなどが始まりましたが、学生さんらは外出自粛でオンライン授業、教員スタッフもテレワーク、時差出勤、オンライン会議になっており、学内もすっかり人出がなくなりました。特に、4月に入学された新入生は一度もキャンパスに来ることなく、入学・新学期の手続きをしていただいています。
本研究室も4月はじめからテレワークを導入、学生さんらともオンラインでコミュニケーションをとっています。昨年度末から、感染防止のために、研究室で何をしなければならないのか?何ができるのか?を議論し、4月から一日に一回、定期WEB会議を開始、健康状態の確認、情報交換や学生さんからの質問、国内外の対応について意見交換などを行うことになりました。
WEB会議では、ネット環境やパソコン設定、参加人数などにより、音声や映像の状況が違います。聞き取れない場合は、チャット機能を使ってメッセージを共有、大きな電子ファイルは、オンライン(クラウド)ストレージサービスを使っています。これらは、IT技術の発展により、誰もが使えるようになっています。今回のような急激な生活変化により、リモートの活用が一気に進みました。
WEB会議にもだいぶ慣れてきましたが、一方向にならないように、工夫しています。会議の主催者は3名の教員で分担し、質問・意見交換の際には、できるだけ皆さんからコメントをいただけるように心がけています。

<2020年4月26日>北海道噴火湾(内浦湾)での津波

 東日本大震災後に日本海溝・千島海溝周辺での地震と津波の評価が改めて行われております。津波の約90%は地震、残り10%は火山噴火や海底地滑りが原因で発生します。発生の確率は小さいのですが、火山噴火による津波は大きな被害をもたらしてきました。この火山災害の要因では、火砕流や溶岩流がよく知られていします。日本では、九州の1792年雲仙火山の眉山崩壊に伴う津波、そして、北海道での1741年渡島大島の崩壊による津波が報告されています。北海道では噴火湾でも火山噴火による津波が起きたことが調査でわかってきました。それは1640年(寛永17年)、北海道駒ヶ岳(函館の北側)の山体崩壊により発生した津波になります。雲仙眉山、渡島大島に次ぐ3番目に大きい規模になります。この噴火は寛永17年6月13日から始まり、最初の2~3日は極めて激しい活動が続き、のちに急速に衰微し、この年の秋、約70日後に静穏になったとされています。この時、噴火と同時に噴火湾(内浦湾)に津波が発生し、対岸にも押し寄せ、船舶 100隻余りが破壊され、700名余りが搦死したと報告されています。
北大の西村裕一先生らが精力的に調査され、1640年の津波堆積物を噴火湾周辺の何ヵ所で見つけています。場所は、伊達市の海岸で、海岸からの距離は約150m。ここでは、1663年有珠山噴火の火山灰の下に、薄い土壌を挟んで砂の層が存在していました。砂層は、斜面の下部で層厚が5cm程度で、斜面上部に向かうにつれ薄くなり、海抜高度7。3m付近で消滅していたそうです。構成物や分布の特徴から、砂層は津波により運び上げられた海岸や海底にあった砂であると判定できます。また、よく見ると砂層の最上部は所々、真白な火山灰に覆われていました。この火山灰は1640年駒ヶ岳火山灰でした。すなわち、津波堆積物の起源は1640年の駒ヶ岳噴火、この場所は、まず津波に襲われ、直後に火山灰を被り、23年間で数mmの土壌が作られ、そして1663年有珠山噴火により再び火山灰に覆われたと報告されています。
北海道大学西村裕一:寛永17年駒ヶ岳噴火津波-伊達市に残された史実と物証-
https://www.city.date.hokkaido.jp/kouhou3/pdf/31_99862046.pdf

<2020年4月19日>日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会について

 日本海溝・千島海溝周辺ではマグニチュード7~8クラスの大規模地震が多数発生し、1896年の明治三陸地震では死者が約2万2000人にのぼるなど、甚大な被害が出ています。ここで発生する地震には、プレート境界で発生するものやプレート内部で発生するもの、揺れは小さいが大きな津波が発生するものなど、さまざまなタイプがあります。国の中央防災会議では、ここで発生する大規模海溝型地震対策を検討するため、地震学、地質学、土木工学、建築学などの専門家14名からなる「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」を平成15年10月に設置し、揺れや津波の規模を評価していました。その後に東日本大震災が発生しました。
そのため、中央防災会議は「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の報告を踏まえ、最大クラスの地震・津波を想定した対策を見直すことが必要となりました。過去に発生した日本海溝・千島海溝沿いの地震や津波に係る科学的知見に基づく各種調査結果について幅広く整理及び分析し、その結果、想定すべき最大クラスの地震・津波断層モデルを検討するために平成27年2月に有識者会議「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」が設置されました。
http://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/model/index.html
検討会は過去6千年間に起きた津波による堆積物を分析するなどの手法で、発生する可能性がある最大規模の津波を予測しています。北海道の太平洋沿岸では、今までに多くの津波堆積物調査が実施され、痕跡の記録が残されていることがわかっています。今後、具体的な地震動や津波の評価結果が公表されますので、注意深く見ていただきと思います。

<2020年4月5日>自然災害と感染症対策について

 国内外で新型コロナウイルス感染拡大による大きな被害が出ています。今回のような大規模な感染症への対応は災害時でも共通することが多くあります。事前対応、発生時での緊急対応、その後の復旧(復興)などフェーズに分けて整理することができます。
以前から災害時における避難所での感染症対策が進められていますので紹介させていただきます。災害時には、感染症の拡大リスクが高まります。特に避難所では、衛生状態を保つことが難しくなるからです。多くの人数が集まる避難所では、感冒などの症状を含め、呼吸器感染症・感染性胃腸炎の流行、被災後の心的ストレスなどが起こると考えられています。手指衛生の励行とうがいに加えて、居住区のスペース確保とストレス反応への対応、感染症の患者の把握と対応の徹底、清潔な食品管理と食品衛生の徹底、共同トイレの衛生維持が大切になります。このような項目の確認を、この機会にを行っていただきたいと思います。少しでも早い終息を強く願っていますが、現在のような状況下でも自然災害が起こらないとは限りません。感染者と非感染者はどこに避難するのか 通気の良い屋外に大型テントを準備するなど、感染症流行時における避難所運営マニュアルの見直しが必要になると思います。
下記の資料を活用してください。
厚労省:避難所での感染症対策についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00346.html
日本環境感染学会http://www.kankyokansen.org/other/hisaiti_kansenseigyo.pdf
宮城県:避難所における感染症対策についてhttps://www.pref.miyagi.jp/soshiki/situkan/hinanzyo-kansentaisaku.html

<2020年3月29日>新刊の紹介『逆流する津波』~後編

 津波は、河岸堤防を越えて市街地などに浸入し、思わぬ方向や経路から来襲してきます。津波が船舶や木材等の漂流物を巻き込みながら河川を遡上する場合もあり、橋でせき止められて水位が増したり、これら漂流物が橋に衝突して落橋や橋桁を損傷させたりしています。さらに都市化に伴ってビル等の間から浸入する津波はよりスピードを増し、突然、マンホール等から吹き出すことも報告されています。自然災害は、常に進化すると言われていますので、本書により、多くの皆さんに新しい津波の姿を知っていただきたいと思います。以下が、〈応用編〉〈対策編〉の主なものです。
第3章 河川津波による被害
 3.1 陸と海への影響と被害
 3.3 建物等への被害―浸水深、流速、浸食
 3.4 津波による流体力と漂流物
 3.5 越流による被害―裏側の洗掘
 3.6 河口部での被害
 3.7 蛇行部での被害
 3.8 複合災害と連鎖―女川での事例
第4章 津波の観測と予測
 4.1 予報・予測の重要性
 4.2 数値シミュレーションによる津波予測
 4.4 南海トラフ巨大地震津波で想定される脅威
 4.5 浸水・土砂移動を予測する
第5章 津波からの防災・減災、そして身を守る
 5.2 安全に避難するまでのプロセス
 5.3 危険を知らせる情報―いかに危険性を察知できるか
 5.4 津波からの生還例―高速道路(高台)へ避難
 5.5 車避難は必要か
 5.6 そのとき、逃げ場は―認知マップの修正と活用
 5.7 オレンジフラッグの活動
 5.8 津波緊急避難ビルについて
 5.9 防災施設である防潮堤・防波堤の役割
 5.11 今できる備えとは何か
   ―まずは避難訓練をしてみませんか
 5.12 震災伝承の取り組み
 また、「エイプリルフールに発生した津波」「稲むらの火 濱口悟陵の偉業をしのぶ」「8つの生きる力~災害を生き抜くために必要な力とは」「インド洋大津波から命を救った少女の話」「津波ものがたり~じぶん防災プロジェクト」などのコラムも掲載しています。

<2020年3月22日>新刊の紹介『逆流する津波』~前編

 私の新刊本『逆流する津波ー河川津波のメカニズム・脅威と防災ー』が、成山堂書店から3月28日に出版となります。https://www.seizando.co.jp/book/9028/
単著としては、初めての出版になります。東日本大震災以来、注目されることの多い「河川津波」を取り上げ、そのメカニズムから脅威、津波全般に関しての防災・減災の考え方や取り組みをまとめています。<基礎編><応用編><対策編>で構成され、津波の基本的な事項から、最近の話題や取組まで紹介させていただきました。事例や写真は、私自身が東日本大震災で現場調査をし、さらに、国内外での他の事例で得られた情報や状況を扱っています。津波は海域から伝わり陸地に来襲しますが、いち早く河口などから入り、河川や運河・水路に沿って内陸奧深くまで遡上してきます。通常、河川は川上から川下へ流れていますが、地震発生の際にはその流れが逆流します。これを本のタイトルにさせていただきました。東日本大震災では、津波の遡上が河口から約50kmの場所でも記録されています。以下が〈基礎編〉の主な章節になります。
第1章 津波とは
 1.1 歴史に残された津波
 1.2 世界語になった「Tsunami」(津波)
 1.3 津波の発生メカニズム
 1.4 2018年インドネシアで発生した津波の事例
 1.5 国境を越えて伝わる津波
   ― 太平洋国際津波警報センターの設立
 1.6 深海から浅海へ伝わる津波
   ― 津波の速さ
 1.7 津波はなぜ大きくなるのか
 1.9 津波は何度も押し寄せる
 1.10 陸上と河川の遡上とは
第2章 河川津波のメカニズム
 2.1 河川津波とは
 2.2 河川を遡上する津波の代表事例(日本/世界)
 (1) 2003年十勝沖地震津波
 (2) 2011年東日本大震災
 (3) 2004年スマトラ沖地震インド洋津波:スリランカ
 2.3 東日本大震災:新北上川河口付近
   ―大川小学校への影響
 2.4 東日本大震災:多賀城市砂押川
   ―都市型河川津波の恐怖
 2.5 黒い津波の実態

<2020年3月15日>1454年享徳(きょうとく)地震津波について

 東日本大震災の発生を受けて、東北地方(特に、太平洋側)での歴史地震津波が注目され、1611年慶長や869年貞観の地震や津波について、より調査され知られるようになってきました。ただし、その間700年あまりの地震津波については、いまだ知られていません。プレートの沈み込みによる歪みエネルギーの蓄積を考えると、この間に地震や津波がないということはありません。この742年間に信憑性のある歴史記録が残されていなかったことが主な理由になります。
2011年11月に示された地震調査研究推進本部による「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」では紀元前4-3世紀頃、4-5世紀頃、貞観津波、15世紀頃の津波堆積物、東北地方太平洋沖地震の発生間隔から「東北の太平洋沿岸に巨大津波を伴うことが推定される地震」としてこの種の巨大地震の平均再来間隔を約600年と評価されました。この際に、注目され検討されたのが、享徳地震(きょうとくじしん)になります。これは享徳3年11月23日(西暦1454年12月12日)室町時代に発生した地震であり、東北地方の太平洋側に大津波をもたらしたと考えられています。記録が乏しい歴史地震であるため、規模や震源域など詳細は不明でしたが、これを補う情報が津波堆積物になります。
2016年に岩手県沿岸におけるイベント堆積物の分布がまとめられ、慶長地震あるいは享徳地震に相当すると考えられる古津波堆積物が同地域に広く分布していることが報告されています。しかしながら、その推定年代の誤差が大きく、慶長地震によるものか、あるいは享徳地震によるものであるのか必ずしも決めることができていないようです。今後も調査研究が進むとその規模や発生間隔が明らかになってくるのではないかと思います。さらに、享徳と貞観の間にも585年間ありますので、この間にも、何回か地震と津波が発生していたのかもしれません。

<2020年3月8日>津波対策の現状について

 本日は津波対策の現状について紹介させていただきます。東日本大震災から9年を迎えます。津波常襲地域と言われる三陸海岸を含む東北地方太平洋沖沿岸では、地震、液状化、津波、火災、そして原発事故など複合的な災害、当時の津波警報と避難の課題などを経験しました。この悲劇を繰り返さないため、現在まで様々な津波対策が取られています。これらは、事前対策の強化と発生後の避難などのリスク回避体制、そして、回復力を高める取り組みに整理できると考えます。その代表が2段階津波レベル(レベル1とレベル2)の設定であり、津波総合対策(ハード、ソフト、地域計画)の中でそれぞれの役割整理が出来きたと思っております。被災地での復旧段階で、施設設計(防潮堤等の配置や高さ)においては安全と環境・景観との調和のあり方、地域での合意形成の進め方などの課題は残されたものの、迅速な事業実施の原動力になりました。なお、今後はレベル1設計だけでなくその整備(施設防護)をいつ・どのような段階で実施していくかを議論しなければなりません。
 震災から9年が経つ中で、当時の津波像も解析され明らかにされつつあります。都市型と言われる「黒い津波」や逆流する河川津波、市街地での縮流・合流、津波火災、などです。これまで経験したことのない実態を踏まえたハザードマップ作成や避難のあり方、復旧・復興のあり方を模索する必要があります。被災地では、震災遺構、伝承施設などが整備されつつありますので是非とも訪問・視察し、当時の実態と地域・住民の経験を知っていただき、共に教訓を伝えていくことが、今後の取り組みの大きなヒントになるはずです。今後も想定を上回る津波(レベル2に相当)の発生は考えられ、その対応として過去の災害に限定しない確率的な評価の導入(今年1月に地震調査委員会から南海トラフでの評価結果も発表されましたが)、リアルタイムでの津波観測による監視、高精度予測や避難体制の充実が挙げられます。いずれも、不確定性を常に持つ自然災害に対して、柔軟性を持ち、状況を踏まえた臨機応変な判断と行動を支援するための取り組みです。

<2020年3月1日>防災環境都市・仙台について

 私たちは、東日本大震災を経験し、都市がさまざまな「災害の脅威」にさらされていることをあらためて認識しました。この教訓を踏まえて、仙台市では、将来の災害や気候変動リスクなどの脅威にも備えた「しなやかで強靭な都市」に向け、「防災環境都市づくり」を進めています。「杜の都・仙台」の豊かな環境を基本としながら、インフラやエネルギー供給の防災性を高める「まちづくり」、地域で防災を支える「ひとづくり」を進め、あらゆる施策に防災や環境配慮の視点を織り込む「防災の主流化」を図り、市民の生活、経済活動の安全・安心や快適性が高い水準で保たれている都市をつくります。また、震災と復興の経験と教訓を継承し、市民の防災文化として育てるとともに、2015年に開催された「第3回国連防災世界会議」を通じて培った国内外とのネットワークを生かし、地域・NPO・企業、研究機関などの取り組みを海外に発信。世界の防災文化への貢献と、快適で防災力の高い都市としてのブランド形成を目指しています。
https://sendai-resilience.jp/bosaikankyo/
また、仙台市は、国連国際防災戦略事務局(UNISDR、現在は国連防災機関UNDRR)が実施する「世界防災キャンペーン『災害に強い都市の構築』」において、2012年10月、世界で35都市目(日本では兵庫県に続き2例目)の先進的な防災都市「ロール・モデル(模範)都市」に認定されました。「ロール・モデル(模範)都市」とは、国連が、持続可能な都市化を実現し、災害に強い都市を構築するためのきっかけとすることを目的に2010年から実施されている防災キャンペーンの一環として、参加都市(約1、400都市)のうち、世界各国の防災の模範となる取り組みを実施している都市を選定して認定したものです。仙台市が震災前から進めてきた防災の取り組みや、復興事業において、特に市民の方々と協働した「コミュニティレベルの減災」や「そのために行動する人づくり」が高く評価され進められています。

<2020年2月23日>HUGというゲームについて

 HUGは、H(hinanzyo避難所)、U(unei運営)、G(gameゲーム)の頭文字を取ったもので、英語で「抱きしめる」という意味です。避難者を優しく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせて名付けられました。避難所運営をみんなで考えるためのひとつのアプローチとして、静岡県が開発しました。
避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードを、避難所の体育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切に配置できるか、また避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを疑似体験するゲームになります。プレイヤーは、このゲームを通して災害時要援護者への配慮をしながら部屋割りを考え、また炊き出し場や仮設トイレの配置などの生活空間の確保、視察や取材対応といった出来事に対して、思いのままに意見を出しあったり、話し合ったりしながらゲーム感覚で避難所の運営を学ぶことができます。ゲーム自体はシンプルですが、このカードに書かれた「避難者」と「起こりうる出来事」の内容が、とてもリアルなものです。以下が、概要です:
(1)1チームは、カード読み上げ係とプレーヤー5~6名で編成。
(2)今回のゲームの震災想定を発表。
(3)読み上げ係が、250枚のカードを読み上げていく。
(4)「出来事やトラブル」が書かれたイベントカードも登場。
「マニュアルを覚える」のではなく、「自分たちで考え、心づもりをする」ことが、このゲームの最大の役割になります。
http://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/manabu/hinanjyo-hug/about.html

<2020年2月16日>避難所運営の課題

 災害が発生した後に必ず指摘されるのが、避難所およびその運営になります。その課題について紹介します。まず、避難場所と避難所の違いを整理しましょう。指定緊急避難場所は、津波、洪水等、災害による危険が切迫した状況において、住民等の生命の安全の確保を目的として緊急に避難する際の避難先になります。一方、指定避難所は、災害の危険性があり避難した住民等が、災害の危険性がなくなるまで必要な期間滞在し、または災害により自宅へ戻れなくなった住民等が一時的に滞在する場所になります。数日間から数ヶ月にわたる場合もあります。
「避難所」は、「一次避難所」「二次避難所」「福祉避難所」の3つに分けられ、それぞれの避難所に適した公的施設が割り当てられています。「一次避難所」は、災害によって住居等が損壊や火災等のため使用できなくなった被災者に対し、宿泊や給食等の救援救護を実施するために設置する施設で、発災当初から開設されます。「二次避難所」は、一次避難所に避難した高齢者や障害者のうち、一次避難所で避難生活を継続することが困難な方を優先的に避難させるために設置する施設で、一次避難所開設後に開設されます。「福祉避難所」は、要介護度や障害の程度が高く、一次・二次避難所での避難生活が困難な避難者を避難させるために設置する専用施設で、これは発災当初から開設されます。
避難所の問題点は、空間設計とマニュアルなどの運営についての課題が関係します。基本的問題(運営側)として、誰が運営するかはっきりしない場合が多く、また、人が決まっていたとしても、実際にいられるとは限りません。また、避難所運営の実際の経験者があまり多くないのも現実です。さらに、どのような人が避難してくるかわからない状況があります。健常者、老人、寝たきりの人、体や心に障害がある人、妊婦さんなど要支援者、また、乳幼児、外国人など。また、やるべきことに対して人手が足りない、などの課題も指摘されています。

<2020年2月9日>防災運動会

 本日は防災運動会を紹介いたします。防災運動会は、老若男女どんな人でも楽しみながら参加できる防災イベントです。親子でも参加できる、会社のレクリエーションとしても楽しめる、何も知らない人が防災に興味を持つきっかけを作ります。
この企画はIKUSA.jpが、事業で培った知見からアクティビティ・外遊びを活用したイベントや研修、地域活性化のノウハウや実績を通じて開発し実践しているものです。合戦武将隊、専門ライターが経験をもとにコンテンツを作成しています。
https://ikusa.jp/service/bosai-undokai/
防災運動会では災害を5つのフェーズに分割、「事前/災害発生/発災直後/避難生活/生活再建」とそれぞれのフェーズに応じた競技を体験していただきます。災害は地域や周囲の環境、家族や隣人との関係によっても対策が変わってきます。地震の頻度が高い地域か、台風が多い地域か、家族での被災を想定するか、会社にいるときの被災かなどによって競技をカスタマイズしたり、オリジナルで作る必要があります。避難所ジェスチャーゲーム/非常食体験会/防災借り物競走/瓦礫運びなど、さまざまな種目が用意されています。

<2020年2月2日>津波の確率的評価結果

 確定的な手法と確率的手法とは 前者は、シナリオを想定して、いくつかの限られた条件で推定する方法であり、それに対して、確率的手法は、たくさんのケース(バラツキがあるので)を想定して、それぞれの発生する可能性も含めて評価する方法になります。
東日本大震災前は、過去の実績を参考に、いくつかの断層を想定して、地震の揺れや津波の高さを評価していました。しかし、東日本大震災は過去にない現象でしたので、当日の評価結果を大きく上回ってしまいました。このような「見逃し」がないように。過去に起きた実績がなくても、可能性のあるケース(状況)を想定してできるだけ幅を持たせることを趣旨としています。だたし、過去起きたものと起きていないものでは、可能性としては異なりますので、できるだけ可能性を変えて、さらにバラツキも含めて見積もることが大切です。
先日、南海トラフ沿いの地震による津波を対象に、地震調査委員会として初めて確率的評価を発表しました。いままで、調査委員会では「波源断層を特性化した津波の予測手法(津波レシピ)」(平成29年1月公表)に基づき、地震発生可能性の長期評価が行われた海溝型地震の津波評価を実施しています。今回は、「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」(平成25年5月公表)で想定されている、100年~200年で繰り返し発生する大地震(M8~M9クラスの地震) を評価の対象とし、最大クラスの地震は対象外としました。震源域の組み合わせとして176のパターンを想定、さらに、大すべり域の設定も含めて348、345ケースで計算を行っています。多様な震源域の組み合わせのパターンの起こりやすさや多様なすべり量分布を考慮して重み付けを行い、確率論的津波評価を実施しました。結果としては、今後30年以内に南海トラフ沿いで大地震が発生し、海岸の津波高が3m以上、5m以上、10m以上になる確率を出しています。

<2020年1月26日>「2020 世界災害語り継ぎフォーラム~災害の記憶をつなぐ~」の開催

 https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk41/documents/g_kaiken191202_05.pdf
1月24日~26日、神戸市の兵庫県公館、こうべまちづくり会館、人と防災未来センターを会場に開催されています。阪神・淡路大震災25年にあたり、世界各地て 実際の災害体験の語り継ぎに取り組む人々や組織が一堂に会して交流・連携を深め、各地の事例を学びあい、語り継ぎの意義を再確認し、その重要性を広く世界に訴えます。統括座長は、関西大学社会安全学部永松伸吾教授です。
A:語り継ぎとミュージアムの役割:小野裕一(東北大教授)、ハフダニール (アチェ津波博物館館長) 等
B:語り継ぎとツーリズム:田中尚人(熊本大准教授)、イカプトラ(ガジャマダ大学教授) 等
C:語り継ぎとローカルコミュニティ:阪本真由美(県立大准教授)、ギュルム・タヌルジャン(ボスフォラス大学准教授) 等
D:ジオハ ークと語り継ぎ:中川和之(時事通信社解説委員)、イブラヒム・コモオ(アジア太平洋ジオパークネットワークコーディネーター)等
E:災害遺構と記憶の継承:石原凌河(龍谷大准教授)、ポール・ミラー(カンタべリー大学教授) 等
F:語り継ぎと交流:坂戸勝(元国際交流基金理事)、エコアグス・プラウォト(ドゥタワチャナキリスト教大学教授) 等
災害に関連するミュージアムは世界中に存在しています。災害に特化したミュージアムもあれば、常設展示や期間限定の企画展示という形でミュージアムの一部になっているもの、あるいはフィールドミュージアムと言えるようなものまであり多様であります。この会議では、国内外の「語り継ぎ」活動を展開しているミュージアムの代表者を招き、「語り継ぎ」がそれらのミュージアムや地域社会の中で果たしてきた役割、共通点、相違点、課題などを明らかにします。その上で、課題を乗り越えるためのソリューションを共有し、よりよい「語り継ぎ」とミュージアムとの持続可能な運営の関係性を検討されています。

<2020年1月19日>阪神・淡路大震災から25年

 1月17日、阪神・淡路大震災から25年の節目を迎えました。この大きな節目の中で、様々な調査も実施されています。たとえば、この震災で兵庫県内に整備された災害公営住宅(復興住宅)の居住者のうち、被災者として入居している世帯は半数未満となっていることが、毎日新聞の調査で紹介されました。高齢の被災者が死亡する一方で、非被災者世帯の流入が進んでいるためとみられます。65歳以上の居住者が5割を超える中、3割近くの住宅には自治会がないことも判明、震災から25年を経てコミュニティーの維持が難しくなっている状況が浮き彫りとなっています。
このような中で「震災を風化させない~『忘れない』『伝える』『活かす』『備える』」を基本に様々な取組が実施されいます。阪神・淡路大震災の経験と教訓を広く発信し、次の大災害への備えや対策の充実につながる事業になります。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk41/wd34_000000179.html
1月17日当日には、1.17のつどい、1.17ひょうごメモリアルウォーク2020、防災訓練、地域のつどいなどが開催され、震災の経験、教訓を風化させず、災害文化の醸成を目指し、県や関係機関が、被害の抑制につながる知識、ノウハウ、技術を広く社会に伝える各種イベント等が実施されました。そして、「9131~絵がつなぐあの日とそれから~」が開催され、被災者本人が描いた「震災当時の絵」9作品を、兵庫ゆかりのアーティスト・漫画家9人がそれぞれの絵からの9131日のストーリーを踏まえ「新しい絵」を描き、新・旧合わせて震災から9131日目となる2020年1月17日から展示することにより、“あの日”から始まった、今につながる“それからの日々”、そして “今”を見つめ直すきっかけとしたいとしています。
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk41/documents/g_kaiken191211_04_03.pdf

<2020年1月12日>エコDRRについて

 生態系を活用した防災・減災(Eco-Disaster Risk Reduction)について紹介致します。
http://www.env.go.jp/nature/biodic/eco-drr/pamph01.pdf
「生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based disaster risk reduction;Eco-DRR)」は、生態系と生態系サービスを維持することで危険な自然現象に対する緩衝帯・緩衝材として注目されています。さらに、食糧や水の供給などの機能もあり、人間や地域社会の自然災害への対応を支える対策になります。このようなEco-DRRは、防災・減災対策と気候変動適応の双方を達成する効果的な方法になります。事例としては、沿岸での砂浜、干潟、砂丘、海岸林(防潮林・防風林、マングローブ)、内陸では、砂防としての植林(土砂流出防止)、遊水池などがあります。東日本大震災の教訓を受けて「生物多様性国家戦略 2012-2020」が策定されました。防災・減災機能の観点からも、生態系の保全や再生が重要であると指摘しています。「第1部 生物多様性の保全及び持続可能な利用に向けた戦略」の100年先を見据えた目指すべき目標像としてとりまとめられた「自然共生社会における国土のグランドデザイン」では、安全・安心な国土の形成と自然との共生を重視したエコロジカルな 国土管理を目指すとしています。たとえば、仙台沿岸では、植林活動が盛んに行われており、植生も活用した多重防御の地域づくりが実施されています。
関連したもう1つの重要なキーワードとして、グリーン・インフラストラクチャー(GI)があります。欧州委員会が2013年にEUグリーン・インフラストラクチャー戦略として提案しています。統一的な定義はまだ議論されていますが、防災・減災機能に加えて、環境保全そして地域活性化などの役割が期待されています。そのため、生態系と自然災害を考慮した土地利用と、自然環境の有する防災や水質浄化等の機能を人工的な社会資本の代替手段や補足の手段として有効に活用することが提示されています。これにより自然環境、経済、社会にとって有益な対策を社会資本整備の一環として進めようという考え方です。

<2020年1月5日>2020年の予定について

 1月17日、阪神淡路大震災から25年の節目を迎えます。
1月、東日本大震災の経験と教訓を後世に継承することを目的に開催されている多賀城高校の「東日本大震災メモリアルday」開催。
3月11日、東日本大震災から9年が経ちますが、震災の実態から導き出される「生存学」の研究をさらに深めたいと思います。
4月、防災国際ISOの国内委員会発足。準備委員会を立ち上げ、議論を始めております。 仙台経済同友会の皆さんと高知県を訪れ、防災や持続可能な地域づくりについて議論する予定です。
5月、多賀城市八幡字一本柳に、防災・減災の拠点であり、地域産業の復興支援の拠点でもある「さんみらい復興団地」を整備。
・災害発生時の製造業復興支援機能(被災した企業が操業を継続できるような支援を行う機能)
・防災・減災拠点機能(市民への食料や備蓄品などを供給する拠点となる機能や支援物資などを一括して受入れ、各避難所に配送する機能)
・地域経済牽引機能
5月、山形県酒田市飛島での津波避難計画を支援する予定です。
9月13日~仙台で世界地震工学会を開催(国内外から4,000件以上の発表申し込み)