<2019年12月29日> 2019年を振り返って

 3月10日に開催された仙台防災未来フォーラムでは、初のアートコンクールが行われ。生徒・学生たちから多くの応募がありました。様々な経験や体験を伝える際に、言葉は重要ですが、それを超えて表現し伝えることの大切さを学びました。また、3月のメディア報道などで注目されたのが、NHKスペシャル「黒い津波ー知られざる実態、気仙沼残された資料」でした。
5月中旬、国連関係の会議UNISDR、Global Platform、防災でのイノベーション(科学、技術、社会活動)に参加しました。各国で防災計画が策定されているという報告が印象的でした。また、東北大学の新しい学術ジャーナルprogress in Disaster science発刊の会議とパーティーがありました。
6月18日、新潟・山形県沖地震:山形県沖の深さ14km付近を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生、新潟県村上市で震度6強、山形県鶴岡市で震度6弱の激しい揺れが観測されました。この地震に伴い、山形県、新潟県、石川県能登に津波注意報が発表されました。
7月、モントリオールでIUGG津波委員会による学術セッションが行われ、第30回国際津波シンポジウムが2021年7月仙台で開催されることが決まりました。
8月、3.11伝承ロード推進機構の発足、また、8月末にUCLAと本学が中心となった、レジリエンス都市を目指すプロジェクト(ARC DR3)が始まりました。環太平洋の諸大学と建築家、防災専門家がコラボして、災害に強く持続的なまちづくりを議論し、提案します。その結果を国際ISO標準化の活動に繋げたいと思います。
10月には水災害が発生、特に台風15号、19号では各地に大きな被害をもたらしました。
11月9~12日、第2回世界防災フォーラム開催、「世界とつなぐBOSAIの知恵―仙台防災枠組の理念を未来へ―」をキャッチフレーズに東北・仙台に国内外から産・官・学・民の団体・組織に加え、一般市民にもご参加いただきました。国内外の災害リスク削減の解決策をさまざまな立場から提案し、互いに学び、新たな価値を生み出しながら情報発信していく場を創れたかと思います。

<2019年12月22日> 2004年スマトラ地震・インド洋津波から15年~身を守る活動

 2004年12月26日、インドネシア・スマトラ島北端アチェ州をマグニチュード9.1の地震が襲いました。この時に発生した津波は、タイ、インド、スリランカ、モルディブを超え、アフリカ・ソマリアまで到達し、インド洋沿岸に被害を及ぼしました。この地震と津波による犠牲者はインドネシアだけで17万人にのぼり、全体では、23万人を超えたと報告されています。インドネシアは、環太平洋火山帯に位置しており、地上で最も火山災害に見舞われている国のひとつであります。昨年は、パル地震津波、クラカタウ火山噴火と津波が発生しています。この経験と教訓を繋げる活動として、津波避難訓練などが実施されています。https://www.afpbb.com/articles/-/3253312
最近の事例としては、今年の世界津波の日11月5日、インドネシア・バリ島で大規模な避難訓練が行われ、地元の生徒ら300人以上が参加しました。訓練はアジア太平洋諸国18か国における、国連開発計画(UNDP)の地域プロジェクトの一環として、日本政府も支援しております。
自分で命を守る活動が始まっています。
自然災害が多いアジアですが、特に、水災害の規模と頻度は大変に高い状況が続いています。子ども達の水遊びの際での溺水(できすい)が頻発しており、現在、どのような溺水撲滅対策をしたらよいのか、国際学会でも議論されています。11月21日から24日にかけてマレーシアで水難学に関する国際会議が開催されました。東南アジア5か国と日本から保健省等職員や防災関係者が一堂に集まったそうです。溺水に関する各国の現状報告と、溺水撲滅対策について説明があり、課題と溺水から命を守るための方策について、意見が交わされました。特に、会議では「自分で命を守る行動を習うことのできる社会を作る」ことで意見が一致しました。命を守る行動の一つの例が、わが国発の防災教育【ういてまて】です。会議では各国から、uitemate(ういてまて)の普及状況について報告がありました。以下に、スリランカとインドネシアを例にとり、状況について解説されています。https://news.yahoo.co.jp/byline/saitohidetoshi/20191129-00152848/

<2019年12月15日> 古文書を用いた南海トラフ超巨大地震メカニズムの解明

 南海トラフでの地震・津波について、地震学と歴史学がコラボして行っている研究を紹介します。名古屋大学地震火山研究センターの山中佳子准教授らが精力的に研究を進めています。例えば、昭和東南海地震について強震計記録を用いた地震波解析および津波の解析を行っており、昭和東南海地震のアスペリティ分布などの評価を行っています。また、この地域では、過去において津波地震タイプの地震が発生した可能性もあり解析も進めています。この津波地震の原因は様々議論されいるところでありますが、山中先生らは何らかの条件で流体をプレート境界に持ち込めたところで発生しているという仮説を立てて、南海トラフ沿いに適用しています。
他方で、神社明細帳などの古文書について協力者とともに調査を進めており、そこに書かれた由緒にはその神社や寺院が経験した災害について記載されています。また郷土史料には被害状況や災害後に陳情した文書などが残っており、これらから津波到達域や地盤沈下、液状化の様子などを推定しています。実は、明治12年内務省通達により全国府県で作成された寺院明細帳、神社明細帳の情報や郷土史の資料が存在しており、広域的に信頼のある情報として地震被害の情報等を整理されています。さらに、名古屋大学では濃尾地域や伊勢地方の情報を多く含む高木家文書を所蔵しており、ここから愛知県周辺の情報を得られるそうです。ただし、高木家文書は傷みが激しく現在は開くことができないので修復をしながら、電子化を行っております。非常に手間がかかりますが、貴重な情報が含まれており、今後、過去の地震のメカニズムを再評価できると期待されています。以下に関連情報があります;http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu6/toushin/attach/1331745.htm

<2019年12月8日> 昭和東南海・南海地震・津波について

 1944年(昭和19年)12月7日午後1時36分、紀伊半島東部の熊野灘、三重県尾鷲市沖約20kmでM7.9のプレート境界型巨大地震が発生しました。75年を迎えました。この前後に4年連続で発生した1,000名を超える死者を出した4大地震(1943鳥取地震、1945三河地震、1946南海地震)のひとつです。地震による家屋の倒壊、地震直後に発生した津波により、三重県、愛知県、静岡県を中心に、推定1223名の死者・行方不明者を出したとされますが、死者数は重複があり918名とする説もあります。これは、太平洋戦争中でもあり、戸籍などの謄本が津波により消失しているため現在でも正確な実数は把握できない状況です。この地震によって関東大震災のような大規模な火災は発生しませんでした。これは建物倒壊が比較的少なかったこと、発震時刻が昼過ぎであり火を使っている場所が少なかったこと、天候が穏やかで風が弱かったことが挙げられます。更に、戦時中でいつ本土空襲が起きてもおかしくない状況であり人々の緊張が高まっていたことなどが要因として挙げられています。
1946年(昭和21年)12月21日午前4時19分過ぎには、昭和南海地震が発生しました。潮岬南方沖(南海トラフ沿いの領域)を震源としたM8.0の地震で、南西日本一帯で、地震と津波による甚大な被害が発生しています。この領域では周期的に大地震が発生しており、前回の南海地震である安政南海地震から92年ぶりでの発生となりました。この地震後に今村明恒は「宝永地震や安政東海・南海地震は東海・南海の両道にまたがって発生したものだが、今回の地震は東海道方面の活動のみにとどまっており、今後、南海道方面の活動にも注視するべきである」と指摘していましたが、当時これに耳を傾けるものはいなかったそうです。これらの地震は共に南海トラフで発生しており、現在、地震調査委員会ではこの地域でのM8~9クラスの地震発生確率を、30年以内に7~80%としています。

<2019年12月1日> 台風19号での課題~ハザードマップ、災害ごみ・廃棄物処理などについて

 台風19号では、ハザードマップについても様々な議論がありました。まずは、多くの地域でハザードマップと今回の浸水範囲が同じ(一部は異なります)であり、事前によく確認すれば、よりよい対応ができたであろうという点です。多くの場合、精緻に予測されていたことになります。平成27年の水防法改正により、国、都道府県または市町村は、想定し得る「最大規模」の降雨・高潮に対応した浸水想定を実施し、市町村はこれに応じた避難方法などを住民などに適切に周知するためにハザードマップを作成することが必要となりました。それまで100年に一度程度の「計画規模」とされていたものが、1000年に一度の「最大規模」になり、今回のような規模について多くはカバーできたことになります。しかし、大きな被害が出た宮城県では、6つの自治体が、洪水によって浸水する範囲や避難先などを記載する「洪水ハザードマップ」を作成していなかったことがわかりました。「津波への対策は進めてきたが、これまで大雨による差し迫った危機感がなかった。早急に作成を検討したい」との見解が報告されています。
NHKが、洪水ハザードマップを作成していた29自治体に、浸水想定区域の中に避難所があるか聞いたところ、「ある」と回答したのは20の自治体でした。そうした避難所の数は合わせて164か所で、全体の1割以上に上り、避難所の設定に関する課題も浮かび上がりました。
また、各地で河川が氾濫した台風19号をはじめとする一連の風水害で、水につかった家具や畳、家電製品など災害ごみの処理が大きな課題となりました。被災地では処理が追いつかず仮置き場が満杯になり、公園や道端に山積みされたままの地域もありました。処理が滞れば復旧・復興の妨げになるばかりでなく、悪臭や腐敗など衛生面の問題も懸念されました。環境省の予測によると、災害ごみの量は数百万トンにのぼるとされ、昨年の西日本豪雨の約200万トンを上回りました。災害ごみの処理は原則市町村の業務ですが、これだけ大規模な災害では限界があり、市町村や県の枠を超えた広域的な対応が欠かせません。

<2019年11月24日> 台風19号での課題①~予測、警報などの情報について

 先月発生した台風19号は多くの被害を出し、防災・減災の課題や教訓があらためて浮かび上がっています。本日は、台風予測、警報、避難指示・勧告、エリアメール、避難状況について紹介したいと思います。
まず、近年の観測網の発展や解析・予測技術の向上により台風の規模や予測経路はほぼ正確に出されるようになってきました。台風19号の際にも5日前にはかなり詳細な情報が雨量や風速なども含めて出されていました。しかしながら、その情報を地域毎に発信場合、「エリアメール」とも呼ばれる「緊急速報メール」などが活用されますが、そこでの課題が指摘されました。当時、夜中に頻繁にメールが発信され、肝心な際には見なかったという例や、送信されたメールは一度しか見ることができず、再確認しようとしてもできなかったという例が多く報告されました。携帯大手3社の緊急速報メールの保存方法は、受け取る機種によって異なるようで、今後の改善が必要です。また、気象庁の警報等を受けて自治体(市町村)は避難指示または勧告を出しますが、いまだに、どちらが重要性が高いのか分からず、混乱を起こす例も報告されています。現在では、避難指示(緊急)、避難勧告、避難準備(高齢者等避難開始)に整理されましたが、混乱は続いているようです。
次は避難状況です。豪雨で川が決壊した地域では、事前に避難所にいったん身を寄せたのに、その後、浸水が増加または土砂災害が起こるなどして、再び避難を余儀なくされる“再避難”が相次いでいたことが報告されました。この移動中に亡くなった人も多く、避難所の運営の在り方や場所の設定について再点検する必要があります。少なくとも複数のハザードマップを重ねながら、避難場所や避難所の指定が必要であると考えます。また、緊急の指定避難場所と滞在場所(宿泊可能)としての指定避難所の定義の違いも混乱されている要因になっているようです。http://shiga-bousai.jp/dmap/help/hinajo-teigi.pdf

<2019年11月17日> 防災の国際ISO化に向けて

 ISOとは、「国際標準化機構 (International Organization for Standardization)」の総称です。スイス・ジュネーヴに本部を置く非営利法人、またはその国際標準化機構が発行する規格を指します。1946年に設立されたこの国際標準化機構の目的は、世界中の製品の「標準化」になります。言い換えれば、ISO規格による、安全・安心で信頼性の高い製品や食品・サービスを継続的に生産することになります。この規格の適用により、不良品を最小限に抑え、生産性を向上させることができます。また、ISO標準は認定製品が国際的に設定された最低限の基準に準じていることを保証しているので、製品・サービスの消費者またはエンドユーザー保護の観点からも有効といえます。ISO規格の一例として、非常口のサイン(ピクトグラム)やカメラの感度などがあり、これらの基準は全世界共通になっています。そのため、どの国の人にも分かりやすく、また修理交換も簡単にできるようになっています。さらに、ISO規格は製品そのものが対象の場合もあれば、製品を作るマネジメント・システムや考え方が対象となることもあります。
現在、我々は、防災に関する国際ISO申請に向けて活動を始めています。具体的には、仙台防災枠組の4つの優先行動を災害対応サイクルに対応させ再整理し、様々なステークホルダーでの現状の取組、課題、改善点を明確にする提案を行い、これをISOに申請することを目指しているのです。そこでは、不確定性を有するような新たな災害や環境の変化の中で改善(KAIZEN)できるシステムも議論し、関係地域との連携協力を実施しながら、対象地域を限定せずに、正のスパイラル効果が期待出来る概念を提案したいと思います。特に、地域ごとの理念の確立とそれをグローバルに繋げる仕組の提言と2つの柱を考えています。具体的には、①エネルギー(自律分散型、ブラックアウトを回避)、②防災情報(AI、ドローン集中制御システム、衛星画像、津波避難サイン)、③グリーンインフラ(生態系の利用、エコDRR)、④事前投資効果(保険、社会基盤、ハザードマップ)、⑤ツーリズム・防災学習、⑥コミュニティー文化形成(備蓄文化、非常食)などです。

<2019年11月10日> 本日、防災3イベント開催!

 本日から、世界防災フォーラムなどが開催されます。特に、仙台防災未来フォーラムについて紹介致します。仙台防災未来フォーラムは国連防災世界会議の仙台開催から1周年を機に2016年3月に初めて開催され、今回で5回目となります。今年のテーマは、わたしたちの防災を届けよう、世界へ、未来へ」。東日本大震災の経験や教訓を未来の防災に繋ぐため、セッションやブース展示、体験型イベントなどを通じて市民のみなさまが防災を学び、日頃の活動を発信できるイベントです。
今回は、同時に第10回「震災対策技術展」東北も開催されます。また、世界防災フォーラム/防災ダボス会議@仙台2019では、仙台市の「東日本大震災メモリアルシンポジウム~経験をつなぐ、その意味とその姿」~宮城県の「心に伝える」経験と教訓の伝承、国土交通省東北地方整備局の「東日本大震災の教訓を伝える 3.11 伝承ロード~産・学・官・民か 連携した震災伝承の取り組み~」などの一般公開セッションも行われますので、是非、仙台国際センターにご来場ください。

<2019年11月3日> 世界BOSAIフォーラムの開催(2)

 第2回世界防災フォーラムの国際会議自体では、大小さまざまな64のセッションを行い、防災の最先端で重要な課題を話し合います。11月9日には前日祭も開催され、宮城県被災地の芸能「閖上太鼓」が披露された後、3.11伝承ロード推進機構による伝承ロードの紹介、「次世代は語る/震災を伝え継ぐために」、福島県被災地の芸能「相馬盆踊り」、東北復興支援のための「希望の絆コンサート」などが行われる予定です。また、エクスカーション、スタディツアーとして、宮城県を中心に、岩手、福島まで、東北の震災後の現状や復興への取り組み、さらに地域の食や文化を体験して頂くことのできる多様なコースが用意されています。
11月10日の一般公開プログラムとして、「三大学総長・学長復興シンポジウム」が行われます。岩手大学・東北大学・福島大学の総長・学長が集い、基調報告を行うとともに、東日本大震災時の対応から現在の取組までを紹介するとともに、未来に向けた大学の存在や役割を議論し、震災10年に向けた取組やそれ以降の方向性について情報交換を行います。
また、会議の中では、「 経済産業省×東北大学~「地産地防」の国際標準化―東北からの提案」を行い、災害の多い日本だからこそ、一人ひとりが自発的な防災活動ができるよう促し、災害時には自助・共助で対応できるような地域のシステム等を講じるべく、「地産地防」について、みなさんと考えていきます。
仙台国際センターで開催される防災3イベントに、是非、お越し下さい。

<2019年10月27日> 世界BOSAIフォーラムの開催

 10月12日に大型で強い勢力を保ったまま上陸した台風19号は、東海、関東地方を中心に激しい雨を長時間降らせ、河川の氾濫や、土砂災害など広範囲に大きな被害を及ぼしました。東日本で過去最強クラスの台風は、北上しても中心気圧が低く、勢力を保っていました。日本沿岸の海水温が27度以上で平年より1~2度高く、エネルギー源となる水蒸気を多く取り込んでいたと言われています。神奈川県箱根町で48時間雨量が1001ミリに達したのを始め、東北でも断続的に猛烈な雨が降り、13日未明までの24時間の雨量は、宮城県丸森町筆甫で587。5ミリ、福島県川内村で441ミリになりました。このような、いままでに経験のないよう災害は今後も発生する可能性があります。
われわれはどのように対処・対応したらよいでしょうか?災害に対する課題はより深刻で難しくなっています。このような課題を話し合うために、東北大では、仙台市、ダボス防災フォーラムなどと協力し、世界防災フォーラムを2年に一度開催しています。世界防災フォーラムは、国内外の災害リスク削減を可能とする解決策をさまざまな立場から提案し、互いに学びあい、新たな価値を創造しながら、仙台防災枠組を推進することを目的としています。第1回世界防災フォーラム(2017)では、多様な関係者(国連、国際機関、政府、民間企業、メディア、NGO・市民団体、大学・研究所)が一同に介し、災害を減らす具体的な解決策を持ち寄り、情報を共有・議論し、また新たな連携などを生み出すフィールドづくりを進めました。第2回目(2019年11月9日~12日)では、仙台防災枠組2015-2030におけるグローバルターゲットE(2020年までに国家・地方の防災戦略を有する国家数を大幅に増やす)の達成のために、よりよい復興とは何か、心の復興とは何か、また、近年深刻化する気候変動による災害にどのように対処していけばよいか、さらに、AIやIoT技術などの先進技術の防災への応用・試み等、魅力的なコンテンツを発信することを目指しています。また、今回は、約60のセッションからなる国際会議とともに、「仙台防災未来フォーラム」「震災対策技術展」など関連行事を同時開催することで、防災の相乗効果を生み出すとともに、本フォーラムを通じて、多くの知恵を集約し、新たな連携や活動の「始まりの場」となるようなプラットフォームとなることも目指していきます。

<2019年10月20日> インドネシアでの国際津波シンポジウム~パル津波とスンダ海峡津波

 昨年9月、インドネシアのスラウェシ島パルで地震が発生し津波や液状化が連動し、大きな被害をもたらしました。また、12月にはスンダ海峡で火山性津波が発生しました。そこで、1年が経過する先月9月26日から、ジャカルタで国際シンポジウムが開催されました。インドネシア気象庁と国連ユネスコ(IOC)などが共催し、300名以上の方が出席されました。
前半は、インドネシア国内外から複数の調査研究発表がありました。2018年9月パル地震・津波、12月クラカタウ火山性津波についての1年間(特に今年前半まで)の現地調査、データ収集・分析、数値解析が報告、非地震性津波のメカニズム解明や被害実態を把握するための、極めて重要なデータが報告されました。ただし、津波前のデータ・情報が限られており、前後の変化を把握することが課題となっています。パル地震津波については、場所によっては地震の揺れの最中に地滑り性津波が発生し、住宅地を襲った可能性があります(住宅の防犯カメラによる映像解析)。アナック・クラカタウ火山周辺では、局所的に80mにも及ぶ痕跡が報告されていますが、一部は再確認が必要であると思われました。
 後半は津波警報システムの改善と被害軽減に向けた取組の報告があり、昨年の津波警報の課題を解決するために観測網の充実やシナリオの拡大を行っていること、信頼性の向上は期待できるものの、来襲時間が短時間の場合での警報対応では難しく、自主的な早期避難などを促すための情報としての限界も伝える必要があり、津波情報リテラシーおよび地域での実践的な避難訓練などの企画・実施が不可欠であることが議論されました。また、住民だけでなく観光客など不特定多数への周知も必要であり、避難計画(特にサイン)などの国際標準化が訴えられました。

<2019年10月13日> マングローブ植林20周年記念シンポジウムについて

 東京海上日動創立140周年およびマングローブ植林20周年を記念したシンポジウムが、10月8日、東京丸の内で開催されました。テーマは、『地球の未来にかける保険~マングローブ植林を通じた社会価値創出』。国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた企業の取り組みを支援するプロジェクト「日経SDGsフォーラム」として行われたものです。東京海上日動が20年にわたって継続してきたマングローブ植林の成果の発表や今後に向けた課題を議論するとともに、人・地球・社会のサステナブルな未来づくりやSDGs達成への道のりについて話し合いました。
第1部では、 NGOs 成果発表として、タイ各地での環境保全プロジェクトのコーディネートに携わる公益財団法人オイスカ タイ駐在代表の春日智実氏、マングローブ植林行動計画 ベトナム駐在代表の浅野哲美氏、国際マングローブ生態系協会理事長 馬場繁幸氏 (琉球大学名誉教授、日本マングローブ学会会長)からの発表が行われました。
第2部では、古田尚也先生(国際自然保護連合(IUCN)日本リエゾンオフィス、大正大学教授)、小森純子東京海上日動経営企画部部長CSR室長、そして、私の三人のパネルディスカッションで、SDGsとその先の「人・地球・社会のサステナブルな未来づくり」の目指す姿を議論しました。

<2019年10月06日> 火山育成プログラム「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」

 このプログラムは、多様な火山現象の理解の深化、国際連携を強めた最先端の火山学研究を進めるとともに、高度社会の火山災害軽減を図る災害科学の一部を担うことのできる、次世代の火山研究者を育成することを目的としています。近年、観測調査技術の向上と合わせ、マグマ動力学の理論モデルの構築も進み、火山現象の理解および火山活動の予測に関する研究分野では、火山学の主要3分野である、地球物理学、地質・岩石学、地球化学の分野の融合が始まっています。また、火山研究者には、噴火災害の軽減へ貢献することへの期待も大きく、災害科学のひとつとして研究の実践も求められるようになってきました。
そこで、最先端の火山研究を実施する大学や研究機関、火山防災を担当する国の機関や地方自治体、また、それらをサポートする民間企業からなるコンソーシアムを構築し、学際的な火山学を系統的に学べる環境を整えます。具体的には、大学で開講されている授業の相互利用、活火山におけるフィールド実習、最先端の火山研究のセミナー、最先端の観測技術・計算技術に関するセミナーを通して、火山研究能力を養成します。また、災害に関する社会科学のセミナー等を行って防災に関する知見を身につけると共に、インターンシップを通して火山監視や防災を担当する現場の理解を得る機会を提供します。必要な単位を修得した受講生には、基礎コース、応用コースおよび発展コースとしての修了証を授与します。http://www.kazan-edu.jp/index.php

<2019年9月29日> 2014年の御嶽山噴火について

 2014年9月27日11時52分に御嶽山噴火は発生しました。長野県と岐阜県の県境に位置する御嶽山(標高3、067m)の火山噴火になります。当時、噴火警戒レベル1の段階でしたが、火口付近に居合わせた登山者ら58名が死亡するという、戦後最悪の火山災害になってしまいました。噴火様式は水蒸気爆発(水蒸気噴火)、噴煙高度は火口から最大7、000m、噴出量は50万トン程度(27日)と推定されています。噴火規模は過去に日本で死傷者を出した他の火山噴火規模と比較すると決して大規模なものではなく、火山灰噴出量も1991年の雲仙普賢岳の400分の1でしかない規模でした。噴火の約2週間前から火山性地震が増加していましたが、火山性微動は観測されていませんでした。しかし、噴火の約11分前と噴火直後の約30分間に火山性微動が観測され、7分前には傾斜計で山体が盛り上がる変位も観測されました。
なぜ、日本における戦後最悪の火山災害になったのでしょうか?火山活動の予測に関する調査・研究が必要ですが、理由のひとつに、27日は土曜日で、多くの登山客が昼食などの休憩を取るために、火口付近におられたことが指摘されています。今年7月1日には、5年ぶりに山開きが行われ、山頂登山が解禁されました。営業を再開した山小屋「二ノ池山荘」は、噴石対策として、屋根や壁を防弾チョッキに使われるアラミド繊維で二重化して建て替えられ、噴煙被害を防ぐためゴーグルやマスクを常備しているということです。

<2019年9月22日> いわてTSUNAMIメモリアルがオープン!

 東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」が、震災祈念公園の中に9月22日にオープンします。この公園は敷地面積約130ヘクタールで、津波に耐えて残った奇跡の一本松のほか旧道の駅タピック45、旧気仙中など多数の震災遺構が点在しています。そこに、重点道の駅高田松原,そしてこの伝承館が整備されます。https://iwate-tsunami-memorial.jp
この施設は、東日本大震災津波の悲劇を繰り返さないため、震災津波の事実と教訓を後世に伝承するとともに、復興の姿を国内外の人々に発信することを目的とするものです。展示のテーマは、「いのちを守り、海と大地と共にいきる」。三陸の津波被害の歴史や、東日本大震災津波、復興の取り組みに関わる映像、写真、被災物などを展示します。
≪エントランス≫
公園、陸前高田市、三陸沿岸地域、3。11伝承ロード等の情報を提供します。
≪ゾーン1≫ 歴史をひもとく
津波災害を歴史的・科学的視点からひもときます。古来、育まれてきた知恵や技術、文化を見つめ直し、自然とともに暮らすということを改めて考えます。
≪ゾーン2≫ 事実を知る
被災した実際の物、被災の現場をとらえた写真、被災者の声、記録などを通して、東日本大震災津波の事実を見つめます。
≪ゾーン3≫ 教訓を学ぶ
逃げる、助ける、支えるなど、東日本大震災津波の時の人々の行動をひもとくことで、命を守るための教訓を共有します。ここに当時の東北地方整備局の対策本部室が移転しています。
≪ゾーン4≫ 復興を共に進める
国内外からいただいている多くのご支援に対する感謝の気持ちとともに、東日本大震災津波を乗り越えて前へと進んでいく被災地の姿を伝えます。

<2019年9月15日> WBF開催まで2ヶ月を切りました

 世界BOSAIフォーラム(WBF)では、東北・仙台に国内外から産・官・学・民の団体・組織に加え、特に、前日祭や一日目は一般市民も自由に参加できます。国内外の災害リスク削減の解決策をさまざまな立場から提案し、互いに学び、新たな価値を生み出しながら、情報発信していく場を目指しています。「世界とつなぐBOSAIの知恵―仙台防災枠組の理念を未来へ―」をキャッチフレーズに、セッション・ポスター発表・展示・スタディツアーなどを行い、東日本大震災から8年半となる防災・減災のこれまでの取り組みとこれからについてみなさんと考えたいと思います。http://www.worldbosaiforum.com/2019/
○ 三大学総長・学長復興シンポ
岩手大学・東北大学・福島大学の総長・学長が集い、基調報告を行うとともに、東日本大震災時の対応から現在の取組までを紹介します。未来に向けた大学の存在や役割を岩手大学学長特別補佐の村上清氏をコーディネータに議論し、震災10年に向けた取組やそれ以降の方向性について情報交換を行います。
○ 地域防災戦略/計画の策定への加速
仙台防災枠組2015-2030におけるグローバルターゲット(e)の目標年が来年2020年に迫った今、地方防災戦略/計画の策定及び実施の促進が喫緊の課題となっています。竹谷公男JICA上席国際協力専門員/東北大学/世界防災フォーラム国際諮問委員会メンバーがモデレーターを務め、海外から防災の第一線で活躍する方々をパネリストとして迎え、JICAや各国の具体的案取り組み事例を踏まえたグローバルターゲット(e)の達成に向けた実践的な解決策について議論します。
○ 経済産業省×東北大学~「地産地防」の国際標準化―東北からの提案
災害の多い日本だからこそ、一人ひとりが自発的な防災活動ができるよう促し、災害時には自助・共助で対応できるような地域のシステム等を講じるべく、「地産地防」について、みなさんと考えていきます。
● 防災・減災活動の国際標準化とは何か?国際標準化することの意味とは?
● 国際標準化することでどのように減災につながるのか?
● 想定できる具体的な取り組みと産業創造への可能性について
● 仙台/東北から発信の意義について
是非、お越し下さい。

<2019年9月8日>異常震域と関係した地震

 7月28日に発生した三重県を震源とする地震で、宮城が大きく揺れた理由を紹介したいと思います。午前3時31分頃、東北から関東の広範囲で震度3以上の揺れを観測する地震がありました。震源は遠く離れた三重県南東沖で、地震の規模はM6.5でした。震源付近の三重県などでは震度1でしたが、震源から離れるほど震度が大きくなり、宮城県丸森町で最大震度4を記録したのです。この地震は南海トラフ付近で発生したものですが、ここでの巨大地震は震源の深さが10kmから40km程度とされていますが、今回の震源の深さは速報値で約420kmとかなり深く、別系統の地震とみられます。異常震域(abnormal seismic intensity)と関係した地震であることがその原因のようです。
通常、震度(あるいは加速度)は、震源地(震央)で最も大きくなり、中心から同心円状に広がりながら小さくなりますが、異常震域は、通常とは異なる傾向を示す現象であり、また、そうした震度分布がみられた地域を指します。地中に、地震が伝わる特別な抜け道があると考えられ、地震みち(じしんみち)と呼ばれていたこともありますが、1920年代には異常震域という用語が用いられるようになりました。この異常震域が現れる原因は、「地震みち」と言われる、地中に地震が伝わる特別な抜け道がある。または、揺れが大きい地域では、地盤が異なり、増幅しやすい。(諏訪湖周辺、奈良盆地など)ことが挙げられています。
1707年10月28日の宝永地震の際も、震源から離れた大阪平野や奈良盆地で大きな揺れとなり、出雲および信濃方面には地震みちが見られました。近年では、2005年3月20日の福岡県西方沖地震で、震源に近い海岸の福岡市西区で震度5弱となった一方、陸側の東区や離れた佐賀県みやき町などで震度6弱を観測したという事例があります。

<2019年9月1日>防災の日

 9月1日は「防災の日」です。1923(大正12)年9月1日に起きた関東大震災の日になります。我が国で最悪の自然災害による被害(約10万人以上の死者・行方不明者)を出した事例になります。特に、地震の後の火災が主な原因でありました。また、暦の上で言うと台風の多い二百十日にもあたります。気象庁の「気象統計情報」によると、台風の接近・上陸は8月から9月にかけて多く、制定の前年である1959年9月には、5,000人を超える死者・行方不明者を出した『伊勢湾台風』が襲来しました。このことからも、この時期は自然災害に対して防災について考える、よい機会と言えるでしょう。
9月1日の前後にあたる1週間は防災週間と位置づけられ、国や各自治体が防災訓練や啓発行事を続けています。(今年の防災週間は8月30日(金)から9月5日(木)まで)政府、地方公共団体等の防災関係諸機関をはじめ、広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波等の災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資するため、「防災の日」及び「防災週間」を設ける、とあります。この機会に自分の周囲で起こる可能性がある災害や、身の回りの危険な箇所、また避難場所や避難経路等を確認して、災害にしっかり備えましょう。https://www.stat.go.jp/naruhodo/c3d0901.html
昨年実施された日本赤十字社による防災の日に関する意識調査によりますと、「防災の日を知っている」と答えた20代はなんと半数以下の48%という結果で、年代が下がるにつれ、防災の日の意識が薄れていっていることがわかりました。防災に関する意識が低いことに加え、最近は防災関係のイベント日が多いと言うこともあるかもしれません。

<2019年8月25日>仙台市荒浜の住宅基礎遺構

すでに仙台市は、荒浜小学校の校舎を震災遺構として公開していますが、「仙台市荒浜地区住宅基礎」が8月2日から震災遺構として公開されました。場所は、沿岸部に最も近い、鎮魂のモニュメント「荒浜記憶の鐘」に隣接するエリアになります。市は荒浜地区の南北に走る県道10号の東側エリアを「災害危険区域」に指定して居住を制限し、住民は内陸部に移られています。校舎だけでなく、荒浜地区に残された住宅基礎群を併せて保存することにより、震災遺構の価値をより一層高めていく考えです。
津波によって被害を受けた住宅(6戸)や浸食された地形を、ありのままの姿でご覧いただくために、できるだけ手を加えない保存・活用を行うこととしました。エリア内に見学用の通路を設置し、近くでじっくり見学できます。また津波の脅威や、失われたかつての荒浜の暮らしの様子、被災後の状況などをお伝えするために、写真や証言などを掲載した説明看板を設置しています。監修に私も携わらせていただきました。
荒浜小学校とともに、この住宅基礎遺構をご覧いただくことで、津波の恐ろしさだけでなく、そこにあった人々の暮らしや地域の記憶、震災の経験や教訓を、より深く感じていただけるのではないかと期待しています。

<2019年8月18日>震災伝承の新しい組織が立ち上がりました

東日本大震災の経験と教訓を後世に伝えようと、東北経済連合会(海輪誠会長)と東北地域づくり協会(渥美雅裕理事長)が中心になり、8月1日、産学官民が連携して情報発信する一般財団法人「3・11伝承ロード推進機構」を設立、私が代表理事に就任いたしました。震災伝承については東北整備局と被災4県、仙台市でつくる「震災伝承ネットワーク協議会」が2018年7月に発足し、3・11伝承ロードの形成に向けて検討を重ね、震災遺構や慰霊碑、モニュメントなどを募集しておりました。現在、192件を震災伝承施設に登録しています。一方で、被災3県の沿岸部に集中する震災伝承施設については、施設間で効率よく一体的な情報発信や運営ができる体制づくりが課題となっていました。
協議会では、各施設や活動を繋いでいく伝承ロードを形成し、地図やサインの設置、語り部活動、ボランティアの派遣により新たな人の流れをつくり、民間や専門家を巻き込んだイベントなどを検討しています。さらに、伝承ロードを活用した防災教育プログラムを開発し、修学旅行や校外学習などで利活用してもらうことも重要であると考えています。例えば、旅行代理店と連携し、研修生、修学旅行生、観光客向けの防災ツアーなどに取り組むことも大切です。そのためにも、マップの整備やモデルルートの整理、伝承ツアーの企画などを検討していきたいです。
・震災伝承施設の情報発信・広報
・被災地の復旧・復興に関する情報発信・広報
・防災力向上のための教材・プログラムの開発・提供
・震災伝承施設などとツーリズムの連携
・防災・減災のための調査・研究
これらを中心に、民間や学術団体、経済界などの協力・支援を得ながら、伝承ロードの形成に貢献していきたいと思っています。

<2019年8月11日>国際津波シンポジウム 仙台開催決定!

https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201907/20190721_13006.html
世界約30カ国から津波研究者や防災関係者が集まる「第30回国際津波シンポジウム」が2021年7月27~29日、仙台市青葉区の仙台国際センターで開催されることになりました。東日本大震災から10年を経た被災地を舞台に、津波研究や防災対策の現状と課題を共有し、各国の津波防災の底上げを目指します。先月開催されたカナダ・モントリオールでの国際測地学・地球物理学連合の会合で正式に決まりました。仙台での開催は1981年に国内で初めて開かれて以来、40年ぶり2回目になります。
最先端の津波研究や防災対策を誇る日本で巨大な津波被害が出た震災は、世界に衝撃を与えました。シンポジウムでは改良や開発が進む津波の監視・警報システム、被害予測技術など最新の成果を踏まえ、今後解決すべき問題について議論する予定です。また,「伝承」も大きなテーマで、宮城県内の震災遺構を巡る視察も企画します。災害の経験と教訓を後世につなぐ重要性を訴えると同時に、被災地の復興した姿を世界に伝える機会とします。仙台では2015年に第3回国連防災世界会議が開かれ、国際的な防災の行動指針「仙台防災枠組」を採択しました。このシンポジウムは、今年11月の「世界防災フォーラム」、来年9月の「世界地震工学会議」に続く防災関係の国際会議となります。震災10年の節目の国際会議で、防災都市『Sendai』を改めて発信する意義は大きいです。一般公開のプログラムや高校生が発表する機会も設け、地元との交流を重視した内容にしたいと思っております。

<2019年8月4日>災害研での共同研究成果報告会について

災害科学国際研究所は、災害科学関連の研究領域において多様な共同研究を実施し、実践的防災学の発展につながる数多くの実績を挙げてきました。その成果を報告する会を毎年開催しております。発足以降、学際的な災害科学研究を推進する中核拠点となり得る施設、研究機器、情報構築、人的体制、ネットワークを整備して参りました。全国関連領域の研究者に本研究所のリソースを活用した共同研究の促進を目的とした助成を行っています。また、自然・社会環境、文化・歴史が異なる地域の支援ニーズや調査に迅速に適応するために、2016年4月から新たにプロジェクトエリア・ユニット制を導入し、その活動成果についても報告しております。
【津波減災】【災害医学】【人材育成】【アーカイブ】の4つのテーマで、報告が行われました。
例)・津波統合モデルを用いた津波による地形変化の確率的評価手法の構築(関東学院大)・巨大地震津波を対象とした津波統合モデル解析の利活用(中央大、関西大)
・東日本大震災の教訓を活かした熊本地震後の精神保健支援活動体制の検討(熊本大)・災害を生きる力因子を特徴づけるパーソナリティ特性の解明(静岡理工大学)
・学校・地域・行政の協働による地域防災力向上のための防災人材育成モデルの開発~宮城県石巻市における「石巻モデル」構築に向けて~(山大)
・熊本地震被災地の公的組織の業務継続力の向上のための実践的研究(熊本大)
・東日本大震災における災害対応に関する災害アーカイブスの社会実装方法に関する研究(常葉大学大学院 環境防災研究科)

<2019年7月28日>宮城県でのオレンジフラッグの取り組み

東日本大震災で被災を受けた地域も復興し、海水浴場も再開されつつあります。ただし、海水浴客や観光客等の来訪者は、その土地に不慣れであるため、津波発生時に避難が困難になる可能性があります。そこで、「オレンジフラッグ」のような来訪者にも分かりやすい支援活動が必要になっています。津波発生時に高台からオレンジフラッグを振ったり、津波避難ビル・タワーに掲げることで、避難を促したり、避難場所を示すために利用されるものです。現在、神奈川県の鎌倉市などに加えて、宮城県の七ヶ浜町等で導入されています。災害科学国際研究所(津波工学研究室)では、佐藤翔輔准教授や学生さんらが協力して、その有効性について調査を実施いたしました。オレンジフラッグというものを海水浴客が認知しているのか、またオレンジフラッグを用いることで避難を効果的に行うことができるか?が研究テーマです。
2018年7月の七ヶ浜町および亘理町他の海水浴場に来ている海水浴等の来訪者を対象に、面接形式で調査に協力を頂きました。調査地である菖蒲田海水浴場から笹山地区まで避難することを想定しました。オレンジフラッグを用いた避難実験後に参加者に対して、オレンジフラッグの大きさや色といった視認性に関する質問調査を行いました。大きさは「十分であった」、「どちらとも言えない」、「十分ではなかった」、色は「見やすかった」、「どちらとも言えない」、「見づらかった」のどちらも3択です。視認性については、80%の回答者が十分であると回答。また、色については、参加者全員が見やすかったと回答していました。なお、ふりかえり座談会では「複数本あったのが良かった」という意見がありました。

<2019年7月21日>オレンジフラッグの活動

東日本大震災後に津波等の被害を軽減しようと様々な活動やプロジェクトが試みられていますが、その1つが、「オレンジフラッグ・プロジェクト」です。このプロジェクトでは、海に映える「オレンジ」という色を使ったフラッグを津波避難ビル・タワーに掲げることで、緊急時に避難先をわかりやすく示します。オレンジフラッグを活用した避難訓練も実施するなど、日本全体を巻き込んで「海と共に生きる」未来をつくることを目指されています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000019754.html
防災ガールと日本財団が展開している津波防災の普及プロジェクト「#beORANGE」では、津波が来たことを知らせる合図として「オレンジフラッグ」を広める活動を始めました。次に来る災害に向けて、視認性が高く、非言語でわかりやすいため、沿岸部で暮らす人や観光客に向けて安全な場所への誘導、より迅速な津波避難を呼びかける合図として、オレンジフラッグの設置/普及/啓発の活動を加速させたいと活動されています。2016年、73市町村に165本のオレンジフラッグを設置されました。陸でオレンジフラッグを振る人が見えたら「津波が来たぞ、早く上がれ」、高台や津波避難ビルにオレンジフラッグが掲げられているのが見えたら「ここが安全だ早く登れ」という意味を示しています。
さらに、宮崎県沿岸部での調査も実施されています。この地域は、南海トラフ巨大地震が発生した際には最短18分で津波が到達するとの予想が発表されており、いち早く情報を取得し、より安全な場所へ避難を開始することが必要な場所になります。調査によれば、約7割が地震がきたら津波の恐れがあるので逃げると回答…しかし逃げる場所を知らない人が90%以上!そもそも、「津波避難ビル」の存在を知らない人が約75%も。また、ビーチには、波と津波の違いがわからない人も60%以上いるということがわかりました。この調査で、海に来た観光客、海水浴客の津波に対する意識の低さが改めて浮き彫りになり、既存のハード面だけの対策ではなく、誰もがわかるソフト面対策の必要性を示唆する調査結果となりました。

<2019年7月14日>北海道南西沖地震

1993年(平成5年)7月12日午後10時17分北海道奥尻郡奥尻町北方沖の日本海海底で地震が発生しました。マグニチュードは7.8(Mw7.7 - 7.8)、推定震度6(烈震)で、日本海側で発生した地震としては近代以降最大規模になりました。奥尻島の震度が推定になっている理由は、当時、奥尻島に地震計が設置されていなかったためです。震源に近い奥尻島を中心に、死者202人、行方不明者28人と大きな被害が出たため、奥尻島地震・津波とも呼ばれています。さらに、ロシアでも行方不明者3人、朝鮮半島にも影響が出たということです。
大津波に襲われた奥尻島の沿岸域で大火災が発生、船舶が同時に火災を起こし、その後に、陸上部の集落の方へ炎上していました。その原因は電気設備の漏電発火、電線での電流などが指摘されていましたが、最近、信州大学繊維学部の榎本特任教授が、青苗港湾の海底に眠っていたメタンハイドレートが津波来襲と共に流出・噴出し、海面にガスとなって漂っていた可能があることを発表しています(今年科学雑誌Geosciencesで発表)。さらに、港湾だけでなく、奥尻島周辺海域にも豊富なメタンハイドレートが存在しており、津波の来襲と共に陸地に押し寄せた可能性も指摘されています。当時の映像によれば、海面付近での火災の色が青白かったことや異臭も報告されています。
通常メタンは気体ですが、低温かつ高圧の条件下でメタンが水分子に囲まれた固体(氷のような無色の結晶)になるそうで、これらが、堆積物に固着して海底に大量に埋蔵されていると報告されています。これがメタンハイドレードです。水温の上昇や地震などの刺激によりこの固体が急激に液化または気化し、海底面から噴出されることがあります。これが、地滑りなどを起こし津波を発生する場合もあります。メタンハイドレートは将来のエネルギー資源として各国から注目されているものですが、2次的な災害を起こす原因にもなりそうです。

<2019年7月7日>大阪府北部地震から1年余りが経過

昨年6月18日7時58分ごろ、大阪府北部を震源とする地震が発生しました。地震の規模はMj6.1、震源の深さは13kmと推定されています(暫定値)。最大震度6弱を大阪市北区・高槻市・枚方市・茨木市・箕面市の5市区で観測しました。政府の地震調査委員会によると、発震機構および地震活動の分布から、震源断層は南北2つに分けられ、北側は東傾斜の逆断層、南側は南東傾斜の右横ずれ断層であったと推定されました。この地震は、新潟-神戸歪集中帯の南西部で発生しました。震源の周辺には有馬-高槻断層帯や生駒断層帯、上町断層帯など複数の断層帯が存在していますが、どの活断層が動いたかの判断は難しいとしています。複雑な断層群の付近で発生したために、推定される震源の少しのズレで、断層との位置関係が変わってくるのです。

<2019年6月30日>山形県沖地震について

今月18日午後10時22分ごろ、山形県沖の深さ14km付近を震源とするM(マグニチュード)6.7の地震が発生しました。この地震で、新潟県村上市で震度6強、山形県鶴岡市で震度6弱の激しい揺れが観測されました。当初は,村上市で最大値の揺れが出たため,新潟県地震と呼んでいましたが,震源や余震分布から,山形県沖地震に名称が変更されています。この地震に伴い、山形県、新潟県、石川県能登に津波注意報が発表されました。今回の地震は1964年の新潟地震(M7.5)にかなり近い場所で発生しました。いわゆる日本海東縁部の歪集中帯で起きた典型的な逆断層地震と思われます。なお,断層が東傾斜なのか?西傾斜なのかは,はっきりしていませんが,現在は余震の広がりから低角の東傾斜が有力です。その結果,津波が予想以上には,大きくならなかったと思われます。地震調査研究推進本部の長期予測では、この場所は再来周期約1000年で、新潟地震が発生したばかりのため、向こう30年の発生確率はほぼ0%とされていました。歪集中帯のため、ごく近傍に未知の断層があることもあり、長期予測の難しさが浮き彫りになりました。地震の規模は1964年の新潟地震より一回り小さかったため、津波も10cm程度で収まったようですが,新潟地震では最大5m程度の地震が観測されています。消防庁がまとめた被害実態(19日14時現在)としては,負傷者26名,一部住宅損壊46棟。また、自治体が把握した避難所への避難者は45人でしたが、多くの方が、津波からの自主避難を行っていたようです。今後も余震活動や土砂災害などの二次災害が発生する恐れがありますので、注意が必要です。

<2019年6月23日>防災学習ツーリズムについて

東日本大震災の実態・経験、教訓を伝えるために、各地で、伝承施設や遺構、語り継ぎ活動などが、開設、また実施されています。2020年度の東日本大震災「復興・創生期間」終了を前に、被災地では震災遺構や祈念公園など伝承施設のハード整備が急ピッチで進んでいます。この中、各地の施設を、統一した標章(ピクトグラム)でつなぐ「3・11伝承ロード」の提案を行いました。東北地方整備局が中心となり、青森、岩手、宮城、福島4県にある震災遺構などをネットワーク化する活動です。
被災各地の慰霊碑やモニュメント、震災遺構などを「震災伝承施設」として定義し、(1)災害の教訓が理解できる(2)防災に貢献できる(3)歴史的・学術的に価値がある-などの条件に該当するものを登録することになります。応募した各施設は、駐車場やトイレの設置状況など、訪問しやすさや展示内容の理解しやすさなどによって分類され、複数の条件を満たすと、整備局や4県などでつくる協議会が新たに作成した震災伝承施設を示すサイン(ピクトグラム)を使えるようになります。国道などの案内標識としても設置されます。外国人にも分かりやすいよう、このピクトグラムは欧米人が博物館をイメージする外観の建物に津波が迫る様子を表現しています。遺構や慰霊碑など192件が震災伝承施設として登録され、うち、語り部活動との連携などの基準を満たした31施設がピクトグラムを標識に使用できることになります。
 5月20日には、宮古市田老で、最初の認定と道路案内表示版のお披露目式が行われました。これにより、施設や活動の場所が分かりやすくなりますし、将来はWEBやSNS上でそれぞれを紹介することができるようになります。さらに、震災の教訓を外国人へも伝える意義も大きく、災害研のリズ先生は「東日本大震災以降、海外でも防災意識は高まっている。米国ではワシントン州とオレゴン州などにまたがる沈み込み帯による地震や津波の可能性が叫ばれており、ワシントン州では小学校の屋上に避難タワーが建てられるなど対策が進んでいる」と述べられています。

<2019年6月16日>防災学習ツーリズムについて

東北地方は、過去に地震や津波、台風などの自然災害を数多く経験してきました。特に、2011年東日本大震災では2万人におよぶ尊い命が犠牲となりましたが、過去の災害経験がなければ、更に多くの犠牲者を出していた可能性があります。国内外で今後起こる可能性がある災害に備えるためは、過去の災害経験を次の世代や全世界に伝えていく防災学習が不可欠です。一方で、東北には、自然・食・文化・歴史などの地域資源があり、従来から多くの方が観光に訪れています。今、その[防災学習]と[観光]を組み合わせる取り組みが進んでいます(観光についての現状は、特に外国人観光客の誘致が遅れており、2010年から2016年にかけての述べ宿泊数は、全国平均では2.7倍に増えているのに対し、東北地方は1.4倍と。震災前の水準にやっと戻ってきたという状況です。)
この防災学習ツーリズムについては、三陸鉄道の「震災学習列車」、マルゴト陸前高田の「復興最前線ツアー」、住民団体の「浪江まち物語つたえ隊」「大船渡津波伝承館」「せんだい3.11メモリアル交流館」などの取り組みがあります。さらに、岩手県北バスグループが事務局となって、いわて復興ツーリズム推進協議会が立ち上がり、三陸沿岸の復興現場にある付加価値の高い地域資源(自然環境、人々の行動や思い等)を発掘し、震災から学ぶことのできるコンテンツとして磨き上げ(負の遺産の地域資源化)、震災・防災及び復興を学ぶ研修・教育旅行のツーリズム化を図っいます。
https://www.kenpokukanko.co.jp/education/association.php
また、宮城県での防災・震災学習プログラムや仙台市での復興ツーリズムの推進も展開しています。
http://www.miyagi-kankou.or.jp/kyouiku/taiken/tk1
多彩なコンテンツやメニュー、ルートがありますので、是非、ウェブサイトを見て頂き、防災学習ツーリズムにご参加ください。

<2019年6月9日>オリンピックでの防災対応―津波対策について

2020年東京五輪が開催されますが、オリンピック成功のためには、治安や災害時の対応など事前の準備が必要です。特に、多くの外国人が訪日されますので、多言語の防災情報などの提供も不可欠になると思います。(国交省、東京都などのポータルサイトができました)  本日は、沿岸部での津波対策についてお話し致します。東京五輪で臨海部で実施されるのは6競技~トライアスロン、ビーチバレー、カヌー、ボート、サーフィン、セーリングです。このうち、トライアスロン、ビーチバレー、カヌー、ボートは東京湾内で開催されますので、想定地震の津波到達は最短で約86分後、サーフィン会場の千葉県一宮町でも約33分と、避難時間の確保という点では一定の時間猶予があります。トライアスロンは五輪に限らず津波対策に取り組んでいるようです。横浜市で毎年開催されている「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」では、沿道の3階以上の建物すべてに協力を依頼するなど、全選手、観客を避難誘導する計画を策定しています。この中で、最も厳しい条件がセーリング競技会場となる神奈川県藤沢市江の島の「湘南港」になります。ここでは、地震発生から約5分後には、会場の大半が津波により水深1メートルに達するシミュレーション解析結果があります。対象となる過去の地震・津波として、元禄型は発生間隔2~3000年、大正型は2~400年に一度と推定されています。現在、東京五輪・パラリンピック組織委員会は「発生間隔などから現実的な判断で大正型を想定し避難計画を立てている」と説明していますが、ここでも津波到達時間としては10分以内になります。周辺には。ヨットハウスなどの建物はありますが、収容人数が限られていますし、江ノ島の中部に高台があるものの、そこへの経路はごく限られています。到達時間が早いことや沖合で遭遇した場合の対応なども含め、場合によっては、津波に遭遇しても漂流しつづけられる装備も必要になるかも知れません。横浜での取り組みのように地域が一体化して、あらゆる対策を検討していただきたいと思います。

<2019年6月2日>ジュネーブでの国際防災会議(グローバルプラットフォーム)

5月13日から、仙台市の高橋副市長、防災ご担当者、防災産業展担当の北條さん、災害研の小野先生・泉先生らとともに、国際会議に参加しました。11月に開催されるWBFのPRや参加依頼などが主要な目的でした。
この会議には、世界182か国から4000名を超える参加があり、UNDRR、インドネシアの気象庁長官と70名を超える視察団、兵庫県井戸知事にもお会いすることができました。
13日には「仙台防災枠組実現のための科学・政策フォーラム」が国連ジュネーブ本部で開催され、新しく発刊されたジャーナル「Progress in Disaster Science」に関するセッションにて、泉貴子准教授がジャーナル紹介の発表を行いました。このセッションには、国連事務総長特別代表(防災担当)の水鳥真美氏もパネリストとして参加され、このジャーナルへの仙台防災枠組実現と政策への貢献について期待を述べられました。15日には、防災プラットフォームの中の「イノベーションプラットフォーム」というプログラムの中で、APRUマルチハザードプログラムと当研究所が「イノベーションと防災」と題したセッションを主催し、国連大学、慶応大学、東京大学からパネリストが参加しました。予想をはるかに上回る100名ほどが参加し、活発な議論が行われました。私からは「Low frequency and high-impact multi-disaster, and new ideas for DRR innovations in the future」と題して、仙台防災枠組の優先行動に沿った東日本大震災の復興過程において、どのような防災イノベーションが採用されたのかについて紹介しました。泉准教授は、APRU、当研究所、慶応大学、東京大学、国連大学、CWSジャパンが協力して発刊した「30 Innovations for Disaster Risk Reduction」を紹介し、30の防災イノベーションに関して行った調査結果を発表しました。会場からは、「ジェンダー」と「ヘルス」といった視点からみた「イノベーション」を、次号ではぜひ取り上げてほしいとの強い要望やさまざまな提案がありました。

<2019年5月26日>5月に起きた地震津波事例~青森県を中心に

本日は、5月に発生した青森県に関連した地震と津波の事例を紹介します。東北地方の中でも、青森は比較的地震や津波は少ない地域であると言われていますが、県東方沖には日本海溝の北端が位置し、西方沖には日本海東縁部が存在しています。まずは。1968年(昭和43年)5月16日9時48分ごろに発生した十勝沖地震です。Mj7.9 (Mw8.3)、北海道、青森県、岩手県で最大震度5、三陸沿岸で5mの津波も発生、死者・行方不明者は52人。この地震による被害の特徴は、前日まで三陸沖に停滞した大型低気圧による大雨で地盤がゆるんでいた青森県下のシラス地帯で被害が大きく出たことのほか、築後まだ日の浅い近代的鉄筋コンクリート構造物の破壊、石油ストーブ転倒による出火の多発、津波によるタンカーの損傷による重油の流出など、今後の大地震の際に発生が懸念される近代的震災で、その後の防災対策に貴重な教訓を与えたことになります。
http://www.bousai.pref.aomori.jp/DisasterFireDivision/archivedata/earthquakeoverview/tokachioki/index.html
次に、1983年(昭和58年)5月26日に発生した日本海中部地震および津波です。Mj7.7 (Mt8.1、Mw7.7)、青森県深浦町、むつ市、秋田県秋田市で最大震度5、日本海に大津波、被害は、ほぼ県内の全域にわたる8市32町23村に及びました。日本海側沿岸地域では、5~6mもの大津波に襲われた地域もあり、津波災害としては昭和35年5月のチリ地震津波以来の17名(青森県)、全体では104名もの尊い人命が失われました。地震発生後わずか7分で深浦で引き波が観測され、その後、押し波の第1波が襲来、その後65cmの最大潮位を観測しました。このように予想外に早く津波が到達したのは、地震による海底の地盤変動が海岸に近い所まで及んでいたためと思われます。

<2019年5月19日>5月に起きた津波事例~島原大変肥後迷惑

1792年5月21日(寛政4年4月1日) 長崎県島原半島で雲仙普賢岳の噴火が起こり、眉山の山体崩壊による対岸の肥後国(現在の熊本県)大津波が島原や対岸の肥後国を襲ったことによる災害であります。新月の夜かつ大潮であったことで大きな被害となったとも言われます。山体崩壊で大量の土砂が有明海になだれ込んできた衝撃で10メートル以上の高さの津波が発生しました。土砂の量は3億4000万立方メートル]に上ったということです。津波の第1波は約20分で有明海を横断して対岸の肥後天草に到達しました。大量の土砂は海岸線を870メートルも沖に進ませ、島原側が高さ6?9メートル、肥後側が高さ4?5メートルの津波であったと言われます。肥後の海岸で反射した返し波は島原を再び襲いました。津波による死者は島原で約10,000人、対岸の熊本で5,000人を数えると報告されています。
肥後側の津波の遡上高は熊本市の河内、塩屋、近津付近で15?20メートルに達し、三角町大田尾で最高の22.5メートルに達しました。島原側は布津大崎鼻で57メートルを超えたとの記録があります。この時に有明海に流れ込んだ岩塊は、島原市街前面の浅海に岩礁群として残っており、九十九島(つくもじま)と呼ばれています。これは地形学的に言うと「流れ山」と呼ばれる地形になります。

<2019年5月12日>錦絵「御酒頂戴(ごしゅちょうだい)」の修復と展示

明治維新時の天皇の東京行幸に際して、庶民に御酒を下された時の錦絵「御酒頂戴」が、このたびの御代替わりに際して佐浦酒造「浦霞 酒ギャラリー」に展示されています。佐浦酒造が所蔵していたこの錦絵は、東日本大震災の津波で被災しましたが、2年にわたる修復を終えて戻ってきたということです。被災時の状態は、海水を被り、本来の風合いを消失。砂や埃が堆積し、水シミが鑑賞を妨げていたということです。状態や損傷を観察し、ドライクリーニング、ウェットクリーニング、肌裏打ち仮張り、補採などの補修を行いました。詳しい修復の過程も資料が公開されています。この錦絵の修復にあたり、国立歴史民俗博物館の天野真志さん(2017年6月までは東北大学災害科学国際研究所准教授)、東北芸術工科大学の柴村桜子さんが尽力されたということです。 「御酒頂戴」の作者は、江戸から明治にかけて活躍した浮世絵師三代目歌川広重。木版画であることから多く刷られ流布していたものではありますが、「御酒頂戴」というお酒にまつわるタイトルまた「平成」から「令和」へ時代が移り変わるこの機にふさわしい錦絵ということでHPなどで紹介がありました。明治元年(慶応四、1868)4月11日、江戸城が無血開城となり、明治天皇が京都から江戸城西丸に入り、その直後の11月4日、明治新政府ではこの東幸を祝して東京市中に樽酒を下賜、東京市民は11月6・7日の両日家業を休み、「天酒頂戴」と称して祭礼のような盛り上がりをみせたといわれています。その時に下されたお酒は総数で2990樽、1700把のスルメもつけられたと言われています。港町・塩釜にふさわしく、新しい時代の幕開けに「祝い船」という日本酒も発売されています。
浦霞酒造元 株式会社佐浦「うらかすみ便り」

<2019年5月5日>港湾(コンテナ)ネットワークへ与える津波の影響

本日は、津波工学研究分野で提出された修士論文の紹介をさせていただきます。今年3月に修士課程を修了された大竹拓郎(現NTTデータ)さんの論文の内容です。研究指導教員としてアナワット准教授も指導されました。津波は広域に伝播し様々な影響を与えますが、海域での船舶に注目したグローバルな影響をネットワークの考えで評価した研究になります。
2011年東北地方太平洋沖地震津波では、港湾が被災したことで代替港の利用を余儀なくされ、海運会社の海上輸送網に影響を与えました. また、港湾に工場を持つ企業の操業停止なども報告されています。港湾被害の影響は、船舶の海上輸送ネットワークを通じて国内外へ波及するため、港湾単体の津波リスクだけでなく、ネッワークへの影響も把握しておくことは、港湾を拠点とする企業や海運会社等がリスクベースの経営を進める上で重要な情報となるのです。その津波リスクを評価するためには、世界中に点在する港湾とそのネットワークを把握するグローバルスケールで津波ハザードを考える必要があります。そこで、海運会社のコンテナ貨物の海上輸送網を利用して、過去400年間に発生した津波を対象に、港湾が津波により被災した際に、輸送系全体が受ける影響を定量的に示すことを検討しました。まず、第一段階では、東日本大震災での津波など広い海域に影響するケースを整理して、各港湾での被災判定(港として機能するか?)をします。この基準は東日本大震災でのコンテナ港湾の実例を参考にしました。次に、被災による船舶ルートの変化を評価しました。コンテナ船などは、いくつかの港を経由して運搬するため、一部の港湾が使えなくなるとルートの変更をせざるを得ません。この結果を見ました。さらに、代替港湾へ移動することになりますが、ある港湾に集中し、荷下ろしなどの作業が滞る場合があります。これらを船舶数と港湾の能力により評価しました。このような検討をすると、どのような津波の場合に、船舶ネットワークに与える影響が大きいのか?また、どの港湾がそのリスクが高いのか?さらに、代替港湾としての機能やどの程度の能力が必要なのかが評価できることになります。

<2019年4月28日>熊本地震を巡る研究不正について

熊本地震は、震度7を2回観測するなどメカニズムに特徴を持つ地震でありました。そのため、直後から調査や観測がなされ、多くの知見や成果がでています。その中、残念な事件が報道などで紹介されました。それは、観測データや成果の図についての不正であります。
2017年9月に、土木学会のホームページにおいて大阪大学などの研究者が論文発表していた4月16日の本震の地震波データに問題があることが指摘され、日本地震学会からもリンクされました。大阪大学や京都大学が、この問題について調査を開始しました。問題が指摘されているデータは大阪大学の准教授が臨時に設置した地震計によるものとされていましたが、他の機関が観測したデータを加工するなどして捏造していたようです。このため、大阪大学はこの准教授の論文5本を不正と認定し、取り下げる手続きに入りました。さらに、先月3月26日、京都大は理学研究科の教授(地震地質学)が2016年2月に米科学誌サイエンスに発表した熊本地震に関する論文に図の改竄(かいざん)や盗用の不正があったとの内部調査結果を公表、この教授に論文の撤回を勧告し、教授を処分する方針です。京大は調査の結果、「論文の結論を導き出すのに重要な役割を果たしている6個の図のうち、4個に研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務に著しく反した行為による改竄(かいざん)、盗用が認められた」と判断されたのです。
通常、査読付き論文では、近い分野の複数の専門家が、不正がないか、論理や説明に矛盾がないかなどをチェックします。しかし、この2事例については、その査読が機能しませんでした。現在、大学や研究機関では、厳しい研究倫理規定があり、その遵守が求められています。最先端や新しい分野程、短時間ですべてのデータや内容をチェックすることが難しいという現実があります。画期的な論文については、その後の関連論文などの動向も見ていなければなりません。
参考事例:https://www.asahi.com/articles/ASM3H5WJNM3HPLBJ005.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42952160W9A320C1000000/
http://temblor.net/earthquake-insights/2016

<2019年4月21日>熊本地震について

熊本地震は、2016年4月14日21時26分以降に熊本県と大分県で相次いで発生した地震になります。震度7を観測する地震が4月14日夜および4月16日未明に発生したほか、最大震度が6強の地震が2回、6弱の地震が3回発生しました。14日の地震が16日の前震となった事例になります。日本国内の震度7の観測事例としては、4例目(九州地方では初)および5例目に当たり、一連の地震活動において、現在の気象庁震度階級が制定されてから初めて震度7が2回観測されました。あわせて、一連の地震回数(M3.5以上)も内陸型地震では1995年以降で最多となっています。また、政令指定都市(熊本市)で震度6弱以上の地震を観測したのは、2011年の東北地方太平洋沖地震(仙台市)以来5年ぶりのことでありました。
現在、熊本市では下記の復興重点プロジェクトが進められています。
1 一人ひとりの暮らしを支えるプロジェクト
2 市民の命を守る「熊本市民病院」再生プロジェクト
3 くまもとのシンホ゛ル「熊本城」復旧プロジェクト
4 新たな熊本の経済成長をけん引するプロジェクト
5 震災の記憶を次世代へつなぐプロジェクト
この地震により熊本城では、国指定重要文化財建造物13棟、再建・復元建造物20棟、石垣の崩落・膨らみ・緩み517面など、甚大な被害を受けました。現在、熊本城復旧基本計画に基づき、効率的・計画的な復旧を進めていますが、熊本城全体の復旧期間は約20年を見込んでいます。熊本城の被害状況や復旧過程を安全に観覧いただくため、 2019年度中の完成を目指して、特別見学通路の整備が進められています。また、震災の記憶を次世代へつなぐプロジェクトについては、2018年3月に、熊本市震災記録誌が刊行されたほか、防災教育を充実させるための防災副読本が作成され、小・中学校で活用されています。阪神淡路大震災から始まった一連の災害に対して、経験や教訓をつなぐバトンリレーなどの活動も進められています。

<2019年4月14日>昨年4月に発生したトカラ列島近海の群発地震

トカラ列島近海では、昨年4月15日から16日にかけて、震度1以上を観測する地震が19 回発生しました。このうち最大規模の地震は16日00 時 58 分に発生した M3.7 の地震で、宝島、小宝島で震度2を観測しました。また、16 日 03 時 35 分に発生した M3.6 の地震により、小宝島で震度3、宝島で震度2を観測しました。
南西諸島周辺の地震は、フィリピン海プレートと南西諸島がのっている「陸のプレート」との境界面で発生するプレート間地震、沈み込むフィリピン海プレートの内部で発生するプレート内地震、および陸のプレート内部で発生する地震(沖縄トラフで発生する地震を含む)に分類されます。また、トカラ列島近海と西表島付近に、火山活動との関連が指摘される群発地震が報告されています。トカラ列島の島々はすべて霧島火山帯に属する火山島です。
 トカラ列島は、屋久島と奄美大島の間に位置し、七つの有人島(口之島、中之島、諏訪之瀬島、平島、悪石島、宝島、小宝島)といくつかの無人島からなる島々です。中之島の御岳(おんたけ: 979m)、臥蛇島の御岳(おたけ:497m)、諏訪之瀬島の御岳(おたけ:796m)、平島の御岳(おたけ:243m)、悪石島の御岳(みたけ:584m)の5山はすべて各島の最高峰であり、中之島の御岳はトカラ列島最高峰でもあります。過去の事例では、この領域の地震活動は数時間から数日間継続することが多く、2016 年には 12 月 5日から 24 日にかけて断続的に地震が多発し、宝島、小宝島で震度1以上を観測した地震が 55 回発生しています。

<2019年4月7日>昨年4月に発生した島根西部地震

島根県西部地震は、昨年4月9日1時32分に島根県西部を震源として発生した地震です。地震の規模はMjma(気象庁マグニチュード)6.1、震源の深さは12km、最大震度5強を大田市で観測しました。この地震により負傷者9人、1,000棟以上の建物に被害が出ました。この地震の震央付近には活断層が確認されていませんが、1930年にM6.1、1963年にM5、1978年にM6.1の地震が相次いで発生していました。また、歴史資料によりますと、880年に出雲で陸域の浅い場所で起きたと見られる地震(M7)が発生しています。古代には現在の益田市の沖に「鴨島という島があったが万寿の大波によって海中に沈んだ」という伝承があり、最近の調査の結果、11世紀頃に益田市の海から2km程度の限られた範囲に津波が遡上していたことを示す堆積物が見つかりました。 島根県には、県東部の宍道(しんじ)湖周辺に宍道(鹿島)断層、県西部に弥栄(やさか)断層があります。また、島根県周辺に震源域のある海溝型地震はありませんが、南海トラフ地震や日本海東縁部で発生する地震で被害を受ける可能性もあります。また、2011年の東日本大震災以降、山陰地方の日本海側は年に5~6 mm程度瀬戸内海側に対して東に動いており、大陸プレート内にひずみが集中しているという見解も出ています。

<2019年3月31日>NHKスペシャル「黒い津波~知られざる実態」人体への影響

“黒い津波”は、来襲時に破壊力を増して、物理的な被害を増加させただけでなく、人的被害や緊急対応、復旧の段階でも影響を与えていた可能性があります。(https://www3.nhk.or.jp/news/special/shinsai8portal/kuroinami)
Nスペの調査によると、津波が砂や泥、ガレキなどを巻き込んで押し寄せたことが死者の増加につながったと感じるか尋ねたところ、「感じる」が15人、「どちらかといえば感じる」が9人と“黒い津波”が死者の増加に影響したと答えた人が8割を占めました。
その理由について:「溺死と判断したほとんどの遺体には口に土砂が付着していた」「黒い波に入ってしまうと視界が奪われ、動作がしづらくなっていたのでは」 と報告されています。300人以上の検死を行った東北医科薬科大学の高木徹也教授は、“黒い津波”が入った容器にへばりついていた黒い塊に注目されました。「ヘドロのような重い水とか異物の場合は、のど元や気管支などを詰まらせる原因になります。純粋な水でなかった分、死者を増やした要因になっているのではないか」と、粘りをもった塊となったことで、危険性が増したのではないかと指摘されています。さらに“黒い津波”は、津波から生き残った人たちにとっても脅威となりました。津波を吸い込むことによって、重度の肺炎を引き起こしたのが「津波肺」になります。今回見つかった“黒い津波”の場合、粒子は小さいもので、およそ4マイクロメートルと、肺の一番奥まで達するほど細かいものも含まれていました。さらに油や重金属など、さまざまな有害物質が検出されていて、肺の炎症につながったとみられています。
黒い津波は、乾燥して粉塵となった後も、健康への影響が続きます。気仙沼市の女性は、自宅から流された物を探し回るうちに、重い肺の病気を患いました。大量の粉塵を吸い込んだことが原因とみられます。肺の洗浄をおこなうことで一命を取り留めましたが、1年以上入退院を繰り返しました。
黒い津波は重い津波で破壊力が大きく、人への危険性も高い津波であることが明らかになりはじめました。今後、同じような地形の地域では、これまでの津波のイメージを変えた上で、素早い避難を徹底していく必要があります。

<2019年3月24日>NHKスペシャル「黒い津波~知られざる実態」

東日本大震災から8年が経過し、当時の津波の特徴が徐々に解明される現象もあります。黒い津波がその1つになります。3月3日にNHKスペシャルでも放映されました。
(https://www3.nhk.or.jp/news/special/shinsai8portal/kuroinami/)
当時、多くの人が目撃し記録されたにもかかわらず、津波の実態はよくわかっていませんでした。解明のきっかけになったのが、「震災当時に採取した“黒い津波”を今も保管している」という1本の電話でした。宮城県気仙沼市の上田克郎さんが当時の海水を4リットルのペットボトルに保管していたのです。震災の翌日、海沿いで箱の中に黒い水がたまっているのを見つけたそうです。上田さんはその水を容器に移し保管。震災の記憶を伝えようと、被災地を訪れるボランティアなどに見せておられました。震災から8年、一度も開封することなく、当時のままの状態で残されていました。この貴重な資料を分析されたのが、中央大学の有川太郎教授らです。黒く見える部分の主成分は海の底に沈殿していたヘドロであり、密度は1リットルあたり1130グラム。通常の海水に比べ、10%重い比重です。さらに、特に注目したのは、粒子が極めて小さいことでした。シルトから粘土(泥状)に近い成分のようです。この黒い津波の影響の1つが波力の増加でした。単純に密度の増加だけでなく、津波先端が粘性により切り立ち(波形勾配の増加)、津波の衝撃力を増したようです。想定の2倍の力が発生していました。この黒い津波がどこから生じたのかを解明するために関西大学の高橋智幸教授らが、数値解析を行いました。その結果、気仙沼湾奧に入る途中の狭窄部で、流れが集中し、剪断力を増加させて、特に海底を掘り下げ、大量のヘドロを巻き上げたというのです。シミュレーションでは、気仙沼湾全体で推計100万トン分の海底が削り取られていました。その結果、狭窄部は拡げられ、後続の津波が湾奧に入りやすくなったとも考えられます。

<2019年3月17日>防災・減災コンテスト2018in大船渡が開催されました

先日、第2回目の防災・減災コンテストが大船渡市防災観光交流センター(おおふなぽーと)で開催されました。東日本大震災の記憶の風化が懸念される中、岩手・宮城両県で活動する団体などの取組を紹介し、表彰するものです。今回は1次予選を通過した6団体が津波伝承や防災学習など多彩な取り組みを発表されました。「二度と災害で命を奪われないように」と活動の継続を誓っています。最終結果として、大槌高復興研究会が最優秀賞を受賞されました。以下が、予選を通過した6団体の活動内容です。
(1)段ボールジオラマ(推進ネットワーク)
話題性と仕掛け、わかりすい、忘れない=>日常性、実際に歩く(街歩き)、目に触れる、5感を 使うなどがポイント
(2)家・家具を通じた防災対策(大原さんwith-life)
(3)TEAM SENDAI
仙台市の職員が当時の対応を聞き取り記録、そして伝承へ 職員のジレンマの課題、本人語り=まるごとパック、研修 マニュアルだけでなく、作成する過程が大切であるというコンセプト。
(4)花巻こども防災フェス2018(青年会議所)
人づくり、まちづくり被災地への支援活動、率先して助ける事業、こども防衛隊
(5)生きる、かかわる、備える 長洞(ながほら)地区の取り組み村上さん 仮設住宅、住民主体、被災地体験ツアー ゆべしづくり体験、漁業・農業体系、AKB(あきらめない、かわいい、ばあちゃん)
(6)大槌高校復興研究会
町の中心は壊滅、学校は避難所にバラバラの活動を1つにまとめ、2013年に研究会を発足 現在は、全校生徒の8割にあたる149名ものメンバーが多彩な活動をコンテスト中には、復興甚句「釜石あの日あの時」、大船渡津波伝承館防災紙芝居「吉浜のおゆき」なども披露されました。

<2019年3月10日>震災から8年を迎えます

明日で東日本大震災から8年を迎えます。先日、政府の地震調査委員会から日本海溝での地震長期評価(プレート間と内の地震)が報告されました。余震域で発生したM4.0以上の地震の発生数は、震災直後に比べては25分の1以下にまで時間の経過とともに大局的には減少しています。しかしながら、地震前の平均的な地震活動状況と比べると1.5倍程度と依然高い状態です。また、長期評価によりますと、超巨大地震の確率はほぼゼロ%ですが、ひと回り小さい地震(M7-7.5、青森、宮城県沖、茨城県沖)では80%を超える値が出ています。
今回の改訂のポイントは
(1)津波堆積物から東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震を再評価
-情報の不確実性も検討の上、評価を実施
(2)東北地方太平洋沖地震を受けて、地震発生確率を再評価
-東北地方太平洋沖地震から約8年が経過し、震源域及びその周辺で起きている現象の理解が進んだ
(3)評価対象領域・地震を再編
三陸沖北部→青森県東方沖及び岩手県沖北部
三陸沖中部→岩手県沖南部
宮城県沖、三陸沖南部海溝寄り→宮城県沖(領域を統合)

また、本日は「仙台防災未来フォーラム」が開催されます。さまざまなセッション、プレゼンテーション、展示、そして、防災の思いをのせたアートコンクール入賞作品が紹介されます。特に、東北工業大学の学生さんらが手掛けた「防災・復興ダンボール製作品」も会場内に展示されますので、是非ご覧になって頂きたいと思います。セッションとしては、災害研の定例シンポジウム、豪雨災害から命を守るための市民意識啓発の取り組み、「みんなで防災まちづくり 女性も!若者も!」など。ブース展示としては、 49の防災・減災・環境関連のブースが出展!、災害時のペット同行避難について、『せんだい安心ナビ』の展示、災害時にも役立つ常備菜レシピ集など盛り沢山です。さらに、「世界防災フォーラム2019」についてもご紹介します。是非、仙台国際センター展示棟にお越し下さい。

<2019年3月3日>遺構としての気仙沼向洋高校

気仙沼市では、東日本大震災の遺構(旧気仙沼向洋高校)と伝承館が3月10日にオープン致します。向洋高校は気仙沼湾入り口付近の波路上地区に位置していました。東日本大震災では4階までが津波で水没するなどの甚大な被害を受けました。湾の入り口側だけでなく、後ろから回り込んだ津波の来襲も受けたようです。この日は、平成22年度の最後の授業日でした。3年生は3月1日に卒業しており、1、2年生約220名の生徒が登校していたそうです。授業を終えたのは正午近くで、いくつかのクラスが分散会として中庭付近でホームルームを開いていました。その他のクラスの生徒たちは部活動や帰宅の途に着いてました。そこに、突然の巨大地震が発生したのです。約170名の生徒が学校に残っていました(すでに約50名の生徒が帰宅)。校舎内では地震発生直後、約20名の教職員が情報収集に集まってきましたが、地震による停電のため事務室内のテレビ等からは情報を得られず、教師の一人が所持していたワンセグ携帯電話から、6~7mの津波が襲来する情報を確認したそうです。教職員の指示のもと近所の指定避難場所である地福寺へと約170名の生徒が移動を開始しましたが、その後、もっと高いところに避難しないと危ないという判断で、そこから1キロ先の階上駅に移動させたということです。残っていた教員たちは、屋上に避難し、何とか難を逃れました。
この校舎を震災遺構として残すことになりました。津波を受けた教科書の山、泥で汚れた廊下や教室、校舎3階まで流されてきた車などが震災当時のまま見学することができます。また、併設する伝承館には、津波の脅威を伝える大型映像シアター、被害状況や復興の過程をまとめた写真やパネルの展示、語り部による講話を聞くことができます。襲い来る津波と甚大な被害、そして復興を目指す人々の姿など、多方面から「東日本大震災」について学ぶことができます。

<2019年2月24日>気仙沼防災フォーラム

先日、気仙沼市中央公民館を会場として、「平成30年度気仙沼市防災フォーラム」(気仙沼市・気仙沼教育委員会主催、災害研・気仙沼 ESD/RCE 推進委員会共催)が開催されました。気仙沼市立小・中学校安全担当主幹教諭の皆様が企画・運営にあたりました。本フォーラムは、当研究所が気仙沼市内で2ヶ月に1回程度開催している防災文化講演会の第27回としての位置つけでもあります。今回のテーマは、「市民みんなで考える防災」で、市内の中高生をはじめ学校関係者や自主防災組織等、地域住民約120名が参加しました。
フォーラムは、中高生からの防災学習発表、基調講演、ワークショップの3部構成で行われました。防災学習発表では、階上中学校(学年毎防災学習、地域毎防災訓練)、条南中学校(避難ルートの検討、歩道などの提案)が今年度の防災学習活動の成果について、気仙沼高校(震災前よりも防災活動は盛んになっているか?リサーチ仮説、学校、防災計画などを確認、小学校への拡大、マンネリ化対策などの課題)から課題研究の成果が発表されました。基調講演は、私から「東日本大震災の教訓とこれからの防災の取組、それぞれの役割と実践」という演題で行いました。講演の後、伝承や防災教育プログラム、さらには今後のリスクなどについての質問を頂きました。 ワークショップでは「どうしたら防災意識を高めることができるか」をテーマに、グループに分かれて議論を行い、その結果について発表が行われました。 ワークショップは、昨年度と同様、大変活発に議論(学校との連携、合同避難訓練、備品の共有、歴史やスポーツとのコラボ等)が行われました。

<2019年2月17日>外国人への防災対応 TOKYO EYE2020番組の紹介

先日、NHK国際放送(ワールドTV)の番組「TOKYO EYE2020」に出演させていただきました。司会はクリス・ペプラーさんで、2020年のオリンピック・パラリンピックを控え世界中から注目されるTOKYOの魅力を、様々な切り口から紹介されている番組です。今回は、外国人への防災対応ということで、我が国に在留されている、または旅行などで滞在されている方々へ、様々な防災についての情報を提供するものです。特に、東京は世界でも代表的な大都市の1つであり、地域での災害の特徴を知り、不特定多数がいる大都会ならでは対応を少しでも理解いただく必要があります。まずは、レポーターのリサさんが施設や街歩きで防災に関する体験や学習をされました。国立の防災施設「そなエリア」で「東京直下72時間ツアー」を体験されました。リアルに再現された災害後の街を歩き、防災の知識を得る目的です。エレベーターの中で地震が起きる体験も出来ます。 次ぎに、東京都の「外国人のための防災訓練」に参加。起震車で震度7を体験、AEDの使い方や避難所で役立つ段ボールベッドなどを体験されました。さらに、防災NPOの小倉さんと一緒に、新宿を歩かれ、危険な場所など、さまざまな確認をされました。
旅行者の方などは、事前にアプリやWEBなどの情報を得て頂く事が肝心です。東京都は「東京防災アプリ」、日本政府観光局「Japan Official Travel App」のアプリを開設していますので、インストールしておくといいですね。突然の災害に遭遇しても、冷静な行動をとれるよう、日本を訪れる外国の方には、ぜひ何らかの備えや対策をしていただきたいと思います。

この番組は、NHKBS1でも、2月22日(金)3:30~放送予定

<2019年2月10日>台湾(花蓮かれん)地震

1年前の2月6日(台湾標準時、23時50分)、台湾東部の花蓮県(かれん)近海を震源として地震が発生しました。奇しくも、2年前に南部で起きた台湾南部地震と同じ日でした。この地震で17人が死亡し、花蓮市内では、7階建てのマーシャルホテル(統帥大飯店)や、12階建ての雲門翠堤ビル、そのほかに民家41棟が倒壊する被害が発生しました。地震の規模はMw 6.4 (USGS)、Mj 6.3 (気象庁) とされています。花蓮県花蓮市、太魯閣、宜蘭県南澳郷で最大震度7級(中央気象局震度階級)を計測しました。
そもそも台湾は環太平洋火山帯上、フィリピン海プレートの西端の地震活動が活発な地域に位置しています。そこでは約42の活断層が地質学者によって特定されている地震発生地域であります。記録に残されている台湾における最古の記録地震は、オランダ統治時代、1624年に発生したものになります。20世紀には、91回の大規模な地震が観測されており、うち48回では死者が発生しています。。最近では1999年9月21日に発生した921大地震(中部の南投県集集鎮付近を震源)で、2415人が死亡しまいました。今年で20年を迎えます。花蓮はもともと地震が多い地域なので住人は地震には慣れていいますが、それでも地震が起こったときは慌てて家を飛び出すほどの恐怖を感じましたの報告もあります。建設中のホテルの屋上にあったクレーンが落下して騒ぎにもなりました。
この地域は観光地としても有名です。太平洋沿岸に広がる雄大な断崖「清水断崖」など風光明媚な場所が多くあります。地震で被害を受けた施設も2ヵ月ほどで完全に復旧したのですが、来訪者や宿泊者が少なくなったというのが課題でした。現在は少しづつ回復しているようですが、災害後の観光地での風教被害や復旧は共通の課題です。

<2019年2月3日>津波避難施設・ビルの計画について

津波から身を守るためには、迅速な避難開始に加えて、避難場所・施設の確保が大切です。高台などがない沿岸部では施設・ビル等の設置が必要となり、津波避難ビル等の指定や新たに建設することになります。津波避難施設・ビルには、避難タワー、多目的施設、既存建物の改築・改良、1階などをピロティー構造にしたものなど多彩にあります。津波避難施設の立地計画や津波に対する安全性を確認するためのガイドラインがあります。まず大切なのは、津波などが来襲しても破壊されない「構造的要件の基本的な考え方」です。通常は浸水深に応じて「津波荷重」を想定して、受圧面(外壁、窓等)・構造骨組(柱、梁、耐力壁等)を設計することが求められています。その上で、その「地震」に加えて「津波」の荷重も考慮にいれた津波避難施設・ビルを設計することが大切です。
津波避難施設・ビルの計画の手順は以下の通りです;
(1) 建設地の想定;津波浸水予想区域(イエローやレッドゾーン)を定めて、津波避難施設・ビルの位置を想定します。
(2) 避難可能範囲の推定;津波の到達までに歩行により避難可能な範囲を定めます。具体的には津波避難ビルを中心に、津波到達時間内に徒歩で移動できる距離を半径とした海側の半円形などを避難可能範囲として設定します。
(3) 収容可能な範囲の推定(収容人数の推定);津波避難ビルの収容人数は、当該地域の人口密度(居住人口・就労人口)と(2)で設定する範囲(利用者、観光客なども)により推定します。
(4) カバーエリア((2)、(3)により推定した避難可能範囲)の決定後、必要であればカバーされない範囲の避難計画も拡げて、最終的に決定していきます。
 さらに、東日本大震災などでは漂流物対策の必要性が顕在化しました。漂流物の発生しない場所に限定した立地を考えることは難しく、例え漂流物が多く発生する可能性がある地点であっても立地しなければならない場所があります。対応策としては、漂流物も考慮した荷重を推算し破壊が生じないようにすることですが、様々なタイプの漂流物があること、技術的に衝撃力を評価することは難しいなどの課題があります。また、漂流物の周辺では火災が発生する場合も考えられますので、もう1つの考えとしては、施設・ビルの周りに防護策(杭、パイプ、ネット、植栽)などを設け、緩衝領域を設けることが提唱されています。

<2019年1月27日>とくしま-0(ゼロ)作戦の紹介

先日、関西学院大学で、『2019年復興・減災フォーラム「東北」から未災地への伝言」~南海トラフ地震に備えて~』が開催されました。東日本大震災の被災地と南海トラフ地震の想定被災地から研究者や首長、自治体職員、民間事業者、NPO代表らが参加され、高台移転や嵩上げによる街づくり、防潮堤整備をめぐる地域の課題をテーマに津波被災地の再興についての議論がありました。この中で、徳島県飯泉嘉門知事から、特別講演「進化する『とくしま-0(ゼロ)作戦』の推進について」の話題提供があり、詳細に現在の取組についてご紹介いただきました。
平成24年3月、震災時の死者0(ゼロ)を目指すことを基本理念に、「中央構造線活断層帯」をはじめとする活断層地震への対策も加え、今後早急に実施すべき対策を網羅し、平成27年度まて゛を「集中取組期間」とする「『とくしま-0(ゼロ)作戦』地震対策行動計画(徳島県南海トラフ・活断層地震対策行動計画)」を策定されました。これまで、「助かる命を助ける」防災・減災として、早期避難等に関する対策を講じるべく、全国初となる「津波災害警戒区域(イエローゾーン)の指定」、徳島モデルの防災・減災対策「高速道路を活用した避難場所の整備」など、着実に取組みを推進されています。特に、ユニークだったのが、水陸両用車両や全国初の線路・道路両用車です。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO19090840R20C17A7000000/
徳島県海陽町と高知県東洋町を結ぶ阿佐東線(あさとうせん)に、このデュアル・モード・ビークル(DMV)の導入を計画、沿線自治体は、2018年1月まで各種のイベント会場などで、JR北海道から車両を借り受け、展示や試乗会を実施しました。2020年導入の予定です。

<2019年1月20日>スンダ海峡津波の現地調査について

インドネシア海洋水産省の依頼により、昨年12月28日・29日の2日間、ジャワ島被災地における現地調査を実施いたしました。インドネシア海洋水産省は、今回の火山活動による津波の発生を仮定し、その伝播解析を実施していました。それによるとスンダ海峡全般に津波は伝播しているが、特に、ジャワ島西海岸の半島や島(Panaitan島、 Cangkuang半島、Lesung半島)に地形効果により集中(収斂)している状況が示されていました。
今回の調査目的は:(1)津波実態の把握、(2)検潮記録の分析(津波波高として数10cm~2m、周期5-10分と短い)(3)波源の推定(津波到達時間から火山活動Anak Krakatauからと推定)(4)事前情報の整理 (5)避難実態 (6)観光地等での被害実態などです。また、今後の課題として、リアルタイム観測体制のあり方、沿岸部でのハード・ソフト対策のあり方になります。
Anyer付近の海岸(CaritaからPagelaran付近)では、被害が点在していました。津波そのものが短周期で多様であったことと、沿岸(浅海)での地形効果により津波が局所的に集中したことの可能性があります。津波力は、浸水深の割には比較的に大きいと考える。これらは、今次津波の周期が比較的短いことを示唆しています。被災した地域では、浸水高で3m程度(地盤高が平均的に1.5m〜2m程度)で、構造の弱い家屋は流出しています。
Lesung半島(開発中のリゾート地も含む)の海岸には小さなビーチが点在し、沿岸から100m程度は低地ですが道路を挟んで急な勾配になっている場所であります。沿岸付近で津波浸水痕跡が明確にわかるところでは3m弱(大きいところでは5mにも達する)であり、その規模の津波が斜面を一気に駆け上がり、局所的に遡上高として8mから13m程度になったと考えられます。遡上の高さが大きいところでは、押し波の痕跡(漂着物や、草木の倒木方向)が顕著であり、その他では、戻り流れの痕跡も混在していました。津波の高さで推定される規模よりは勢いが強く、壁が破壊されるまたは家屋全体が流出している場所もありました。

<2019年1月13日>スンダ海峡での火山性津波について

スンダ海峡津波(Sunda strait tsunami)は、2018年12月22日午後9時頃、インドネシア・スンダ海峡で発生した大規模噴火に伴う津波になります。この津波は、アナク・クラカタウ火山島の噴火で山体の一部が崩壊したことに誘発されて発生した地すべりに起因するものと推定されています。アナク・クラカタウ火山島はクラカタウ火山を構成する火山島のひとつであり、*1883年のクラカタウ火山の大規模噴火で周辺が海没した後、1930年に火山の中心部として新たに海面隆起した火山島になります。火山活動は2018年6月から継続しており、特に10月から11月にかけては今回の規模を超える大きな噴火がありました。12月22日午後9時頃に発生した津波災害の主原因であるアナク・クラカタウ火山島の噴火とそれに伴う山体崩壊により、64ヘクタールに及ぶ土砂が海に向かって滑り落ち、この山体崩壊による地滑りは海域にまで及びました。発生した津波はインドネシア中部のジャワ島、スマトラ島の沿岸部にも到達し、多くの家屋に損害を与え多数の死傷者を出しました。このとき、住民に対する津波警報は発令されず、住民は無警戒のままであったと言われています。ただし、9時頃の大きな噴火に(爆音)より、津波からの避難をされた方も少なくありませんでした。
インドネシア国家防災庁の発表によれば、2018年12月28日時点での被害は、死者426人、負傷者が7202人、行方不明者が29人、避難者が4万3386人になります。沿岸域では年末休暇の中で、多くの観光客や住民の方々が楽しんでおられたと報告されています。インドネシアでも有名なバンドによるコンサートがあり、そこでも多くの方が犠牲になられました。非常に残念です。噴火から1週間が経過しても、アナク・クラカタウ火山島周辺では斜面からの岩石、火山灰などの崩落が続き、1月になっても活発な火山活動が続いています。

*1883年クラカタウ火山島の大噴火で大規模な津波が発生し、40mを超える津波がスンダ海峡沿岸部を襲い、3万6000人を超える死者が発生しています。当時の首都バタビア(ジャカルタの昔の名前)に津波の記録が残されています。

<2019年1月6日>2019年を迎えて

昨年は災害の多い年になりましたが、今年は、災害の経験や教訓を忘れないで、災い転じて福となす年にしたいと思います。
2月に、「第2回被災地と共に考える大船渡防災・減災コンテスト」が実施されます。
大船渡津波伝承館が中心となり、岩手・宮城両県にある団体及び被災地の復旧・復興支援活動、災害に強いまちづくり支援など活動実績のある団体の取り組みを防災・減災の観点から発表し合うコンテストです。1月30日まで応募を受け付けています。

第1回の主な受賞者は;
最優秀賞:ママが支える一家の防災(まんまるママいわて)
優秀賞:私たちの町「日頃市(ひころいち)」(日頃市中学校)
優秀賞:多賀城高校の防災減災の取り組みの全国発信

3月10日には、仙台防災未来フォーラムが行われますが、今回の新たな企画として「仙台防災未来フォーラム2019アートコンクール」の募集が始まっています。
①未来の防災環境都市・仙台②マルチステークホルダー③災害が起きたら必要なもの④ビルド・バック・ベター(より良い復興)の4つのテーマでアート作品を募集しています。
5月中旬には、国連関係の会議UNISDR, Global Platform
7月中旬には、IUGG(モントリオール)津波委員会による学術セッション
11月9日~12日には、第2回世界防災フォーラムが開催されることになっています。